クラスメイトで親友の女子がおしっこを我慢していたら
テスト期間で部活がないとある日。
滝沢秋生は友人と別れてひとり、下校の途に就いていた。
車通りの多い車道に面した歩道を歩いていると、少し先の交差点を少し進んだあたりで突っ立っている女子生徒を見つけた。
(……片岡?)
それはクラスメイトの片岡有希だった。教室では秋生の隣の席にいる女子生徒である。小柄で髪の毛もそれほど長くなく、体型もブラウス・ベスト・ブレザーという制服だとほとんど凹凸も見られず、少女というより、小学生の男の子っぽく見えるときもある。
実際、有希は自分のことを「僕」という僕っ子だった。男っぽいわけではないが、女っぽくもなく、女女した女子がやや苦手な秋生にとって、話しやすい女子の一人である。
そんな有希が、歩道に一人突っ立っている。一人なのは秋生同様、一緒に帰っていた友人と別れたからだろうけれど、交差点ではなく、渡った少し先で突っ立っている意味はよく分からない。
この辺りは学校の通学路になっていて、秋生や有希以外にも下校途中の生徒はいる。彼らが不自然そうな目で有希を見つつ、追い越していく。
信号が変わって交差点を渡った秋生は、少し迷った末、有希に声をかけた。
「片岡、どうかしたのか?」
「……秋生……くん?」
うつむき加減に震えていた有希は、顔を上げて秋生の姿を確認すると、ぽつりと声を漏らした。
「お、おしっこ……」
「は?」
「トイレ……行きたい……っ」
秋生は思わず目が点になった。
……有希は何を言っているのだ?
トイレに行きたければ、行けばいいだけじゃないか。
秋生がそう思うのは当然である。が、少ししてその考えを改めさせられた。
有希はスカートのすそをぎゅっと握ったまま、身体を小刻みに震わせていた。額には汗を浮かべ、いつもは無邪気に笑っている顔をひきつらせている。
いわゆる太ももを擦り合せてもじもじするという、尿意を感じているレベルの一線を、明らかに越えているように見えたのだ。
「……もしかして、やばいのか?」
小声で聞くと、有希は無言でこくりとうなずいた。
普通こう聞かれても、恥ずかしさや意地で「大丈夫」と答えるだろう。にもかかわらず、有希は肯定した。
有希が言うには、お昼休みから尿意を感じていたけれど、友達に捕まったりトイレが混んでいたりと、タイミングを逸してしまったとのこと。たぶん大丈夫だろうと、友達と一緒に下校していたけれど、彼女らと別れた途端、ほっとしたのか、一気に尿意が襲ってきて、動けなくなってしまったようだ。
秋生はあたりを見回した。ここは車通りの多い車道に面した一本道。右手に畑、左手には住宅地が広がっている。秋生や有希同様、下校途中の生徒もちらほら見かけられる。見通しの良い畑で、女子にこっそり用を足して来い、とはさすがに言えない。
学校からも中途半端に離れていて、近くにトイレがある施設もぱっとは思いつかない。
「片岡の家は?」
「ずっと先……」
震える声で有希が答えた。ずっと、がどれくらいの距離か分からないが、有希の今にも泣きだしそうで絶望的な顔を見る限り、普通に歩いて行ったら間に合わないのだろう。
不意に、秋生の脳裏に一つの光景が浮かんだ。――間に合わなかったらどうなるのか。
スカートの上からギュッと両手で股間を抑える有希。しかしその手で抑えつけられたスカートの周りがじゅわっと濡れだして、ぽたぽたと布地の裾から、熱い液体が落ちていく。足元に水溜りを作っていきながら、有希はいったいどんな表情を見せるのだろうか……
(――って、俺はいったい何を考えているんだっ)
有希のその姿を想像して、秋生は慌ててその想像を打ち消した。
有希はクラスの女子の中では一番親しい、友人であり親友だ。その有希の粗相を想像してしまって、無意識にも興奮してしまった自分を恥じた。
「少し歩けるか?」
「……んっ」
有希は一瞬首を横に振ろうとして、縦にうなずいた。
「……よし。ついてこい」
秋生はそういうとゆっくりと歩きだした。その後を少し遅れて有希が歩き出す。
「俺のうちがすぐ近くにある。たぶん片岡の家より近いし、今は誰もいないから」
