わさっき RSSフィード

2013年12月16日

[] 面積かけ算ダイジェスト2013

ちょうど9か月前のツイートですが,先日,@さんに,お気に入り登録をされました.ツイートを経緯とともに読み直したものの,個人的には釈然としない内容ですし,「「横×縦」は不正解にも減点に」の直後に「も」が抜けているなあと思ったりもします.

それで@aman_GTさんのツイートを見たところ,北海道で小学校の先生をなさっていること,教科書や教師用指導書やテスト問題にアクセスできることなどが分かりました.また「基準量が後に示された問題」については,「掛順ひっかけ問題」という名称を用いています.

いろいろな点で当方と,学校について,指導について,学校の外について,認識が異なるのですが,ともあれこうしたご縁ですし,こちらで持っている情報を書き出し,リンクしておくことにします.

文章の後半では,箱囲みで3つのお話が登場します.

  • 縦が4m,横が¥frac{3}{5}mの長方形の面積は何m^2でしょう.
  • 4m^2の¥frac{3}{5}倍は何m^2でしょう.
  • 1dLで4m^2ぬれるペンキがあります.このペンキ¥frac{3}{5}dLでは何m^2ぬれますか.

このうち,子どもたちの反応として「かけられる数とかける数が入れ替わっても大丈夫」としているのは,長方形の面積のみです.2番目(倍,同種の量の割合)と3番目(異種の量の割合)では,そうなっていません.

面積かけ算ツアー

素朴な疑問として,「長方形の面積の公式はなぜ『たて×よこ』なのだろうか」があります.

そうすると,次の疑問は,「『よこ×たて』でもいいんじゃないか」としたいところ.

なのですが,この論文の最初の2ページを読むと,そうではなく,「英語ではLength×Widthと表せるが,このLengthが『たて』,Widthが『よこ』になるのだろうか」となります.

その疑問の答えは,“否”です.長い方がLength,短い方がWidthです.(略)

長方形の面積,数直線でかけ算わり算
  • xが,a,bのどちらとも同じ性質ならば,そのa×b=xは「数×数」です.
  • xが,a,bのいずれか一方とだけ同じ性質ならば,そのa×b=xは「量×数」です.
  • xが,a,bのどちらとも異なる性質ならば,そのa×b=xは「量×量」です.

上のそれぞれに属する例を一つずつ,示します.

  • 机の問題:教室の机は1列に6つずつ4列ならんでいます.机はみんなでいくつありますか?
  • りんごの問題:さらが 5まい あります。1さらに りんごが 3こずつ のって います。りんごは ぜんぶで 何こ あるでしょう。
  • 長方形の面積:縦3cm,横7cmの長方形の面積を求めなさい.
積・倍・積〜新たなかけ算のサンドイッチ

昨年,「親として,我が子はこうあってほしいと願う権利がある一方で,学校や親の要求に対して自分なりに調整し,その都度「答えを出していく」のは子ども自身である」と書きました.そう思うようになった一節を,抜き出します.

もう40年以上も前のことですが,筆者は子ども算数の教科書を見ると単位をつけていないので,これでは数学ができなくなってしまうと思い,自宅で教えるときは式には単位をつけることを要求しました。上の男の子は私が相手のときは単位をつけ,学校ではつけないと使い分けました。結局両方でマルを貰っていたわけです(これはあとで知ったことです)。一方,下の女の子は頑固に学校の先生の方針に従い,私のいうことは聞こうとはしませんでした。案の定,上の男の子の方が数学の実力はつくようになりました。

その結果はどうなったかというと,ともに東京大学入学できましたが,男の子は理学部数学科に進学したのに対して,女の子は教養学部教養学科でした(もっともこの女の子も今は高校の数学教師をしていますが)。

面積図は門前払い

編著者2名のプロフィールには,共通して「北海道算数数学教育会」が書かれています.奥書の一つ手前,執筆者一覧では,監修者を除く全員の所属が,「北海道教育大学」または「札幌市立」から始まり,「小学校」を含みます.といったわけで,北海道の算数指導に携わる先生方の間で,本にする価値のある指導内容が取りまとめられた,と思ってよさそうです.

「どっちの式でもいいのかな」は,pp.52-55の4ページです.p.52は文章による解説,p.53は「アイディアシート」による,授業指導のための構図,そしてpp.54-55の見開きで,板書例や指導上の注意が記されています.

その4ページで,コアとなる出題は:

3まいのおさらにりんごが6こずつのっています。りんごはぜんぶで何こですか。

これを,「「あれ?」を生む問題」としています.(略)

どっちの式でもいいのかな - 北数教

前者にアクセスすると…6学年4領域の表で,学習指導案PDFファイルにリンクされています.

(略)

ともあれ,北数教の指導集を読んだ限り,3年まで,乗法の意味を重視した指導をしていると,見なしてよさそうです.

ジェットコースター問題,論争になっている問題,学習指導案から思い浮かぶ算数の授業…それらを結び付けて言うなら,「一つの問題(場面)に対し,複数の答え・反応が考えられる」という点でしょう.(略)

北数教の指導集

4年で「どちらでもいい」を見かけました(p.54).

○○○○○○
○○○○○○
○○  ○○
○○  ○○
○○  ○○

という配置があって,○の総数を求めること…が問題ではなく,式が添えられています.4人の子どもたちの式があって,①は10×2+4です.「どのように区切って考えたのでしょう。区切りの線をかきましょう」と出題しています.

