2013年11月15日(金)

10代に広がるネット・ポルノ依存

鎌倉
「ネット上にまん延するポルノが、子どもたちに与える影響について考えます。
インターネットやスマートフォンが普及し、誰もが簡単にわいせつな画像や動画にアクセスできる中、アメリカやイギリスでは、ネット・ポルノにのめりこんだり依存したりする若者が少なくありません。」

髙尾
「ネット・ポルノの中には、過激で暴力的な内容のものもあり、子どもたちへの影響が懸念されます。
こうしたネット・ポルノから子どもたちをいかに守るか、まずは、アメリカABCのリポートをご覧下さい。」

米英10代に広がる ネット・ポルノ依存

10代の子どもたちの7割は、インターネットでたまたまポルノ動画を目にしていることが、ある研究から明らかになっています。
スマホでなら誰でも過激なポルノにアクセスできます。
“ポルノは子どもの脳にいい影響を与えないだろう”。
この仮説を裏付ける科学的な証拠も見つかっています。

ポルノ事情に詳しい ゲイル・ダインズさん
「ネットで『ポルノ』を検索すると、裸の女性が出てくるだけではありません。
性的暴力の世界に引きずり込まれてしまうのです。」



最新のポルノ事情を本につづったダインズさんは、10代の少年にとって、ポルノはセックスそのものだと言います。

ポルノ事情に詳しい ゲイル・ダインズさん
「彼らの多くはまだ、生身の人間とセックスをしたことがないのです。」

少年だけではありません。
ウィニフレッドさんは12歳のときにポルノを見て、いろいろなことを知ったと言います。

ウィニフレッドさん
「どんな服装をすれば、ちやほやされるとか、自信を持てるようになれるとか。
セックスは力になるとか。
いろいろ分かったわ。」


ウィニフレッドさんたちは、わいせつな映像があふれるこの時代に、10代を迎えた「新世代」です。

ウィニフレッドさん
「こんな環境で育った子どもたちは私たち以外にいません。
だから、どう対処すればいいか教えてくれる先輩もいない。
私たちが“第一世代”なの。」

ダニエルさんはネット・ポルノで初めてセックスを見たときの衝撃を忘れられません。

ダニエルさん
「黒人男性とヒスパニック系の男性と金髪の女性の3人が、激しく体をぶつけあっていたの。
家に帰ってからもしばらく頭がボーッとしちゃってた。
忘れられないわ。」

ネット・ポルノはセックスのイメージを子どもたちに植え付けてしまいます。

ネット・ポルノに依存する ケイラムくん
「自分で処理するほうがいい。」

長年、ネット・ポルノに依存してきたイギリス人のケイラムくん。
取材に対し、「女性とセックスするよりも、断然ポルノの方がいい」と言います。

ネット・ポルノに依存する ケイラムくん
「生身の女性ではもの足りない。
ポルノ動画の女性は大胆で、いろんなことをするからね。」

ポルノ動画が氾濫する中で、10代になったばかりで、依存してしまう子どもたちもいます。

ネット・ポルノに依存していた ネイサンくん
「12歳から14歳まで、いつもポルノを見ていました。
ほとんど日課でした。
感覚がマヒしていたんです。」


アメリカ人のネイサンくんは、両親に事情を打ち明け、依存を克服しました。
しかし、それは稀なケースです。

ネット・ポルノに依存していた ブリアンさん
「ポルノに依存してしまう自分が大嫌いで、周りと付き合わなくなったわ。」

現在、23歳のブリアンさん。
高校時代はポルノ一色だったと言います。

ネット・ポルノに依存していた ブリアンさん
「私だけではないはずよ。
多くの同級生が同じ悩みや恐怖を抱えていたと思うわ。」

ケイラムくんも悩んでいました。

ネット・ポルノに依存する ケイラムくん
「最初は限度が分かりませんでした。
友達にどれくらいポルノを見ているかを聞いて、初めて自分がとんでもないほどポルノに夢中になっていることを知りました。」

症状はどれだけ深刻なのか。
密着取材しました。

「なぜポルノにのめりこんでしまうの?」

ネット・ポルノに依存する ケイラムくん
「さっぱり分かりません。
ただ、頭からポルノが離れないんです。
どうしてもスマートフォンを手放せない。
自分でも嫌になります。」