「……トイレ……借りていいの……?」
「当たり前だろ」
その言葉を聞いた有希は初めてほっとしたような笑顔を見せた。
けれどその笑顔は一瞬で、すぐに有希はつらそうに顔をしかめる。
その後二人は会話もなく、ゆっくりと歩を進めていく。本当ならもっと急ぐべきかもしれない。しかし横を歩く有希の歩幅は驚くほど小さかった。普段の無防備に歩き回っている姿からは想像できない。
おそらく、一歩歩くたびに、尿意が響いているのだろう。
下校途中の同じ学校の生徒たちが、ゆっくりと進む秋生と有希を追い抜いては、様子のおかしい有希を心配げな顔で見つめる。それを秋生は隠すようにして歩く。
「……はぁ……ぅぅ……はぁ……ぁっ」
有希が青ざめた表情で、切羽詰まった吐息を漏らす。
「あと少しだから」
有希に声をかけるが、返事はない。気休めをやめて無言で歩く。
ようやく秋生の家が並ぶ路地が見えた。だがそこに行くには、車道を渡らないといけない。あいにくと信号は赤。仕方なく立ち止まる。一刻も早く向かいたいところだけれど仕方ない。
秋生も尿意を我慢したことはあるが、辛いのは歩いているときよりも立ち止まったときなのだ。有希は大丈夫だろうか……と思った時だった。
「――んっっ。や……ぁっ」
斜め後ろの有希の口から悲鳴に近い声が漏れた。
反射的に振り返ると、有希は両手をぎゅっと、スカートの上から出口の部分を抑えていた。それは恥も外聞もない姿だった。さっきまで真っ青だった顔を逆に真っ赤に染め上げ、うつむき加減のまま、微動だりしない。
もしかして……
やな予感を覚えつつ、秋生は小さく尋ねる。
「……漏らしたのか……?」
あまりにもデリカシーのない言葉だったが、秋生自身オブラートに包んでいる余裕もなかった。
有希は無言のまま、首を横にぶんぶんと振った。
スカートの下から伸びる太ももは、これでもかと閉じられて、ぴくぴくと痙攣しているが、少なくともその部分が液体で濡れている様子は見られなかった。
おそらく、急に襲ってきた尿意をぎりぎりで抑えつけた状態だったのだろう。
秋生に見られていることに気づいた有希が恥ずかしげに手をもとの位置に戻した。秋生も慌てて視線を逸らした。
信号が青になった。
「渡るぞ」
「う、うん」
横断歩道を渡る。畑が遠ざかって、住宅街に入る。さきほどまでの車道に面した道に比べ車も人も少ない。だが周りにあるのは住宅のみ。
秋生は自分の判断が正しかったのか、悩んだ。
最悪、有希が限界を迎えても、すぐ隣の畑に逃げ込めばよかった。車や人通りがあっても、秋生が壁になって隠せたかもしれない。けれど住宅に囲まれたこの道では、逃げ場はない。もしここで有希が漏らしてしまったら……隠しようもないし、おしっこの跡も畑の土ならともかくアスファルトの上では、はっきりと残ってしまう。
「……っぅ……はぁ……ああ」
有希の歩みは明らかに先ほどより遅くなっていた。顔面蒼白で、一歩歩くたびに顔をゆがめてぎゅっと唇をかみしめている。
帰り道で出会ってから、今まで、まだ十分も経っていない。
だがそのときからすでに、限界間際だったのだろう。
それから十分。有希の様子を見ると、いまここで立ち止まって漏らしてしまっても、歩きつつスカートの中から液体が零れ落ちても、不思議ではなかった。
有希の滴り落ちる汗、小さな口から洩れる声、吐息、すぐ隣で感じられる身体の熱気。それらが普段のあどけない男の子っぽい有希からは想像できないほどの、色気を感じられた。
秋生はそれらを振り払うかのように小走りで歩を進め、有希より先に自分の家の門の前に立った。
「片岡。ここだ」
そう声をかけると、目的地を確認した有希が、ほんの少しだけ笑顔を見せた。
秋生は門を開けて有希を招き入れる。田舎で土地が安いため、一般家庭の秋生の家でも、それなりに敷地は広く、門をくぐってから、玄関まで石畳が数メートルほど続いている。
秋生は一足先に玄関まで行き家の鍵を開けようとしたときだった。
「やっ――駄目――っっ」
背後から有希の悲鳴のような声が耳に入った。