それを踏まえて,次の問題です.

f:id:takehikom:20130425064606j:image

長方形配置だから,4×6でも6×4でもいいはず…解答を見ると(p.115),「4×6または6×4」となっていました.

算数の学習プリント

かけ算の意味を定着させるための指導には,かける数を先に書く文章題の他にも方法があり,また英語の文献でも見ることができる.それは,a×bとb×aの違いを学ぶことである.

まずは教科書を見ておこう.東京書籍2011年度版では,「えんぴつを 1人に 2本ずつ,5人に くばります。えんぴつは,ぜんぶで 何本 いりますか。」と「えんぴつを 2人に 5本ずつ くばります。えんぴつは,ぜんぶで 何本 いりますか。」を並べて提示している[Link 14J].いずれも2が先,5が後に出現しているが,状況は異なる.そして順に2×5,5×2と式に表すことが期待される.後者は,かける数が先の文章題でもある.したがって,このペアで式の違いを学習したあと,りんごの問題に「5×3」と書いた児童には,これは「えんぴつを 2人に…」の問題と同じ,と復習することができる.大日本図書による同年度の教科書にも,同様のペアがある[Link 15J].

ここからは海外の文献を見ていく.AnghileriとJohnson [Anghileri 1988]は,4つずつキャンディを持っている3人の子どもたちは,3つずつキャンディを持っている4人の子どもたちよりも幸運であるという例を使って,「4が3つ」と「3が4つ」の違いを説明している.交換法則についても,それは数の性質であり,3×4が4×3と等しいのは事実だが,日常生活においてそれらが同じとは限らないと述べている.

a×bとb×a

日本は教育先進国であり,教育コンテンツや指導法の輸出国でもある[Link 16J].算数の教科書を東京書籍と啓林館が英訳して販売しており[Link 17J][Yoshida 2009][Link 18J][Link 19J],日本の算数教育に関心のある外国の教師・研究者や,海外在住で将来日本に帰国する児童が活用している.

しかしかけ算の順序を含め,日本の方式をそのまま海外に浸透させようというのではなく,各国の言語や文化に対する配慮も見られる.例えば馬場卓也[馬場2002]は,タイ語のかけ算の自然な語順は日本語と同じであるが,教科書の式は英語と同じという観察から,学習者の認知的な負担を指摘し,他の事例と合わせて,教育の国際協力におけるカリキュラム開発の注意点を提示している.また筑波大学とメキシコ教育省の共同事業によりスペイン語の教師向け指導書が作成され[Isoda 2009],その理論的検討においてxj(xにjを下付き文字で添えた記号)を日本式のかけ算の記号とし使用し,日本語とスペイン語でのかけ算の式の違いを考慮している.

日本の算数教育の特徴

 かけ算の文章題で、幾つ分にあたる数が先、基準量にあたる数が後ろに書いたものを、「基準量が後に示された問題」といいます。

 小学校の授業や学力調査では、数の出現の順序を逆にして、かけ算の式にしたものが正解とされます。出現順に書いたかけ算の式は、「問題に出てくる数を頭の中にいったん収めて,演算の決定に導くように問題の場を組織だてる力が欠けている」「かけ算の意味を正しく理解していない」とみなされます。

用語:基準量が後に示された問題
  • 「かけられる数」と「かける数」の区別を重視します.最初は,それらを黒板の式に吹き出しに載せ,子どもたちにも書き写させます.
  • 囲みで〈ポイント〉として,「5×8と8×5との区別をする」(p.69),「あとあと,2×8と8×2との区別をするためである」(p.73)と書き,「何このいくつぶん」を徹底しています.
  • pp.76-77では,「おかしのはこが4つあります。1つのはこには,おかしが5こずつはいっています。みんなでなんこになるでしょう。」という教科書からの問題を取り上げ,「かけられる数とかける数が入れ替わった文章題」を扱います.問題解決学習だとここで,「4×5=20」と「5×4=20」の式を出させて比較するところ,本文では「4×5=20」が出ることなく,板書の図を書き写させて,「5×4=20」へと導いています.
  • pp.78-79(かけ算①の最後の見開き)は,作問の授業です.教科書の出題は,「下のえを見て,3×4のしきになるもんだいをつくりましょう。」です.子どもたちが問題を作ったら,先生はそれを見て,寸評とともに「4点」「1点」「10点」といった個別評定をします.「10点」でなければ作り直します.2〜5の段のかけ算へと広げて、同様に子どもが問題を作り,先生が個別評定をしていくと,そのうち「12点」という点数が出て、子どもたちはびっくりします.それは「前時にやった「かけられる数」と「かける数」が入れ替わった文章題」です.
向山型算数授業法事典 小学2年

 間違いのパターンには大きく分けて2種類があります。一つは、2つの数量を単純に並べ、「かけるといくつになるでしょう」といった形の問題にすることです(「ペアはいくつできるでしょう」のように、直積に基づいたものであれば、正解となるのですが)。

 もう一つは、かけられる数とかける数の意味の間違いです。その場合には

  1. 子どもが、かけられる数とかける数が反対の文章題を書く
  2. 先生は、その文章題を式と照合させる(図を描かせることも)
  3. 子どもが反対だと気づいて、文章題を作り直す

という展開が見られます。

用語:作問

もう一つの主張を,取り上げます.「かけ算には本来,順序がない」における「本来」を,「長方形に基づけば」と読み替えるものです.

長方形は連続的な“積”のモデルですが,離散的なものもあって,数学的には直積算数教育においてはアレイ図です.かけ算の導入となる小学校2年でも,アレイ図が活用され,交換法則や分配法則を理解するのに役立てられています.アレイが直積に基づくこと,またそれに対する日本のかけ算指導のスタンスは,中島1968bの文献に記されています.

