日々これ新たなり(5)「STAP細胞の発見に見る若い才能を伸ばすようになった日本の研究現場」
STAP細胞の発見に見る
「若い才能を伸ばすようになった日本の研究現場」
第3の万能細胞「STAP」を作成した理化学研究所発生・再生科学総合研究センターの小保方晴子さん(30歳)とその共同研究者の成果は、日本の科学研究現場が間違いなく様変わりしてきたことを実感させたビッグニュースだった。
ここで筆者が主張することは、小保方さんの才能の顕彰ではなく、彼女の才能の華を開かせた日本の研究現場への賞賛である。
動物の組織・器官を製造する遺伝子を備えてコントロールする細胞は、長い間、神が作った領域のものとして私たちは崇めてきた。しかし科学の進歩、平たく言えば人間の飽くなき好奇心がこの聖域を徐々に侵し始め、神の領域の扉を少しずつ開き始めた。
ノーベル生理学・医学賞を受賞した京都大学の山中伸弥教授が発明したiPS細胞は、人工的に神の領域に踏み込み、人類の手で生命活動をコントロールできることを実証して世界中を驚かせた。
小保方さんの成果は、iPS細胞の作製で難しい手法となっていた手順をきわめて簡略化し、臨床応用のときに危惧を抱かせていたがん化のリスクを低減できる可能性も示唆する画期的な手法の開発だった。
この成果は再生医療の決定打になるだろうか。そうはいかないことを筆者は自信を持って主張することができる。科学研究には、自然現象の究極的な真理の発見以外、決定打というものはほとんどない。画期的な成果の次に新たな研究テーマが提起され、その命題でまた科学者たちは必死に取り組む時間が与えられる。科学研究の歴史的な流れを見ていると、数十年単位で展開されるその繰り返しである。
多くの報道では、小保方さんの30歳という若さに焦点を当てているが、筆者はそれよりもこの若き才能を伸ばしてきた日本の研究現場の成長に、眼を見張り賞賛したい気持ちになった。山梨大学の若山照彦教授と理研という組織とそのスタッフたちは、日本の科学研究現場の近代化に大きな貢献をしたと言っていいだろう。
小保方さんがこの成果のきっかけに気がついたのは、留学先のハーバード大学で24歳のときだった。これは不思議でもなんでもない。この年代の頭脳は、過去の科学実績にとらわれず柔軟に独自の発想を膨らませる時期なのである。
20世紀最大の物理学者とされるアルバート・アインシュタインは、スイス特許局の職員をしていた26歳のときに、光電効果に関する論文や特殊相対性理論を発表している。
20世紀最大の生物学の発見とされている遺伝子の塩基配列を解明しジェームズ・ワトソンが偉大な発見をしたのは25歳のときである。
量子力学と生命科学の創始につながる偉大な業績を作った二人の天才は、かくも若き年齢でこのような成果を打ち立てた。
日本人にもいる。2002年に「生体高分子の質量分析法のための穏和な脱離イオン化法の開発」でノーベル化学賞を受賞した島津製作所の田中耕一さんが、この成果を発見したのは26歳のときだった。
「ノーベル賞をもらうほどの画期的成果」を社員が出しておきながら、島津製作所はこの成果を企業活動に生かすことができず、それを生かして産業界に貢献したのはヨーロッパの企業だった。
小保方さんの成果は、産業現場でなく学術現場でのものだが、彼女のひらめきとその実績を公正に評価し、後押ししたのは若山教授と理研の研究スタッフである。日本の研究現場は長い間、ともすれば出る杭を打ち若い才能を伸ばしきれないできた。
芽を出しかけた才能に気がつかず、みすみすつぶす結果をつながることも数多くあった。長い間、科学研究現場を取材してきた筆者は、そのような事例を多数見てきた。
しかし今回は、小保方さんの才能を認め、それを支援して画期的な成果へとつなげた点で日本の研究現場の進歩を見たと思った。
小保方さんがノーベル賞に届くような成果をだしたことは間違いない。これが本当にノーベル賞に輝くかどうかは、このSTAP細胞が臨床実験に結びつき、さらに実際に再生医療現場で数々の実績を残したときである。
常識的に考えれば10年かかる。しかし10年経っても小保方さんは40歳という若さである。日本の研究現場は、栄冠に向かってこの芽をさらに伸ばしてもらいたい。
久しぶりに美味しいお酒を飲むことができた。
有難う小保方さんとその研究仲間たち。
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- 日時:22:13
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