ダサいという言葉はいまどれくらい使われているだろう。辞書をみると、70年代に登場したらしい。かっこ悪い、やぼったい、田舎くさいといった意味である。当時の若者にとっては、いわれたくない悪口の筆頭だったように思う▼この言葉が、去年人気をよんだNHKの「あまちゃん」で使われ、名セリフの一つに数えられた。主人公アキの親友ユイが、もうアイドルをめざさない、あんなのダサいという。それにアキが反論する。「ダサいくらいなんだよ、我慢しろよ!」▼あまちゃんの音楽を担当した大友良英(おおともよしひで)さんは、アキのセリフに衝撃を受けたという。福島の高校を卒業して東京に出てきた大友青年にとって、ダサいは〈切ないくらいの呪縛力を持ったことば〉だった。岩波ブックレットの新刊『3・11を心に刻んで 2014』に書いている▼いつか都会には慣れた。ダサいといわれる恐怖を久々に思い出させたのは東日本大震災だ。かつての自分と、原発に翻弄(ほんろう)されるいまの福島が重なって見えた。ダサいという言葉に囚(とら)われる心と、福島に原発がつくられた〈土壌〉は一致している、と▼そこに共通するのは都会へのひけめ、あこがれ、そして対抗心も、だろうか。だからこそ、大友さんはアキの言葉にはっとし、〈地方と中央の関係を根底からくつがえす原動力〉を見たのかもしれない▼ドラマの中のアキは東京生まれの設定だが、ずっと方言のままだった。東京発の価値観だけにしたがって生きる必要などないのだ。
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