直積という言葉を用いないにしても,この方針もまた,算数教育において問題点が指摘されています.

いままでの

    「タイル×タイル」

というのは,子どもにはなかなかわからない。

    「外延量×外延量」

という計算は,面積などにたしかにあるわけです。しかし,それは一般性をもっていなくて,非常に特殊な物です。それでやはり,

    総量=内包量×容量

という考えに変えたわけです。

(『遠山啓エッセンス〈3〉量の理論』pp.154-155)

(略)長さや重さなど,量を含んだかけ算の場面・問題に対し,かけた結果がどんな量で,答えにどんな単位を添えればいいかまで,考える必要があります.被乗数と乗数をともに「因数」として区別しない方針は,その解決を遠ざける方向に向くように思うのです.

かけ算には本来,順序がない

「なぜかけ算に順番があるという指導をしているのか」という疑問への答えが見当たらない,というのなら,そこは,日本の算術算数,また国外の事例をもとに,多数の実践例および学術的な根拠を見ていき,頭の中で再構成を図るなり,まとまった文章として取りまとめるのが,しんどいけれど避けられないのかなと思っています.当ブログの記載内容は,現時点でのその帰結です.

*5:繰り返しますが「数学教育学」における根拠であり「数学」ではありません.とはいえ最後の節で参考文献のみ挙げた「量の理論」も,かけ算の順序,より正確には2つの因数に当たるものの区別を前提として,構築されているのですが.

ツイート感謝

2013年11月30日

[] ウサギの耳にリボンを付ける

#掛算 「掛け順擁護派」の人に質問があります。質問は添付画像にまとめました。掛け順擁護派の方がこのタグにいらっしゃらなければ、掛け順擁護の場合の答えが分かる方でもいいです。宜しくお願いします。

下記のような問題があった場合、問3の答えについての質問です。

【問題】ウサギが3匹います。全てのウサギの左右の耳に、それぞれに1本ずつリボンを付けました。

 問1:右耳についているリボンは合計何本ですか?

 問2:左耳についているリボンは合計何本ですか?

 問3:リボンは全部で何本ですか?掛け算の式を使って答えてください。

質問1:問3の式は、3×2 と 2×3 のどちらが正しいのか?

質問2:問1・問2が存在しない場合は、問3の式は、3×2 と 2×3 のどちらが正しいのか?

http://p.twipple.jp/iZlYD

誘導に従うと,

  • 問1:3本
  • 問2:3本
  • 問3:(3+3=6,としたいけど,「掛け算の式」にしないといけないので)3×2=6 答え 6本
  • 質問1:問1〜問3の誘導の仕方から,3×2を答えさせる意図があるように見えました.2×3も正解とするかどうかは,採点者次第です.自分が採点者なら,正解・不正解ではなく,解答類型(3×2と答えたのは何%,他の式は何%,など)を作り,他の出題にも答えてもらいながら,各解答者の思考過程を探りたいものです*1
  • 質問2:かけ算の意味を問う出題としては洗練されていないように思います.直積を背景としているようなので,どっちでもいいんじゃないでしょうか.

問題文ですが,真っ先に,ウサギにリボンを付けるという行為(を思考実験であれ小学生に提示すること)が適切なのかという疑問が浮かびました.実際,Googleで調べると,次のとおり,してはいけないという記述が複数,見つかります.

耳の壊死

 どんなにかわいくても、またかわいくしたくなっても、耳にリボンやかざりをつけるのはやめましょう。

ウサギの耳って

ウサギの耳にリボンはしないでください。

たまにかわいいからとうさぎの耳にリボンを付ける飼い主さんがいますが、この行為は耳の血行不良を引き起こしてしまいます。

リボンをつけたままにしていると耳の先っぽがうっ血してしまい腐ってしまったりしますので絶対にうさぎの耳にリボンやゴムなどは、やめてください。

小さいお子さんがいるお宅では特に気を付けましょう。

うさぎの耳血種

リボンを付けるのでなくても,ウサギの耳でかけ算を考えるのは,古いなあという認識を持っています(「タイル×タイル」というのは,子どもにはなかなかわからない「掛け算順序問題の画期的な解決方法」が画期的に見えない).ウサギの耳とかけ算の式の多様な解釈については,片耳あたり3本の両耳分で書いてきました.


質問2の回答に書いた「洗練」には,元ネタがあります.

Cartesian products provide a quite different context for multiplication of natural numbers. An example of such a problem is

If 4 boys and 3 girls are dancing, how many different partnerships are possible?

This class of situations corresponds to the formal definition of m × n in terms of the number of distinct ordered pairs that can be formed when the first member of each pair belongs to a set with m elements and the second to a set with n elements. This sophisticated way of defining multiplication of integers was formalized relatively recently in historical terms.

(Greer, B.: Multiplication and Division as Models of Situations. isbn:1593115989 p.277)

最後の文にある「sophisticated」は,「洗練された」と訳したいところですが,文全体にネガティブな意味合いがあるので,「凝った」あるいは「上品ぶった」と訳すのがよさそうです.「formalized relatively recently(比較的最近になって定式化された)」なのに「in historical terms(歴史的な用語の中で)」というのはどういうことかというと,直積,あるいは〈乗数と被乗数を区別しない文脈〉を用いたかけ算の意味づけを,1960年台にSMSGが提唱し,のちに破綻したというのがあって(アレイ図),それを控えめに表現したものだと推測できます.

