社説:差別的横断幕 「割れた窓」放置するな

毎日新聞 2014年03月12日 02時30分

 窓ガラス1枚が割られたことを放置してはいけない。黙っていると窓は次々と割られて社会が荒廃するからだ。私たちは人種、肌の色、性別、宗教などを理由にしたあらゆる差別が広がる前に毅然(きぜん)とした態度で立ち向かわなければならない。

 埼玉スタジアムで8日に行われたサッカーJリーグの浦和−鳥栖戦で浦和サポーター席へ入るゲートに日の丸とともに「JAPANESE ONLY」と書かれた横断幕が掲げられ、試合後に撤去された。

 意味は「日本人以外はお断り」。かつての米国やアパルトヘイト(人種隔離)政策の南アフリカで黒人らを排斥する意図で公共施設などに掲げられた「ホワイト・オンリー」を想起させる文言だ。また、試合中にはサポーターによる差別的発言があったことも判明した。

 Jリーグの村井満チェアマンは翌9日、浦和に対して徹底した調査と報告を求めるとともに差別的行為には厳正かつ毅然と対処する意向を示した。当然の対応だ。

 浦和は横断幕を掲示した人物からすでに事情聴取を始めていて、今週中に報告するという。文言の意図がどうであれ、その行為の結果責任は問われなければならない。

 近年、異なる意見や文化を持つ人たちに憎悪の言葉を浴びせたり、排斥したりするような事例が目立つ。一例がヘイトスピーチ(憎悪表現)だろう。そうした非寛容な社会の動きがスタジアムにも飛び火したとしたら極めて残念だ。

 世界各国から選手が集まる欧州リーグではサポーターを巻き込んだ人種差別的トラブルが絶えない。差別の撲滅はサッカー界共通の課題だ。

 日本サッカー協会は昨年11月、国際サッカー連盟に倣い、懲罰規定の中に差別に関する条項を追加した。差別行為をした選手に最低5試合の出場停止および10万円以上の罰金などを科すほか、クラブにはサポーターの行為についても監督責任があるとして重大な違反には無観客試合や試合の没収、勝ち点の減点などの懲罰を科すことになった。

 日常生活ではめったに体験できない熱狂や興奮に包まれるスタジアムにもルールはある。差別的横断幕のように個人の尊厳を害する行為が許されないのは言うまでもない。

 だが、スタジアムの秩序を求めるあまり、細かな規制や厳重な警備、厳しい罰則で応援の自由を縛るようなことは避けたい。見る側には自制と節度が求められている。

 サッカーをはじめスポーツが社会に発信するメッセージは強力だ。今回の事態を重く受け止め、あらゆる差別と断固闘う決意をスポーツ界からも示したい。

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