フィギュアスケート。つい見てしまう理由は、テレビとの相性が良いからではないか。ソチ五輪では、日本人に期待の選手が多くいたこともあるが、舞台となるスケートリンクの大きさが、テレビの画角に収まりやすいことも、大きく関係していると思う。
 
 大自然の中で行われる競技より、視聴者は、舞台全体に目を届かせやすい。
 
 とはいえ、バドミントンや卓球のようにコートを完璧にカバーしているわけではない。リンクのスタンドから実際に眺めるものと、視聴者の目に飛び込んでくるものは違う。
 
 テレビでいちばん分かりにくいのは滑るスピードだと思う。「ちょっとスピードが落ちてきました」とか「後半に入っても、スピードが落ちていません」と、解説に言われても、視聴者にはいまいちピンと来ないはずだ。
 
 それは、実際にスタンド観戦していると手に取るように分かる。スタンドの上階から俯瞰で眺めていると、スケーターは小さく見える。リンクがとても大きく感じられる。まるでサッカーのピッチのように。
 
 大きなリンクを、より広く感じるか、狭く感じるか。狭く感じられる選手は滑りが速い。リンクの端から端へ、あっという間に移動する。
 
 他より断然、速く見えたのは、92年アルベールビルの銀メダリスト伊藤みどり。端から端までそれこそビューンと滑り、パシャッと飛ぶその演技は、まさにアスリート。スポーツ的だった。大抵の選手は事前に「これからジャンプしますよ」と、報告するように跳ぶ。いまでもそうだ。その少し前からジャンプに合わせてスピードを調整するが、彼女は違った。まさに突如、高々と真上に飛び跳ねた。アルベールビルでは、一度失敗したトリプルアクセルを、演技の後半に再度トライ。高々と決める離れ業を演じ、場内の度肝を抜いた。
 
 抜群のスピード感。その中から、繰り出されるジャンプは、どこかマラドーナっぽかった。とりわけ俯瞰で見ると、サッカーの一流選手の身のこなしを、ふと想起させた。
 
 相手の逆を一瞬にして取る深々とした切り返し。瞬間、観客をハッとさせ、目を奪うその一瞬のプレイと、フィギュアスケートのジャンプとは共通するものがある。
 
 頭を過ぎるのは、南アW杯デンマーク戦。本田が岡崎の3点目をアシストした際の切り返しだ。デンマーク戦の本田と言えば、まず先制点を思い出す。無回転ボールがゴールに吸い込まれていくFKをイメージする。だが、このキックに、少なくとも僕はあまりサッカー的な匂いを感じない。
 
 デンマーク優位で進んでいた試合の流れを一変させた貴重なゴールであることは確かだが、サッカーの魅力が詰まっていたシーンというなら、3点目を挙げたくなる。
 
 大久保にクサビのような形でボールが収まると、左サイドにいた本田は瞬間、大久保の背後に狙いをつけて走り込み、そして大久保から送られてきた縦パスを、右足のインサイドでトラップした。
 
 見るものをハッとさせたのは、本田が次の瞬間に繰り出したワザ。高度なターンだった。右足に収まったボールを、軸足である左足の後ろを通す、大きな切り返しフェイントを決めたのだ。対峙するDFの逆を一瞬にして取り、タテ抜けに成功したそのプレイはまさに「舞」。
 
 瞬間、身体を180度クルッと回転させ、フィギュアスケートのジャンプを想起させる華麗なターンで、相手を置き去りにした。「サッカーの魅力、スポーツの魅力はここにあり」と、世間に言わしめるようなシーンだった。
 
 本田のアクションはこれだけでは終わらなかった。誰もが左足シュート! と思った次の瞬間、今度は左足で、真ん中に走り込んだ岡崎へ優しいラストパスを送球したのだ。
 
 右足、左足。踏み込む足を違えて跳ぶような連続ジャンプ。フィギュアスケート的に言えばそうなるが、その身体の面を、ひらひらさせながら相手DFを翻弄した「舞」は、「技術点」、「出来映え点」ともに満点と言いたくなる完璧なアクションだった。さらにそれが、何の前触れもなく発揮されたという意外性も加えれば「演技構成点」にも満点を出したくなる。
 
 柔道で言うところの「右半身(はんみ)」の態勢を取ったと思えば、「左半身」の態勢にクルッと身体の面を変える。360度、身体は急激に回転する。それが突然、何の前触れもなく発揮されたのがデンマーク戦の3点目。南アW杯全体の中でもトップ3に入るアクションだった。
 
 ただし、本田には伊藤みどりのような滑りの速さはない。滑る力は香川の方がある。だが香川には「舞」、回転力が足りない。本田+香川。それが伊藤みどりだったのではないか。ソチ五輪のフィギュアスケートを見ながら思ったことだ。