「a quite different context」とあるので,他のcontext(文脈)があり,この引用よりも前に書かれているのは,容易に想像できると思います.少し探せばすぐに見つかりますので,ここでリンクを張るのは,差し控えます.


冒頭の,ウサギの耳にリボンをつける話が「直積」であるというのは,次の文章を連想するからです.

f:id:takehikom:20111125064251j:image

(『誰もができる子どもに活用力をつけるワクワク授業づくり―第2回RISE授業実践セミナーの報告』p.69;デカルト積のピクトリアル

自分なりにアレンジしたものだと,次のQ&Aです.矢印の向きにも,意味があります*2

Q: 4色セットのボールが3組あったら掛算はなんて書く?

A: 4×3でも,3×4でもいいのではないでしょうか.かけ算で表される場面のうち,直積デカルト積とも言います)に基づくからです.

(略)

日本の小学校の算数において,4×3および3×4というかけ算の式と,囲い込みの有無を考慮したいくつかのアレイ図との対応関係は,次の図のようになります.

f:id:takehikom:20130511071322j:image

「×」から学んだこと 13.04―かけ算の意味・式の意味

冒頭の質問2の「3×2 と 2×3 のどちらが正しいのか?」は,4色セットのボールが3組の場面と同型なように見えます.ですので新規性も有用性も見出せません.

有用性を別の言葉にしておきましょう:問1〜問3,あるいは問3を子どもたちが解くことで,何が分かるのでしょうか.あるいは,何を学習した状態でそれらの問題を解くのがよいのでしょうか.出題の「ねらい」が明示されておらず,推測も困難なので,学校や家庭で使ってもらうというのは,難しいのではと思っています.

単一の場面から,かけ算を使った複数通りの式を答えさせるというのに関しては,東京都算数教育研究会が2年おきに実施している学力実態調査の,次の問題が面白いです.複合図形(の面積)のアレイ版です.

f:id:takehikom:20130420193305j:image

この図は,平成22年度実施分です.最新(平成24年度実施分)は,http://tosanken.main.jp/data/H25/happyou/20131018-7.pdf#page=6で出てきます.論争になりがちな文章題も,同じページにあります(6年は鉄のぼう,2年はみかん).


途中から,書き方としてはケチをつけてばかりになっていますが,実際のところは,既知のかけ算の指導や出題と照合して検討するという,またとない機会を得たと感じています.@さん,興味深い問題のご提案,どうもありがとうございました.

*1:となると自分は,採点者・評価人ではなく,分析者・調査人になるのですが.

*2:A→Bは「AならばB」に対応し,「BならばA」は含まれません.

2013年10月02日

[] かけ算の順序の論点整理

先月末に見かけた3つの事例を,かいつまんで報告します.

  • 2013年9月15日に発売された『小二教育技術 2013年 10月号 [雑誌]』のp.62では,かけ算九九でうまく立式できないというつまずきを防ぐため,「4まいの おさらに 3こずつ リンゴが のって います。リンゴは ぜんぶで 何こ ありますか。」という問題を用いた,授業の工夫を提示しています.同ページの図では,男の子が「簡単だ! 4×3=12 答えは12個だよ。」,女の子が「そうかしら…。3×4=12じゃないかしら。」と言っています.問題文を皿にリンゴが乗った図(絵)に表すことで,男の子は「そうか」と手を叩き,3×4=12になることを理解します。先生のまとめのセリフには「かけ算は、(1つ分)×(いくつ分)」とあります.
  • 2013年9月に刊行された『マニュアル授業から脱却する! 算数のクリエイティブ授業 7の仕掛け・30の演出』のp.45では,「1つの箱に,りんごが5個ずつ入っています。8箱では,何個になりますか。」という問題文をもとにした,授業の組み立てを提案しています.「5×8=40(個)」「8×5=40(個)」の式を,子どもたちの発言から拾い出し,子どもたちに比較・討論させることで,「5個の8つ分」と「かけられる数の単位と答えの単位とが同じになる」などが,かけ算の式に関する気づきになると指摘しています.
  • 2013年9月27日,掲示板の報告によると,京都府総合教育センターの単元指導パッケージのうち,小学校算数2年のかけ算の指導に問題があると,一人の府民が問い合わせ,「他の筋の通った考え方で説明できる計算式を『正しくない』と否定すること」を不適切と認め,当該パッケージ*1を削除しました.この報告は,じぇじぇじぇ!朗報! 京都府教育委員会も掛算順序固定の見解を撤回!|メタメタの日でリンクされています.

先々月に,かけ算の順序論争は,「このように解釈できるから,その式は間違い」と「このように解釈できるから,その式は正しい」の衝突であると記しました(片耳あたり3本の両耳分).衝突と書きましたが,それらには「式(の読み)の多様性」という共通点があります.

上の3例にもまた別の共通点が見えます.「場面(文章題)に対応するかけ算の式は一つだけなのか」という問題意識です.

問題意識は共通でも,展開は違ってきます.雑誌・書籍から見てきた前二者では,かけられる数とかける数とを交換した2つのかけ算の式を,「場面(文章題)に対応するかけ算の式の候補」として示しています.それから---これまで学習してきた内容をもとに---そのうちの一方が正解で,もう一方は「場面に合わない」と判断する,という流れになっています.結論として,その種の文章題では,正解となるかけ算の式は「一つ」です.