振り返ると、有希は横断歩道の時と同じように、スカートの前の部分をぎゅっと両手で抑えつけて、立ちすくんでいた。姿勢は前かがみになっていて、両足が病気のようにガタガタと痙攣している。今にも座り込みそうな様子で、いつ漏らしても不思議ではない状態だった。額に汗を浮かべ、前髪が張り付いている。
「片岡……」
「だ、大丈夫……だから……」
それでも座りかけた有希がゆっくりと背を伸ばした。もし座り込んでしまったら、きっと立ち上がることはできず、その場で粗相してしまったに違いない。はたから見てもそう断言できるほどの状態だった。
「はぁ……はぁ……ぁ……ふぁ……」
有希は荒い吐息を漏らしながら、股間を抑えた手をゆっくりと退けて、スカートの両裾をぎゅっと引っ張るようにと移した。前を抑えたままだと歩きにくいのと、手が自然と前の部分に行かないよう、抑えるためスカートの裾をぎゅっと握っているのだろう。
有希はその状態で、ゆっくりと歩きだした。
だが一歩……二歩……三歩……と進んだところで、再び有希が歩みを止めた。
「……み、秋生……くん」
紡ぎだすような声で有希が言う。
「な、何だ?」
秋生が問いかけると、有希は今にも泣きだしそうな半笑いな表情を浮かべて言った。
「た……タオル……とか……ないか……な……っ」
「はぁ?」
変な声で聞き返してしまった。いったい有希は何を言っているのか。
だがすぐにその意味を悟った。
「まさか……お前……」
有希は小さく首を横に振った。
「まだ……。でも――ごめんなさい……っ。もう……っ、僕、無理……かも……」
絶望的な笑みを有希が向けた。スカートを握る手にギュッと力がこもる。
「なに言ってるんだ。あと少しだろっ」
秋生が語気を強めて言ったが、有希は無言で首を大きく横に何度も振った。
びくびくと痙攣する両足はぴったりと地に張り付いて、もう二度と、動き出しそうになかった。
「……やっ……っはっ……んっぁぁ」
ただ有希の口から苦しげな吐息が漏れるのみである。
その姿を見て、秋生は悟った。
有希がおしっこを漏らしてしまう。
漏らすか漏らさないかの問題ではない。
いつ漏らしてしまうか。もうただ時間の問題だけになってしまったことは、秋生の目から見ても明らかだった。
それはおそらく有希も悟っていることだろう。
ただ羞恥の時間を少しでも遅らせようと、必死に抑え込んでいるだけだった。
秋生は迷った。
強引にでも有希の手を引いてトイレに向かわせるか。それとも言う通りタオルを持ってくるか。たとえトイレに間に合わなくても、タオルをスカートの中に押し当てて少し漏らすくらいなら、有希としても精神的なダメージは少ないだろうし、少し出した間にトイレに駆け込むことができるかもしれない。
だがそれは少量とはいえ「お漏らし」には違いない。
トイレまではあと少しだ。有希の失態に手を貸すくらいなら、強引に引っ張った方がいいのか。駆け込む際、少しぐらい下着を濡らしてしまうかもしれないが、この場で決壊するよりはずっといいだろう。
(って、考えている場合じゃないっ)
いずれにしろ、家の鍵を開けて扉を開かなくては始まらない。
秋生は有希から視線をそらして、ドアノブに手をかけ、鍵を開けた――そのときだった。
ぴちゃぴちゃぴちゃ……
突然、秋生の耳に飛び込んできた。
水をこぼしたような音。
秋生はゆっくりと振り返った。
「――っっ……んぅぅ……っっ」
有希はうつむき加減にぎゅっと唇をかんで、顔を真っ赤にしながら耐えていた。
その表情は、さきほどまで尿意を我慢していた時となんら変わりはなかった。
スカートのすそをぎゅっと握るこぶし。そのスカートの先から伸びる、きつく閉じられた太もも。これもさっきまでの光景と同じだった。
――だが、その足元に、小さな水溜りができていた。
「……っぅ……ぃ……やぁっ……」
有希の口から弱々しい泣き声が漏れた。
ぴちゃぴちゃという音を立てながら、水溜りの上に黄色い液体が流れ落ちていく。きつく合わさった膝の先から零れ落ちる液体は、有希の白いソックス・スニーカーを染め、玄関先の石畳の上に水溜りを作っていく。
有希のすすり泣くような声を、ぴちゃぴちゃという水音が掻き消していく。
「……み……秋生……くん。……み、見ない……で……」
