原発建設 新興国中心に急増の見通し3月10日 4時23分
東京電力福島第一原子力発電所の事故から3年がたちます。
原子力の世界的な状況としては、ヨーロッパの一部の国で脱原発への取り組みが続く一方で、エネルギーの需要が高まっている中国などの新興国を中心に新たな原発の建設が急増する見通しです。
IAEA=国際原子力機関によりますと、運転が可能な世界の原子力発電所は、31の国と地域で合わせて435基あります。
このうち、▽アメリカが100基と世界最大の原発保有国になっていて、次いで▽フランスが58基、▽続いて日本が48基となっていますが、原発事故をきっかけにすべての原発が運転を停止しています。
このほか、▽ロシアの33基、▽韓国の23基、▽中国とインドが21基と続いています。
また、イギリスに本部を置く世界原子力協会によりますと、建設中の原発は世界全体で70基に上っていて、このうち最も多いのは中国の28基となっています。
さらに2030年までに新たに建設が計画されている原発は先月の時点で、28の国の173基に上っており、最も多いのは中国で58基となっています。
次いでロシアが31基、インドが18基となっていて、エネルギーの需要が高まっている新興国を中心に新たな原発の建設が今後、急増する見通しです。
一方で、福島第一原発の事故をきっかけに各国の市民の間で広がった原発の安全性への不安は払拭(ふっしょく)されておらず、ドイツ、スイスなど、ヨーロッパの一部の国では脱原発の取り組みが続いています。
今後、原発が増えていく見通しとなるなか、福島第一原発の事故を教訓にした安全対策のさらなる強化が求められています。
「核のゴミ」への対応は
東京電力福島第一原子力発電所の事故から3年がたちますが、原子力発電所から出る高レベル放射性廃棄物、いわゆる「核のゴミ」を地下深くに埋める処分場の選定は原発を利用する世界各国で大きな課題になっています。
最終処分場の場所が決まっているのは、▽フィンランドと▽スウェーデンの2か国です。
このうち、フィンランドは首都ヘルシンキから北西に200キロ離れたユーラヨキで建設計画が進められています。
施設はフィンランド語で「洞窟」を意味する「オンカロ」と呼ばれ、現在、政府が建設計画の技術的な審査を行っています。
フィンランド政府はことしの後半にも建設を認可する見通しで「オンカロ」の運営会社は2020年代の処分開始を目指しています。
▽フランスは候補地になっている東部のビュールの地下500メートルに研究所を作り、建設に適しているか地層を調査しています。
処分場の建設を行う機関は、去年、住民などの意見を聞く公聴会を開き、来年にも設置許可を国に申請する方針です。
▽アメリカは1980年代から西部ネバダ州のユッカマウンテンで建設計画が進められてきましたが、自治体の反対などで2009年に計画が撤回され、事実上事業は止まっています。
このためアメリカ政府は処分場の選定を見直し、去年1月に2048年の処分開始を目指した新たな計画が公表されました。
アメリカは原発推進政策堅持
世界最大の原発大国、アメリカでは、シェールガスの開発によって天然ガスの価格が大幅に下がっている影響で採算性が悪化したなどとして、廃炉を決める原発が相次ぐ一方で5つの原子炉の建設が進められるなど、政府としては原発推進の政策を堅持しています。
アメリカは100基の原発がある世界最大の原発大国で、国の総発電量のおよそ20%を原子力発電で占めています。
しかし、去年5月、中西部ウィスコンシン州にあるキウォーニー原発が運転を停止するなど、この1年余りの間に合わせて5基の原子炉が廃炉、もしくは廃炉の決定がなされました。
こうした背景には、いわゆる「シェール革命」で天然ガスの価格が下がって火力発電のコストが低下しコスト面で競合できなくなったり、老朽化した原発の改修費などがかさんだりして古い原発を中心に採算性が悪化したことが挙げられます。
こうしたなかでもアメリカ政府は原子力発電を重要なエネルギー源として位置づけ、国として原発推進の政策を堅持しています。
原発を続けていくうえで、アメリカでは東京電力福島第一原子力発電所の事故を受けて複数の原子炉の電源がすべて失われても原子炉の冷却を続けられるよう、ポンプ車や電源車の配備を増やすなど非常時に備えた安全対策の導入を進めています。
2012年には2か所の原子力発電所で、合わせて4基の原子炉がおよそ30年ぶりに新たな建設が承認されたほか、1980年代にいったん建設が中断された原子炉の工事が再開されるなど、現在、アメリカでは合わせて5つの原子炉の建設工事が進んでいます。
フランスは国民的議論進める
フランスは国内の総発電量の75%近くを原子力で占める世界で最も原発依存度の高い国です。
現在稼働している原子炉は世界で2番目に多い58基で、さらに1基を建設中です。