府民の問い合わせの件を読んでみたところ,根拠として,いわゆるトランプ配りと,言葉の式の交換法則を,記載しています.トランプ配りは『授業に役立つ算数教科書の数学的背景』(2013年はトランプ配り),言葉の式の交換法則は『数とは何か? (BERET SCIENCE)』(優しい本)により,算数教育に関わる大学教員も根拠付けに採用しているのを今年,見てきました.それらに依拠するなら,正解となるかけ算の式は「二つ」です.

とはいうものの私自身は,前二者すなわちかけ算の式は1通りのみとし,逆に書いたら間違いとする指導に,賛同します.理由は主に2つあって,一つは,「一つ分の大きさ×幾つ分」が,乗法構造の理解において最も基本となっているから,もう一つは,ある場面に対して解の候補を複数挙げ,比較検討を通じて結論を得る(候補の中から一つを選ぶ)という活動に期待を寄せているからです.


「かけ算の順序」あるいは「乗法の意味の理解」に関して,これまで当ブログほかで書いてきたことを整理し,一つのまとまった文章にするには,どのような構成にすればいいか,少し考えてみました.

以下は章立て案です.今後,何度か改訂する予定です.主要な過去の記事などにも,リンクしていきます.

  • はじめに
  • かけ算の順序論争:概観
    • 6×4,4×6論争:遠山(1972)の視点 * * *
    • インターネット上の論争
    • Wikipedia「かけ算の順序」 * * * *
    • 他の事例 * *
  • かけ算の指導の状況
    • 各学年の学習事項
    • かけ算の導入
    • 基準量が後に示された問題 *
    • □×△と△×□,答えは同じだけど,意味は違う
    • 逆に書いても正解
      • アレイ
      • 直積 *
      • 高学年 *
    • 指導
      • 問題解決学習 * *
      • 作問 * *
      • 条件過多・条件過少・逆思考
      • 1あたり *
    • 評価
      • 診断的評価・形成的評価・総括的評価 *
      • 学力調査・学術調査
    • まとめて数える
  • かけ算の「順序」考
    • 被乗数×乗数,乗数×被乗数 *
    • 交換法則
    • 結合法則 *
    • 計算の順序
    • 九九
  • 乗法構造 *
    • 構造とは *
    • 1970年代の乗法構造:森,銀林
    • 1983年と1988年の乗法構造:Vargnaud
    • 海外に見る乗法構造:Anghileri,Greer,Schwartz
    • 算数教育への影響:中島(1968b),遠山(1979) * *
  • 倍と積 * * *
    • 倍のかけ算
    • 積のかけ算
    • 倍指向と倍の乗法
    • 積指向と積の乗法
    • 積と倍の相互変換
    • 教育に携わる人々の見解 *
  • 式に単位をつけるべきか * * *
    • つけない:数の演算
    • 何の何倍
    • パー書き
    • 単位は量:3mはm×3
    • 歴史的に見ると *
  • 日常生活のかけ算
    • 概要 * *
    • 金額表記 * *
    • 物品の数量表記 *
    • 寸法および画面解像度 *
    • もの×もの
    • 海外では *
  • かけ算の支援ツール
    • 九九の表
    • 累加・3口のたし算
    • サンドイッチ
    • 1あたり・内包
    • トランプ配り
    • アレイ * *
    • タイル
    • 面積図
    • 関係表 *
    • 数直線・二重数直線
  • これまでの取り組み
    • 出題例の収集 *
    • Q&A *
    • 九九文章題ジェネレータ *
    • 小話集 *
  • おわりに

(最終更新:2013-10-21 晩)

*1:通し番号に抜けのある「39」と思われます.

2013年06月21日

[] 第2用法 その後

今年の1月29日リリース,とのこと.あのころはというと,算数の教科書とその指導書の問題点に対してRe: 算数の教科書とその指導書の問題点を書いたものでした.同月にかけ算の式と言葉の順序 メモ海外のかけ算のQ&Aを取り上げると,@genkurokiさんのツイートで言及があったあと,翌月にご自身のサイトに付け加わっていたのも,ぼんやりと覚えています.

さて,冒頭のリンクには,途中で,第2用法にリンクされています.リンクに感謝,の一方で,2011年7月から現在までの間に,いろいろ情報を見てきておりますので,振り返ってみることにします.


8人に鉛筆をあげます。

1人に6本ずつあげるには全部で何本いるでしょう。

「8×6=48」と答えた方、小学校のテストではバツになるかも知れません。

私の関心 - 掛け算の順序

に対し,

一人ずつ呼び出して6本ずつ渡していく方法をとれば

6×8

が正しいことになる。

だが、6色の色鉛筆を配るのに、赤を8人に配り、青をまた8人に配り、同様にして6色、すなわち6本ずつ配る場合には、

8×6

が正しいと言えよう。

私の関心 - 掛け算の順序

と進めていますが,「一人ずつ呼び出して6本ずつ渡していく」と「6色の色鉛筆を配るのに、赤を8人に配り、青をまた8人に配り、同様にして6色、すなわち6本ずつ配る」は,算数教育において異なる場面設定とみなされます.

後者について,「6色の色鉛筆」という情報を追加し,配り方を指示しているのには,その背景に直積デカルト積)があります.配り終えたのち,色に着目すると,1色につき8本,それが6色あるので,8×6=48という式を書くことができ,受け取った人に着目すると,みな6本ずつ持っていて,8人いるから6×8=48という式が得られます.

1つの場面に対して2つの(かけられる数とかける数を交換した)かけ算の式が得られることは,日本の算数でも認識されており,デカルト積のピクトリアルにいくつか事例を載せています.

