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2014年1月30日
ちょっとした刺激を加えればできる新型の万能細胞は、専門家も「信じられない」と驚き、一度は論文掲載を拒まれるほど常識を覆す大発見だ。将来の再生医療の道を開く可能性も秘めるだけに、重点分野として研究資金を投入した国にとって功を奏した形だ。ただ、競争の激しいこの分野を勝ち抜くには、課題も多く残されている。
「今回の発表は、まったく新しい万能細胞です。私も最初は『信じられない』と思ったぐらい」
英科学誌ネイチャーへの掲載に先立つ28日、神戸市の理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(CDB)で開かれた記者会見。笹井芳樹副センター長はそう切り出した。
ふつうの細胞に外部から刺激を与えるだけで、ひとりでにiPS細胞のような万能細胞ができてしまう。あまりに簡単で、あまりに常識破りな「STAP(スタップ)細胞」の作り方は、理研の小保方晴子ユニットリーダー(30)が糸口をつかんだ。2008年、早稲田大大学院から米ハーバード大に留学した直後。再生医療につながる幹細胞の研究をしていた時だった。
いろいろな組織になれる幹細胞は、ふつうの細胞よりサイズが小さいという特徴がある。マウスの体から取ってきた細胞の中から小さい細胞だけをより分ければ、幹細胞を集められるのではないか。指導教授のアイデアに従い、細いガラス管に通して小さい細胞を選別する実験をしていた。
内径0.03~0.05ミリのガラス管を通すと、確かに幹細胞のような細胞が出てきた。ところが、ガラス管を通す前の細胞の中には、幹細胞はまったく見つからなかった。
ふつうなら、あるはずなのに見つけられないだけ、と考える。だが、小保方さんは違った。幹細胞が「より分けられている」のではなく、細いガラス管の中に押し込められるという刺激によって、幹細胞のような細胞が「作られている」のではないか――。現象をありのままに解釈した。
毒を与えたり、熱したり、飢餓状態にしたり。様々な刺激を細胞に与えてみた。その中で最も効率よく作れたのが、弱酸性の液体に浸す方法。浸す時間は25分。細胞が死に瀕(ひん)すると変身するのでは、と考えた。
だが、信じてもらうのは難しかった。いったんさまざまな組織になった細胞が、環境を変えるだけで幹細胞などに「初期化」される現象は、ニンジンなどの植物では知られるが、動物では絶対に起きないと考えられていた。iPS細胞などの万能細胞を作るには、遺伝子を人為的に働かせるなど、細胞の中身に手を加える操作が不可欠だった。
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