社説:越境PM2.5 国際協力で対策促進を
毎日新聞 2014年03月09日 02時32分
大気汚染源の微小粒子状物質(PM2.5)が大陸から飛来することが心配される季節になった。先月末には日本各地で濃度が上昇し、注意喚起情報を出す府県が相次いだ。大気汚染に国境は関係ない。政府が中国に汚染対策の徹底を求めることは当然だが、日本の優れた環境技術を輸出し、対策のノウハウを伝える取り組みも促進したい。
PM2.5は大気中に浮遊する直径2.5マイクロメートル以下の粒子で、工場や自動車の排ガスが主な発生源だ。毛髪の太さの30分の1程度と微小で肺の奥深くまで入りやすく、ぜんそくや肺がんを引き起こす恐れがある。
中国からの越境汚染が関心を集めたため、環境省は昨年2月、都道府県などが注意喚起情報を出す暫定指針値を1日の平均濃度で1立方メートル当たり70マイクログラム超と決めた。注意喚起されたら、不要不急の外出を控え、窓の開閉や換気は最小限にとどめるのが望ましい。ただし、指針値を大きく超えない限り、運動会等の屋外行事を中止する必要はないという。
中国政府は昨年9月、大気汚染防止行動計画を策定し、5年間で北京や天津のPM2.5濃度を25%削減することなどを掲げた。だが、今冬も深刻な大気汚染は続き、5日に開幕した全国人民代表大会(全人代)でも焦点となった。中国は世界第2の経済大国として対策に取り組む責務がある。
今月下旬に北京で日中韓3カ国政府の実務者が出席し、大気汚染に関する政策対話が開かれる。日本と同様に中国のPM2.5被害を受ける韓国とは共同歩調で臨みたい。
対策面でこれから期待したいのは自治体レベルの交流だ。東京都と北京市は環境分野などの技術協力で合意書を締結しており、都は自動車排ガス対策などの経験を伝えてきた。北九州市も大連市などへの環境協力を続けている。積み重ねのある自治体間の交流は、国家間よりも進めやすいはずだ。政府としても、積極的な支援を継続してもらいたい。
PM2.5は2009年に環境基準が定められた。国内の自動車排ガスなどの影響もあり、全国の測定局の達成率は約4割にとどまる。詳細な生成メカニズムなど未解明な点も多く「大気環境行政の残された課題」(環境省)とされる。越境汚染にもの申すにも、国内対策の強化は不可欠だ。
PM2.5の飛来は気象条件に左右されやすく、詳細な予報は実現していない。環境省は昨年末、都道府県レベルのPM2.5予報を可能とするシステムの開発を打ち出した。完成を急ぐべきだ。各地の測定データなどは同省のホームページで紹介されているが、自治体とも連携し情報提供の充実も図ってほしい。