直積で表される対象は,「『一つ分の数』×『いくつ分』」に帰着させて立式することが可能です.そのことは,1960年代の文献で,数学教育の現代化運動に関連して指摘があり,ここで主要なところを引用しています.図はアレイ図(2. 最古のアレイ図?)に載せています.

ただしその文献では,1つのアレイ図に対応するかけ算の式は1つだけです.2つの式になるのは,『一つ分の数』の取り方が2種類あるからです.『小学算数なっとくワーク2年生』の中の出題で,2行8列の長方形配置から2×8=8×2を導いています(1, 2).

「一人ずつ呼び出して6本ずつ渡していく」には,直積が現れません.累加で「6+6+6+6+6+6+6+6」,あるいはそれをかけ算にして「6×8」と書くことができる,という次第です.

配り方については,いくつか指導や出題の例があります.比較的最近のものを挙げると,『活用力・思考力・表現力を育てる!365日の算数学習指導案 1・2年編』では「子どもが3人います。みかんを1人に2こずつあげます。みんなでなんこいりますか」を出題し,「1個ずつ置くか,2個ずつ置くかという置き方ではなく,置いた結果に着目させる」を,指導上の留意点として挙げています.また東京都算数教育研究会の学力調査では,「子どもが 3人 います。みかんを 1人に 4こずつ ふくろに 入れて くばります。くばる みかんの 数を もとめる しきを かきましょう。」と細かく指示しています(詳細).

そのような問題設定から,『一つ分の数』を発見することが,授業を通じて学習され,テストで問われてきたわけです.


一方、2%の食塩水100gの中にある食塩の量は

100X0.02=2

0.02X100=2

のいずれが正しいのだろうか。

2%というのは、0.02倍のことだから100gの0.02倍で 100X0.02=2 と考えることができる。

しかし、一方で2%というのは、1g中に0.02gある食塩を表わしているのだから、その100倍で 0.02X100=2 と考えることもできる。

『一つ分の数』×『いくつ分』の順序を採用してなお、二つの順序がありうるわけである。

私の関心 - 掛け算の順序

この2つの式と論拠について,「順序」とは別に,注意したい点があります.「100X0.02=2」と書いたときの100は食塩水の質量,2は食塩の質量に対応します.一方,「0.02X100=2」については,0.02も2も食塩の質量ですと見ることができます.

実のところ,異なる種類のかけ算となっています.

ではどんな種類のかけ算があるのかというと,かけ算の「構造」や「モデル」として国内では1970年代,海外でも同時期から1990年代にかけて検討がなされ,論者によってさまざまな分類が提案されてきました.

この食塩の話に近く,2年生向けのものとして,次の出題があります.

コニーは4個のおもちゃの車を買いたい.1個は5ドルする.いくら払わないといけないか?

1988年のmultiplicative structures

日本で,2〜3年生に出題するなら,5×4=20のみが正解となるはずです.この問題を提示した(著者の)Vergnaudは,「5ドルが4つ」あるいは「5ドルの4倍」で考えると5×4=20となるとした上で,おもちゃの車の個数「4個」を先に思い浮かべ,「1個5ドル」という単価をかけることで,20ドルになると考えれば,4×5=20という式にもできることを述べています.

とはいえ「4個×1個5ドル」という考え方も式も,日本の算数(の低学年)では採用されていません.理由としては,そういった関数関係に基づく乗法の理解は,かけ算の導入時(2年)では困難であること,4×5を累加で4+4+4+4+4と書くと,(Vergnaudも指摘しているとおり)おもちゃの車が20個という意味になってしまうこと,「(単価)×(個数)」で小中の学習指導要領解説は一貫していることが挙げられます.


100ボルトの電圧のところを2アンペアの電流が流れると200ワットの電力が生ずる。

という問いの場合、もはや『一つ分の数』×『いくつ分』の定義では解釈が困難だろう。

私の関心 - 掛け算の順序

これについても,科学計算で使われるかけ算のいくらかは,『一つ分の数』×『いくつ分』とは異なる構造・モデルに基づいています.

名称としては「量の積」です.Greerによる,乗法・除法が用いられる場合の最後のほうに入っています.本からだと,『算数・数学科重要用語300の基礎知識』p.187(乗法の意味)の中で,「(3)量の積に基づく乗法」として解説されています.量の積の特徴を一言でいうと,かけられる数・かける数のいずれとも異なる単位になる量を,かけ算の答え(積)として得るという点です.

とはいえ,『一つ分の数』×『いくつ分』のタイプのかけ算と,(電力は厄介なので)「面積」のタイプのかけ算との間には,先人によってリンクづけがなされています.例えば1970年代に出た本ですが『量と数の理論 (1978年)』は数学の道具立てを使って書かれています.それと同趣旨で小学校向けの内容が,学習指導要領解説に示されています.

ところで先ほどの,食塩の量を求める式のうち,「100X0.02=2」はGreerの分類の中でPart/whole(全体と部分の関係)に位置します.食塩水が全体,食塩が部分に当たります.一方「0.02X100=2」はRate(率,変化率,割合)になります.「0.02[g/g]×100[g]=2[g]」を「0.02[g]×100=2[g]」(一般には,「a[d1/d2]×b[d2]=p[d1]」を「a[d1]×b=p[d1]」)に置き換えられるのが,割合のかけ算の特徴と言えます.


