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空も飛べるはず『飛ぶ力学』

飛ぶ力学 飛行力学の肝心な点を、一冊にまとめたもの。

 紙ヒコーキからボーイング、ステルス戦闘機、プテラノドンを例に、空飛ぶ力学のエッセンスを解説する。「きっと今は自由に」飛ぶためには、揚力だけでは不十分で、流れに対し機体をコントロールする必要がある。

 「実機と紙ヒコーキはどこが違うか」→重心と静安定
 「フォークボールはなぜ落ちる」→レイノルズ数
 「操縦と運転はどこが違うか」→縦の姿勢制御
 「飛行機と“空飛ぶ絨毯”の違い」→誘導抵抗
 「ヘリコプターのローターが大きい理由」→空中静止

など、章タイトルの疑問に答える形で、風見安定、流れの本質、機体サイズの影響、操縦の極意を説明する。人類が「飛ぶ理屈」を探り出す歴史を追ったものが『飛行機物語』である一方で、そこから「飛ぶ本質」を掴みだしたのが『飛ぶ力学』といえる。

 東大教授のやさしい語り口調ではあるものの、数式やグラフがかなり出てきてて、理解に手こずる。わたしの勉強不足かもしれないが、レイノルズ数と失速迎角、最大揚力係数の関係を扱ったグラフや、誘導抵抗係数と揚力係数を表わしたポーラー曲線は難しかった。理解というより、理論と実値の結果を「そんなものなのか」と受け止めるに留まった(ここからは勉強の世界だね)。

 非常に面白く感じたのが、二乗三乗の法則の解説。これは、飛行機に働く空気力は、機体サイズの二乗に比例し、重さの三乗に比例する法則のことで、289トンのB-747と、18グラムの紙ヒコーキが、同列に扱われている。特に、アスペクト比(翼の縦横比)で比較すると、質量変化が10^7であったとしても、紙だろうが鉄塊だろうとも、本質的に変わらない。これは、生物学をサイズという観点でとらえた『ゾウの時間ネズミの時間』を想起させる。「生涯の鼓動の回数は、ゾウもネズミも20億」に示されるように、代謝とサイズを対数として捉えると、本質が見えてくる。

 物理的なサイズだけにとらわれない見方をすると、『風の谷のナウシカ』に出てくる飛行器「メーヴェ」の謎が解けるかも。あの翼サイズでは空力的に飛べないだろうと思っていたが、ひょっとしてあの世界の「人」のサイズそのものが小さいのではないだろうか。本書にメーヴェは登場しないが、サイズを超えた本質を示されると、そんな発想を得ることができる。

 また、子どもの頃からのヘリコプターの謎が、ようやく腑に落ちたのが嬉しい。あれだけの重量を、ただ回転するブレードの揚力だけで持ち上げるには、ローター軸が細すぎて剛性が足りないのではないかと感じていたが、これは、二つのヒンジ(蝶番)によって解決している。回転面に対し垂直方向と水平方向にヒンジがあり、これがローターの付け根部分のモーメントをゼロにするというのだ。

 ジャンボ、翼竜、紙ヒコーキに共通する「飛ぶ本質」を理解する一冊。

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