徳島県の片田舎に神山町という町がある。人口6000人あまりの小さな町で、吉野川の支流、鮎喰川の上流部に位置している。少子高齢化も進んでおり、高齢化率は46%に上る。過疎化に苦しむ、日本の中山間地の典型のような場所だ。
ところが、神山はIT(情報技術)ベンチャーの“移転”に沸いている。
神山に全国的に有名な観光スポットはない。企業誘致に力を入れている自治体も数多い。それなのに、なぜ神山に人々が集まるのか。3月に出版した『神山プロジェクト』では、そんな神山の秘密に迫った。クリエイティブを生む場であり、新しい働き方の実験場であり、人間再生の場である神山。その本質を理解するには最適な一冊だ。
この連載では、出版の一環として、神山の現状や関わっているキーパーソンの話をまとめていく。2回目はサテライトオフィスの第一号、Sansan(東京都渋谷区)の寺田親弘社長だ。クラウド名刺管理サービスを手掛けるSansanはなぜ神山にオフィスを設けたのだろうか。
Sansanは2010年10月に古民家を借りてサテライトオフィス「神山ラボ」を開きました。まず、オフィスをつくった経緯からお聞かせください。
寺田:僕たちがサテライトオフィスをつくる少し前に、神山ではグリーンバレーを中心にワーク・イン・レジデンスが始まっていました。空き家の古民家を貸して、手に職のある人々に移住してもらう、という取り組みですね(第1回参照)。その中のある物件の改修に、僕の高校、大学時代の友人が建築家として関わっていたんです。それで、たまたま彼と飲んだ時に神山の話を聞いて、ぜひ見てみたい、と。
なぜ興味を持ったのかというと、東京のオフィスではない、何か新しい働き方ができないか、と僕自身がずっと悩んでいたからです。