有希の声を耳にして、秋生は慌てて有希に背を向けた。
本来なら、すぐにタオルを取りに行くべきだったろう。
だが秋生の足は動かなかった。動けなかった。
クラスメイトの、有希の失態を背中で感じながら、秋生はその場に立ちすくんだ。
ぴちゃぴちゃという音は、永遠と思われるほど続いた。
音がやんだ。
秋生は迷った末、振り返った。
有希の足元には、本当に有希の身体から出たのかと疑うくらい大きな水溜りができていた。本当に限界まで我慢していたのだろう。その水溜りは雨とは明らかに違うことが分かるくらい、黄色く目に映っていた。
白いスニーカーとソックスはぐっしょりと濡れ、手で押さえていたスカートの裾にも、不自然な濡れた染みが付いてしまっていた。
秋生は、水溜り、足元、スカート、とゆっくりと視線を下から上へと移していき、ついに有希と目が合った。
「あ……はは……ごめん。……我慢……できなかった」
有希は、瞳に涙を浮かべつつ笑っていた。泣き崩れてもおかしくない状況なのに無理やりでも笑顔を見せたのは、有希なりに秋生を気遣ってのことだろう。
「片岡……」
有希の言葉を聞いて、秋生はようやく、有希がおしっこを漏らしてしまったことを理解した。目に焼き付いた光景は、それほど現実味がなかった。
他人のお漏らしを見たのは初めてではない。小学校のとき全校集会でクラスメイトの女子が失禁してしまったのを目撃したことはある。だが、そのときは周りがざわめいて、彼女が漏らしてしまったことに気づいただけで、実際漏らしている場面を見たわけではない。それにその女子とはクラスメイトというだけで会話はほとんどなかったし、当時は男子女子という意識もあまりなかった。
だが、今目の前で起こった光景は、それとはまったく違った。
女子を異性として意識するようになって、その中でも一番親しくよく会話を交わしていた有希が、秋生の目の前で、彼が見ている前で、おしっこを漏らしてしまったのだ。
衝撃を受けて何の反応もできない秋生を見て、有希が寂しげに笑う。
「本当にお漏らししちゃうなんて……変だよね。……ごめん。どうしよう……これ……」
有希は水溜りの中央から一歩も動こうとはしなかった。
失禁は止まっても、おそらく濡れた下着にたまっているであろう液体が、いまだに太ももを伝わっており、プリーツスカートの裾からも、ぽつぽつと、雫が落ちている。動いたらさらに玄関前を汚してしまう。そんなことを考えて動けないのだろう。
「……とりあえず。これを綺麗にしたら、帰るから……」
有希のその言葉に、秋生はようやく我に返った。
「待てよ。そのまま帰るつもりかよ」
「だから水溜りを綺麗にして……」
「じゃなくて、服濡れて足も汚れたまま家に帰るのかってこと」
「それは……」
「うち、今誰もいないから。シャワー浴びてけよ」
「で、でも……」
有希がためらう。それを見て秋生は理解した。
「……その、警戒する気持ちは分かるけどさ……」
親が不在の男子の家に、誘われて上がり込んで二人きりになるだけでなく、さらにシャワーまで借りる。年頃の女子なら当然、その男子の下心を疑わないことはないだろう。
けれど、だからと言って有希をこのまま返すわけにはいかない。
「え? 警戒……」
けど有希は秋生が何を言っているのか分からないといった様子で首をかしげた。
「その……僕、おしっこで濡れちゃってるし……家に入ったら……汚しちゃうから」
「んなこと気にするなっ」
秋生は語気を強めて言うと、一歩前に出て、有希の周りにできた水溜りに足を踏み出し、有希の手をつかんだ。
「いいから。このまま突っ立ってたって風邪ひくだけだし、早くしろ」
「う、うん」
強引に手をつかんで引っ張ると、ようやく有希は前に一歩踏み出した。
余計なお世話だったかもしれない。そんな思いがよぎった秋生の耳に、「……ありがとう」という有希の小さな声が届いた。
お読みくださりありがとうございました。
一応続きがありますが、内容が変わってしまうため、別の話として後日登校する予定です。
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