(2014年3月7日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
欧州の権力の回廊では、興奮したごまかしの叫び声が響き渡っている。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は確かに、神聖な国際規範を破り、欧州大陸の安全保障を危険にさらしている。そう、欧州の指導者たちは、ウクライナの領土を強奪したことでプーチン大統領を厳しく非難しなければならない。
そして、そう、国際法を信じている人たちは、指を立てて非難する以上のことをすべきだ。これらはすべて十分理解されている。だが我々は、調子に乗ってはならない。
英国では、閣僚たちが、経済制裁はロンドンの金融街シティーのマネーロンダリング(資金洗浄)業務を危険にさらしてしまうのではないかと心配している。数十億ドルの不正な資金を確実に供給してくれるロシアは、活況に沸くロンドン不動産市場で非常に大事な顧客だ。
ドイツでは、実業界のリーダーたちが、実入りのいい輸出を脅かしたり、ロシアからのガス供給の途絶を招いたりしないようアンゲラ・メルケル首相に要請している。ローマでは、マッテオ・レンツィ新首相が、イタリアのエネルギー業界の有力者を動揺させてはいけないと言われている。
欧州の慎重な対応は臆病さの産物
欧州連合(EU)の指導者たちが、プーチン大統領の侵攻に対し、注意深く調整された対応を組み立てたと思えればいいのだが。欧州は慎重さと強硬さを混ぜ合わせることで、紛争を鎮めるために今は厳しい制裁を控えるが、プーチン氏がクリミアでウクライナの主権を認めるのを拒否した場合には、断固として圧力を強める――と。実際、これがEU首脳会議の公式メッセージだった。
残念なことに、欧州の慎重さは、外交的計算というよりは、臆病さの産物だった。そして、真剣な決意を示す証拠がなければ、プーチン氏に後退する理由はない。
バラク・オバマ米大統領の指揮に従っていたら、EUは多少の信頼を得ていただろう。ビザ制限をはじめとした措置は、ロシアの場合がそうであるように、エリート層が数十億ドルの手持ち資金を隠したり、使ったりする過程であちこち旅行したがる時にいくらか力を発揮する。その対極には、イランに適用されたものとよく似た幅広い対ロ金融制裁の脅威があるはずだ。
だが、欧州諸国が最終的に制裁の道をいくらか進むことに同意したとしても、断片的な報復は、ロシアの領土強奪に対する必要な対応の一部でしかない。クリミア占領――そしてウクライナ東部に進撃するというプーチン氏の脅し――に対しては、根本的な発想の転換が求められる。西側の対ロ関係の「リセット」はリセットされる必要があり、関与の境界線は引き直される必要がある。
かなりお粗末とはいえ、西側のアプローチの背後にある前提はこれまで、いくつかの例外があるにせよ、ロシア政府がルールに基づく秩序に加わることを望んでいるというものだった。