東京で今年2度目の大雪となった2月14日。運休や遅延が相次ぎ混雑するJR東京駅の一角に、少女たちの行列ができていた。
駅地下にこの日オープンしたのが、「アイカツ!オフィシャルショップ」だ。朝10時開店の1時間前には女子小学生と母親たち、およそ50人が列を成した。目当ては「アイカツ!」キャラクターのグッズ。「悪天候で電車も止まっているのにこんなに来てもらえるとは」。ショップを統括するナムコの内藤浩司キャラクターMDチームマネジャーは驚く。
アイカツ!は、バンダイナムコホールディングスの目下急成長中の新キャラクターだ。トップアイドルを目指し活動(アイカツ)する女子中学生たちの成長を描き、遊戯施設向けのデータカードやアニメ関連を柱に、アパレルや文具など500アイテムを展開。年末には映画の公開も予定している。
2013年度は国内玩具事業だけで120億円の売り上げを見込む。12年10月のテレビ東京系列でのアニメ放送開始からたった1年半で、「スーパー戦隊」や「プリキュア」といった同社の代表的なキャラクターと肩を並べるまでに至った(図)。成功の背景には、グループ一丸となった、キャラクターの「垂直立ち上げ」があった。
「全速力で走りながら、並走する仲間と素早いパス回しをする。ラグビーの試合のような日々が続いている」。生みの親の一人である、バンダイの原田真史・カード事業部デピュティゼネラルマネジャーは語る。アイカツ!は「機動戦士ガンダム」などと同様、バンダイナムコグループが育て上げた、自社オリジナルキャラクターだ。
アニメの人気が出たら慌ただしく商品化するのがこの業界の通例だ。対して、「今回は原作ありきではないので、助走期間も長い。だからグループを巻き込むことができた」(原田氏)。アニメ放映開始の月内にカードを、翌月には玩具や任天堂「ニンテンドー3DS」のゲームを発売し、さらにその翌月にはショップ1号店がオープンした。
統合の「遠慮」を打破し新キャラを垂直立ち上げ
裏返せば、まだアニメも始まっていない段階で、3DSゲームの発売を控えていたことになる。よほど自信がなければできないことだが、実は玩具最大手のバンダイナムコにとっても、女子小学生向けというこの分野は「鬼門」だった。
保育園や幼稚園の女児の心をプリキュアでつかんだ同社だが、女子小学生向けの人気キャラクターは一昨年20周年を迎えた「美少女戦士セーラームーン」以来、挑戦むなしく成功していなかった。女子小学生の嗜好は1学年違うとまるで異なり、ターゲティングしにくいためだ。そこで今回は9歳の女子とその母親に照準を合わせ、チームには女性を多く引き入れた。
女子や母親へのヒアリングも頻繁に行う。「女子の感性を理解するために、調査の場には監督にも来てもらった」。アニメを担当するサンライズの若鍋竜太アイカツ!スタジオプロデューサーはこう語る。
通常は制作者のみで行うアニメのシナリオ打ち合わせにも、原田氏ら他部署の担当を引き入れた。「制作側に抵抗はあったが、関連商品とアニメが完全に連動することができるようになった」(若鍋氏)という。
今回のアイカツ!の成功のベースには、「百八十度の発想の転換」(石川祝男社長)で行われた組織変更がある。玩具のバンダイとゲームのナムコが経営統合したのは05年。事業領域が重ならず幅広い分野を持つことができたが、「領土は大きくなったが、国境はそのまま。互いに領空侵犯はしないという、統合の遠慮みたいなものがあった」(石川氏)。その結果、事業環境の変化への対応が遅れて、09年度には大赤字に転落。大規模なリストラを余儀なくされた。これを契機に現在のキャラクター主軸の組織へと切り替えた。
この時打ち出された「リスタートプラン」の中核が、緊密なグループ連携によるキャラクターの垂直立ち上げだ。以前の組織では事業部ごとで最大の利益を上げることが求められた。そのためあるキャラクターが業務用ゲーム機で大ヒットしたとしても、その成果を家庭用ゲームで十分に生かすことはできなかった。これをキャラクター主軸の組織にすることで、「どうやって横連動すべきかを考えるようになった」(石川氏)。
第2のアイカツ!を生み出す仕組み作りも進む。昨年11月、オリジナルキャラクターのアイデアをグループ横断で募るプロジェクトを発足させた。企画案が2次審査を通過すると会社費用で試作映像が制作され、希望部門があれば事業化される。アニメ化されれば原作者になれるというわけだ。「通常業務とは関係ない管理畑からの応募も多い」(石川氏)という。「遊びを仕事にする責任と誇り」、そんな同社が掲げるミッションの、面目躍如といえるだろう。
土俵は整えられた。そこで強いオリジナルキャラクターを継続的に生み出せるかが、次の関門となる。
(風間 直樹)
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