6×8=6+6+6+6+6+6+6+6

と書いたが、英語圏やドイツ語圏では  wikipedia に見られるように

8×6=6+6+6+6+6+6+6+6

と定義されているようだ。

日本で 6の8倍と称する概念は、英語では 8 times 6 、ドイツ語では 8 mal 6 と表現することに由来すると考えられる。

30数年前ドイツに住んでいた頃、公衆電話、自動販売機、駐車場の料金精算機などに、よく 3×1DM などと表記されていて、掛け算の順序が言語に依存していることを実感した記憶がある。

従って、この場合には、掛け算の順序の定義のあり方は、数学の問題ではなく、言語の問題に帰することになる。

私の関心 - 掛け算の順序

言語の問題に関しては,構文を定めれば,それに従うというだけのことではないでしょうか.そして,算数教育に携わる人々は,国によって違うことを配慮した上で,算数学習の国際交流を行ってきています.

事例については,かけ算の式と言葉の順序 メモで集約を試みました.

また海外事情について,昨年夏の経験を海外の「×」にまとめました.海外では,乗数にあたるものは無名数(日本では「1.4kg×10個」など両方に単位がついた式をよく見かけます)という特徴がありました.


これらの問題も名数を付して式を立てればかなり明確になる。

鉛筆の例でも、

6本/人×8人=48本

8本/回×6回=48本

と考えればどちらも正解であっていいと思う。

私の関心 - 掛け算の順序

「6本/人」「8本/回」といったパー書きの式を算数で利用しようというのは,新しい上に,衰退傾向にあります.パー書きを積極的に採用しているのは,数学教育協議会ですが,1961年の『算数に強くなる水道方式入門』には,パー書きのかけ算の式は見当たりませんでした.


冒頭の朝日新聞の記事によると、

ところが、文科省に問い合わせると、「国として、『正しい順序』を決めてはいない」と意外な回答。

学習指導要領自体にも「順序」の記述はない。

ただ、「8×6=48」をバツとする指導については「学校現場に裁量があり、コメントする立場にない」。

としているとのこと。

やはり、ここははっきりさせないとまずいのではないだろうか。

私の関心 - 掛け算の順序

文科省の問い合わせや,学習指導要領の件から,「掛け算の順序」「正しい順序」とは何を指すのだろうかという疑問が生じます.

実のところ,かけ算に関連した「順序」という言葉の使われ方には,乗除先行(かけ算・わり算がたし算・ひき算より先)や九九学習の順序(何の段から順に学習していくか)など,何種類かあます.かけ算の順序,計算の順序で整理してきました.

これまでの算数教育の蓄積を軽視し,展開されてきた---そして冒頭のブログ主さんも受け取った---のが,「掛け算の順序」という言葉であり,個人的にはこの概念は,ゲーム脳やマイナスイオンと同様に,注意を払う必要はあるけれどもやがて衰退していくのではないかと考えています.

(最終更新:2013-06-22 早朝.前のバージョン

2013年06月15日

[] □×△と△×□の違い:事例

いくつか書籍を入手しました.過去に書いたものと合わせて,「□×△」と「△×□」が違う,あるいは,かけ算で2つの数が反対になると意味が異なるとしているものを,一覧にしてみます.

算数に強くなる水道方式入門(1961年)

f:id:takehikom:20130615142640j:image(p.183)

関連:水道方式入門(1961)のトランプ配り

Arithmetic Operations on Whole Numbers: Multiplication and Division(1988年)

  • Anghileri, J. and Johnson, D.C. (1988). Arithmetic Operations on Whole Numbers: Multiplication and Division. In Post, T.R. (Ed.), Teaching Mathematics in Grades K-8, Longman Higher Education, Allyn and Bacon, pp.146-189. asin:0205110762

For children, three lots of four and four lots of three are fundamentally different. They think in concrete terms---three children each having four candies are luckier than four children each having three candies although the total number of candies is the same.

子どもたちにとって,「4が3つ」と「3が4つ」は基本的に別物である.具体物で考えると---4つずつキャンディを持っている3人の子どもは,3つずつキャンディを持っている4人の子どもよりも,運がいい.キャンディの総数は同じなのだけれども.)

(p.157)

Exercises

1. Give some real-life examples of situations in which a multiplication product a×b (for example, 5×6) is not the same as b×a (6×5).

(練習問題.1. a×bとb×a(例えば,5×6と6×5)が同じでないような,日常生活の例を挙げなさい.)

(p.158)

The balance or symmetry in the multiplication square relates to a very important property called the commutative property of multiplication, which states that for any two numbers a and b, a×b=b×a (for example, 3×4=4×3). Note that this is a property of numbers. While it is true that 3×4 is equal to 4×3, 3×4 may not be the same as 4×3 in a real-life situation.

(かけ算の表の釣り合いや対称性は,乗法の交換法則と呼ばれる重要な性質に関連している.すなわち,任意の2つの数aおよびbに対して,a×b=b×aである.例えば3×4=4×3となる.注意しないといけないのは,これは数の性質ということである.3×4が4×3と等しいのは事実だが,日常生活においてそれらが同じであるというわけではない.)