東京電力福島第一原子力発電所の事故のあとも原発推進政策を堅持してきましたが、おととし就任したオランド大統領は、2025年には原子力の比率を50%にまで引き下げる方針を掲げており、国内でもっとも古い1977年に運転を開始した原発を2016年末に閉鎖する予定です。
また、将来的にそれぞれの電源をどのような比率で組み合わせて電力を賄うかなど、今後のエネルギー政策の在り方を巡って、現在、国民的な議論が進められており、政府はこの春、議会に法案を提出し年末の採決を目指しています。
しかし原子力の比率を下げれば電気料金が引き上げられるなど経済に悪い影響を及ぼしかねないとして慎重論も根強いのが現状です。
ロシアは原発輸出にも積極的
ロシアは新たに原子力発電所の建設を進めているほか、アジアなどの新興国に向けた発電所の建設など原発輸出の拡大にも積極的です。
現在、ロシア国内で運転が可能なのは10か所の原子力発電所の33基の原子炉で、国内の総発電量の17%余りを原子力発電が占めており、アメリカ、フランスなどに次ぐ世界第4位の原発保有国となっています。
ロシア政府は、核の軍事技術と共に発展した原子力産業を国の発展に欠かせない重要な基幹産業と位置づけています。
東京電力福島第一原子力発電所の事故以降、脱原発への取り組みを進めるヨーロッパの一部の国とは対称的に、ロシアは現在、10基を新たに建設しているほか、今後10年で水上の原子力発電施設を含む31基を新たに建設する計画です。
またエネルギーの需要が高まっている中国やインドなど、アジアの新興国を中心にロシア国営企業による原発の建設が進められていて、原発の輸出に積極的に取り組んでいます。
またウラン燃料の製造から原子力発電所の建設、使用済み燃料の再処理まで、原子力発電に関わるすべての分野を引き受けるビジネスモデルを目指して開発と研究を進めています。
ドイツは原子力依存度下げる取り組み
東京電力福島第一原子力発電所の事故を受けて、原子力政策を大幅に見直し、脱原発にかじを切ったドイツでは、原子力の依存度を下げる取り組みを進める一方で、電気料金の値上がりや送電網の整備が難航するなど、課題にも直面しています。
ドイツは福島第一原発の事故直後の2011年6月、国内のすべての原発を廃止することを決め、現在稼働している9基も段階的に運転を停止する方針です。
このため省エネの取り組みや風力や太陽光など再生可能エネルギーの導入拡大を図り、2050年までに再生可能エネルギーが総発電量に占める割合を80%に増やす計画を進めています。
この結果、去年の原子力発電の割合は、速報値でおととしより0.4ポイント減って15.4%となった一方、再生可能エネルギーの割合は23%余りと過去最高を更新しました。
ただ、再生可能エネルギーを電力会社に固定価格で買い取るよう義務づけているドイツでは、買い取りにかかる費用が家庭などの電気料金に上乗せされるため、電気料金の値上がりが続いています。
一般的な家庭の去年の電気料金は2000年と比べて2倍以上に増え、負担の大きさに批判も出ています。
さらに風力発電の盛んな北部から電力消費地の南部に電力を送る送電網の整備が難航しています。
ドイツ政府は100億ユーロ以上をかけて送電網を整備する計画を立てていますが、先月、詳細が発表されたおよそ800キロの送電網を増設する計画を巡っては、「景観が破壊される」などと建設予定地の周辺住民から激しい反発が出ているのです。
政府としては、引き続き原子力の依存度を下げる取り組みを進める方針で、2022年までに国内すべての原発を廃止する計画となっています。
ウクライナは原発に大きく依存
ロシアとの間で緊張が続いているウクライナは、原子力発電に大きく依存しています。
ウクライナ国内で運転可能な原子力発電所は、4か所の15基の原子炉です。
国内の総発電量の43%余りと、およそ半分を原子力発電が占め、原子力に大きく依存しています。
さらにウクライナ政府は2030年までに11基の原子炉を新設して発電量を2倍に増やそうという計画しています。
ウクライナ情勢が緊迫するなかで、稼働している原子力発電所の安全性が懸念されていますが、地元の運営会社によりますと、現在は通常どおり運転しているということです。
またロシアによる掌握が進んでいるクリミア半島には原子力発電所はありません。
一方、火力発電所用の石油や天然ガスの大半をロシアに依存しているため、ガスの供給や価格を巡ってロシアとの駆け引きが続き、エネルギーの安定確保が国の安全保障に直結する重要な問題になっています。
そのため欧米の企業と協力して国内でのシェールガスの開発や大規模な太陽光発電所など再生可能エネルギーの開発も進めようとしています。
また、史上最悪の原発事故となったチェルノブイリ原子力発電所が、首都キエフの北西、ベラルーシとの国境近くに位置しています。
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