最近、ギクッとすることが二回続いたので、これを書きます。

1929年のニューヨーク株式市場の大暴落の直前、アメリカは空前の株式ブームに沸いていました。

ある日、ウォール街関係者が靴磨きに行くと、靴磨きの少年が「旦那、わるいことはいいません、この銘柄は、騰がりますぜ」と、囁き銘柄を頼みもしないのに教えてきました。

このように、靴磨きの少年、ウエイトレス、配管工などの幅広い大衆が相場に熱を上げるようになると天井が近いとされています。

先日、いきつけの理容店へ行きました。

「おたくの坊ちゃん、どこへ行くの?」

とおかみさんが訊いてきました。僕等ぐらいの歳になると、大体、話題は自分の娘や息子の事になります。とくに進路の話題は鉄板ネタです。僕が口籠っていると……

「うちの娘は、バイオテクノロジーの会社に勤めたいと言っている。大学入学の願書で、彼女の熱意をアピールするために、バック・インスティチュートでインターンさせたわ」

バック・インスティチュートとは地元のエイジングに関する研究機関です。

「へえ、大学生がインターンするっていうのは知ってたけど、高校生がインターンというのは、知らなかったなぁ」

よく聞けば高校生のインターンというのも、とても競争が激しい世界らしいです。

しかし……16歳やそこらの少年・少女が、そこまで将来のキャリアを意識して功利的に立ち回るというのも、どんなものかな? と、ぼくはちょっと引っかかるものを感じました。

二回目にギクッとした経験は、息子の高校の友達たちを課外活動の模擬裁判の練習試合で他の郡の高校までクルマで引率して行ったときの事です。

高校生たちはクルマに乗り込むなり、各自、iPhoneを出して画面とにらめっこしています。夕日が傾いてきたらそれをすかさず写して、スナップチャットしたりしています。

その中のひとりが「あ、今日はバイオマリン株が上がっている」と言いました。「メリルリンチが強力買い推奨しているから、下がるわけない!」

バイオマリン(ティッカーシンボル:BMRN)というのは地元のバイオテクノロジー企業です。希少疾病に特化した企業戦略で先鞭を付けた会社で、同社の成功以来、幾つもの企業が創業され、僕の住む町は、ちょっとしたバイオ起業ブームになっています。

そのうち、この高校生が後部座席から僕に声を掛けてきました。「ミスター・ヒロセ、いい銘柄がありますよ」

僕は思わず微笑んでしまったのですが、「ほう、そうかね? それで……そのバイオマリンなんたらという会社は、どう凄いの?」と、知らないフリして尋ねたのです。

するとこの少年はすらすらと希少疾病薬(orphan drug status)や独占販売権(exclusivity)に関するウンチクを披露しました。その理解が余りに的確だったので、僕はもうすこしのところでクルマの運転を誤り、中央分離帯を擦りそうになりました。

この少年も16歳なのですが「My man at Merrill Lynch says(ボクのメリルリンチの担当者によると)……」なんて言っているのを聞くと、「ぞぞーっ」と寒気を覚えるわけです。

相場的には、このようなエピソードが相次ぐと、八割方「出来あがってしまっている」と考えた方が良さそうです。

今回のアメリカのバイオ・ブームが、1990年代末期のゲノム・ブームと違うのは、ちゃんと業績が伴っているという点でしょう。

下は主だったバイオ企業の売上高の推移を積み上げたグラフです。(なお、このグラフは網羅的ではありません)

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アムジェン、バイオジェンなど、古くからあるバイオ企業の売り上げ規模が大きいため、最近話題にのぼることが多い準大手クラスの活躍ぶりが、よくわかりません。

そこで準大手のグループだけでグラフを作り直すと、下のようになります。

2

つまり各社とも、ちゃんと米国食品医薬品局(FDA)に承認された創薬の実績を持っており、株式市場での人気は、業績に裏打ちされているのです。

しかし、ものごとは程度問題。ちゃんと業績に裏打ちされているとは言え、最近のフィーバーは少し行き過ぎのように感じます。


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