(p.177)

シュタイナー学校の算数の時間(1995年)

シュタイナー学校の算数の時間

シュタイナー学校の算数の時間

r=p・a, あるいは p・a=r  受・能=結

これによって,2つの因数p,aからなる積が得られます。ここで,pを単位のある大きさ(もちろんrも同時にそうなります)だと考えますと,pとaの違いがはっきりします。例えば,次のようなものです。

12m=3m+3m+3m+3m

12m=3m・4

4というのは,同じ値を加える回数です。これは,単位を持つ数であるrやpに対して,純粋な数です。ここでも,結果から見れば因数の交換法則が成り立ちますが,乗法のプロセスに関しては成り立ちません。4m・3=12mとも,3m・4=12mともかけますが,角材を切り分ける場合ですと,4mのものが3本と,3mのものが4本とでは,全く違います。

(p.43)

板書で見る全単元・全時間の授業のすべて 小学校算数2年〈下〉(2003年)

f:id:takehikom:20111215064358j:image(p.47)

f:id:takehikom:20111215064418j:image(p.46)

まるごと2年生 2年生担任が まず読む本(2011年

f:id:takehikom:20111130060704j:image(p.16)

ぐんぐんできる算数練習帳 2年(2011年

絵に あう かけ算の しきを 線で むすびましょう。

f:id:takehikom:20121102043855j:image

(p.104)

関連:数学教育実践研究会の学習講座に行ってきました|メタメタの日

田中博史の楽しくて力がつく算数授業55の知恵(2011年

(表)5×8

(裏)

1はこに5こ入りの

チョコレートが

8はこあります。

(表)8×5

(裏)

チョコレートが

5はこあります。

1はこは8こ入りです。

(九九カルタ 文溪堂より)

(p.48)

先生のための学校 計算力が確実に伸びる指導(2012年)

助数詞をつけると理解しやすい


式 2こ×3さら分=6こ

式 3こ×2さら分=6こ


これらの答えは6個と同じですが、式にすると全く逆です。

具体的なイメージをつかみにくい場合でも、助数詞(単位)をつける立式の間違いはほとんどなくなります。

このことによって、もとにする量×いくつ分がかけ算だということを理解させることができます。

また、三年生のわり算の学習で、等分除と包含除の違いがわかりやすくなりますし、小数や分数の文章題を習うときにも、この助数詞があることによって、立式の間違いを防ぐことができます。

f:id:takehikom:20120221192832j:image

(pp.22-23)

算数教科書アレンジ事例30(2013年)

f:id:takehikom:20130615142638j:image(p.34)

補足

上記のいくつかは,今年2月にまとめた資料集(2010〜2011年2012年〜外国語文献)からの転載です.

ある場面に対して,「□×△」でも「△×□」でもよいとする事例についても,文献があります.

□+△と△+□は?

加法(たし算)についても,「□+△」と「△+□」が違う,あるいは,2つの数が反対になると意味が異なると記しているものがいくつかあります.それらはいずれも,たし算を増加と解釈すれば,「□+△」と「△+□」とでは意味が異なる---加法の交換法則を考慮しても---が,合併と解釈すれば,区別はない(同じ)と述べています.

和書では,『数学の自由性 (ちくま学芸文庫)』(pp.75-76)と『数の科学―水道方式の基礎 (1975年) (教育文庫〈7〉)』(p.62)が明快で,朝四暮三にて主要部を引用しています.

海外では,次の文献で,わり算の意味を解説する前に,たし算の意味や解釈について書かれています.

  • Ohlsson, S. (1988). Mathematical Meaning and Application Meaning in the Semantics of Fractions and Related Concepts. In Hiebert, J. and Behr, M. (Eds.), Number Concepts and Operations in the Middle Grades, pp.53-92. isbn:0873532651

本文と章末注から該当箇所を取り出し,私訳を添えます.

The referential mappings created by the two concepts of growing and of combining are not identical. When addition is interpreted as growth, the arguments are not interchangeable. Incrementing ten by two is not the same process as incrementing two by ten.5 When addition is interpreted as combining, on the other hand, the arguments are interchangeable. Combining five with three is the same process as combining three with five. In the growth interpretation of addition the first argument and the result both refer to the same quantity, although at different points in time, while in the combining interpretation the two arguments and the result refer to three distinct quantities. Neither the sense not the reference is the same in the two applications (see Figure 1).

(増加と合併という,2つの概念から作られる参照の図式は異なる.たし算を増加と解釈するとき,2つの値(被加数と加数)は交換可能とならない.10に2を加えることは,2に10を加えるのと同じプロセスではない.一方,たし算を合併と解釈すると,2つの値は交換可能となる.5と3を合わせることは,3と5を合わせるのと同じプロセスである.たし算を増加と解釈した場合,最初の値と結果(和)は,時点は異なるが,同じ種類の量を表す.それに対し,合併と解釈した場合には,2つの値と結果はそれぞれ異なる量を表す.増加と合併という,たし算をもとにしたそれら2つの応用(増加と合併)に関して,それらは意味も参照の図式も異なる(図1).)

(p.59)

5 This fact is sometimes described as a lack of commutativity on the part of the addition function. But the mathematical construct of addition cannot have the property of commutativity in some contexts and lack it in others. Addition is defined to be commutative. But when the addition construct is interpreted as describing growth, (5 + 3) and (3 + 5) refer to two different growth processes. The difference between the two cases resides in the real world, not in the mathematical construct.

(この事実はときには,加法の機能において可換性がないものとして説明される.しかし加法の数学的な構成では,可換性を持つことができない場合や欠落している場合がある.加法は,可換であるように定義される.しかし,加法の構成を,増加を説明するものであると解釈すると,(5 + 3)と(3 + 5)はそれぞれ異なった増加のプロセスとなる.それらの式の違いは,数学的な構成ではなく実生活に内在する.)

(p.92)

追記:p.92について,http://8254.teacup.com/kakezannojunjo/bbs/t21/1054でより明快な訳が書かれています.感謝申し上げます.


(最終更新:2013-06-22 早朝)