定年退職後の「地域デビュー」どうすれば 10年前から情報収集を
産経新聞 3月9日(日)8時0分配信
長年企業で働いてきた団塊の世代が定年を迎え、生活の場である地域社会に戻りつつある。「健康で時間もあるから何かやりたい」と思ったら、自治体の「地域デビュー講座」などを活用するのも一つの方法だ。地域活動に参加する際は現役時代の肩書を忘れ、自分から率先して動くよう心掛けたい。(竹岡伸晃)
◆活性化の担い手
「工具類はどんなものを使うのですか」「修理する内容は電気部品関連が多いのですか」。2月中旬、東京都江東区内で行われたボランティア団体「おもちゃ病院江東」による修理活動。次々と持ち込まれる子供のおもちゃを会員らが修理する様子を同区に住む相馬洋司さん(65)、大杉則夫さん(63)が質問をはさみながら熱心に見学し、簡単な作業を体験していた。
いずれも昨年、勤めていた会社を定年退職した相馬さんと大杉さん。これまで地域との関わりはほとんどなく、「地元に新しい仲間や活動場所を作りたい」(相馬さん)、「時間を有効に使い、地域の役に立つ活動をしたい」(大杉さん)と望み、同区主催のシニア向け地域デビューセミナーを受講した。「おもちゃ病院」にはプログラムの一部の地域活動体験で参加。「難しそうだが、子供たちに喜ばれるのでやりがいがありそう」(相馬さん)などと感想を話していた。
退職者などを地域に受け入れる講座は各地で行われている。江東区の場合、座学中心の入門セミナー、活動体験も含む実践セミナーを実施。ボランティア団体やNPO法人などへの参加を後押しする。同区の中野雄一・高齢者支援課長は「元気なシニアは介護や子育ての支援、防犯、防災、地域活性化の担い手となり得る。セミナーを地域活動を始めるきっかけにしてもらえれば」と期待を示す。
東京都八王子市でも地元のNPO法人が中心となって毎年、「お父さんお帰りなさいパーティー」を開催。今年は3月8日に行われ、ボランティア団体などの情報を得たり同世代の人と交流したりできる。兵庫県でも加古川市内の施設で活動体験を中心とした地域デビューセミナーを実施。大阪府河内長野市でも地域の魅力向上や課題解決について考えてもらう「まちづくり地域デビュー講座」を定期的に行っている。
◆充実の毎日
既に地域デビューしている先輩が後輩のために、活動場所を探したり仲間を作ったりする場を用意しているケースもある。
50〜70代の男女21人が参加する「世田谷地域デビューの会」はその一例だ。世田谷区主催の講座参加者が集まって平成19年に設立された同会について、真貝高三(しんがい・たかみ)代表(70)は「地域活動のハブ(中心)機能を持つ組織。ここに来ればさまざまな活動をしている仲間がおり、生の声を聞くことができる」と説明する。
活動を始めようとしても、「何ができるか分からない」「地元に友人や知人がいない」と途方に暮れる人が少なくないという。「地域活動の第一歩は仲間作り。気の合う人に出会えば、『一緒にやってみよう』と踏み出すことができるのでは」
大手旅行代理店を10年前に定年退職した後、同会や地元のNPO法人などで活動している真貝さん。「会社員時代以上に忙しいときもありますが、毎日充実しています」と笑顔で話していた。
■地元知ることが第一
地域活動を始めるコツについて、『地域デビュー指南術〜再び輝く団塊シニア〜』(東京法令出版)などの著書のあるシニアライフアドバイザー、松本すみ子さん(63)は「地元をよく知ることが第一。街を歩いて魅力や課題を見つけてほしい」と話す。
自治会の集まりや自治体などが主催するイベント、勉強会に出席するのもお勧めだ。その際、名刺を持っておけば横のつながりができやすい。会社の名刺ではなく、パソコンなどで名前、連絡先、趣味、特技などが書かれたものを作る。「『やることを探しています』などと入れてもいい」
情報を集めて興味のある活動を見つけたら、試しに参加してみる。ただ、「仕事ではないので無理に続ける必要はなく、合わなければすぐにやめる」。
地域で活動する各団体は会社組織と違い、「上下関係はなく男女平等。命令しても人は動かない」。会社員時代の肩書は忘れ、できることを探して率先して動く。頼まれた仕事は断らないことも重要だ。
松本さんは「定年の約10年前から情報収集などを始めれば、スムーズに第二の人生に移行できる」とアドバイスしている。
最終更新:3月9日(日)14時57分
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