「それから、どうするの?」

ネット・ポルノに依存する ケイラムくん
「またポルノを見るんだ。」

運転中、ケイラムくんはきれいな女性を見かけると、たちまち反応してしまいました。

「どこへ行くの?」

ネット・ポルノに依存する ケイラムくん
「トイレです。」

「気分は?」

ネット・ポルノに依存する ケイラムくん
「すっきりした。」

「自分で処理してきたってこと?」

ネット・ポルノに依存する ケイラムくん
「ええ、でもイライラします。」

「どういうこと?」

ネット・ポルノに依存する ケイラムくん
「自分が嫌になるんです。」

「なぜ?」

ネット・ポルノに依存する ケイラムくん
「やるまでは、最高な気分なんだけど、終わるとむなしくなるんです。」

「薬物依存症みたいだね?」

ネット・ポルノに依存する ケイラムくん
「そのとおりです。
自分を止められません。」

ケイラムくんのポルノ依存は、果たして本当に薬物依存症に似ているのでしょうか。
依存症の世界的権威、ケンブリッジ大学のブーン博士はポルノ依存について研究しています。

英ケンブリッジ大学 神経精神科医 バレリー・ブーン博士
「ポルノ依存の研究はほとんどされてこなかったので、どんな結果が出るか分かりませんでした。」



薬物依存症の患者が薬を摂取すると、脳の「快楽中枢」が反応します。
果たして、ポルノ依存の人はどうか。
ブーン博士は、ポルノに依存する19歳から34歳までの男性20人と、健常者を募って、比較実験を行いました。
それぞれに過激なポルノ動画を見せて、快楽中枢の反応の違いを分析した結果、衝撃的なデータが得られました。

英ケンブリッジ大学 神経精神科医 バレリー・ブーン博士
「快楽中枢がはっきり活性化しています。」

ポルノ依存の人たちの快楽中枢は、健常者に比べて、2倍も活性化していました。
薬物やアルコールの依存症の人たちと同じ結果でした。

英ケンブリッジ大学 神経精神科医 バレリー・ブーン博士
「ポルノ依存は、確かに薬物依存症に似ています。」

もちろん1つの研究結果だけでは決められません。
ポルノ業界の団体は「ポルノ依存は薬物依存症などとは異なる」、「買い物やゲームに夢中になるのと同じだ」と意義を唱えています。

子どもに広がる ポルノ依存の危険性

鎌倉
「スタジオにゲストをお迎えしています。
インターネットと教育に詳しい千葉大学教育学部教授、藤川大祐(ふじかわ・だいすけ)さんです。」

髙尾
「リポートの後半で取り上げていました『ポルノ依存』という、まだ耳慣れない言葉なんですけれども、科学的にも、まだ完全に解明されたというわけではないということで、どうご覧になりましたか?」

千葉大学教育学部 藤川大祐教授
「しかし、あの映像を見ている限りでは、ご本人は深刻ですよね。
非常に辛いと思いますね。」

髙尾
「やはりこうした子供たち、日本でも現実に起こり得るんでしょうか?」

千葉大学教育学部 藤川大祐教授
「おそらく、最近、特にスマートフォンが普及したりいたしまして、子どもたちのネット環境が大きく変わっておりますので、こういった問題が起きてることは心配ですね。」

鎌倉
「やはりスマートフォンの普及というのは、ネット・ポルノへの接触をかなり増やしているんですか?」

千葉大学教育学部 藤川大祐教授
「プライベートな空間で見やすいということと、パソコン用の動画が見やすいということもありますよね。
ですから、子どもたちがスマートフォンを持つことによって、こういったサイトを見てしまうということは心配ですね。」

髙尾
「急激にスマートフォンは今、普及してきているということなんですね?」

千葉大学教育学部 藤川大祐教授
「ここ1、2年で急激に普及しておりまして、高校生のデータですと一昨年(2011年)が携帯を持っている中での7%しかいなかったのが、昨年(2012年)は内閣府の調査では56%。
総務省の調査では、高校1年生だけに限ると84%がスマートフォンということなんですね。」

鎌倉
「そうすると接触する機会も増えて、それだけもの凄い勢いで増えていると?」

千葉大学教育学部 藤川大祐教授
「そうですね。
ここ1、2年でかなり急速に普及していますので、慣れない中で持ち始めて、あまりよくない利用をしてしまうということもあるかもしれませんね。」

ネット・ポルノ依存 日本の子どもたちは

髙尾
「やっぱりインターネットが当たり前になって、子どもたちが今、育って、思春期を迎える子どもたちっていう、初めての世代という言葉が出ていましたけれども、やっぱり日本でも今後、直面していく課題ということになるんでしょうか?」

千葉大学教育学部 藤川大祐教授
「おそらく、もう既に起こっているのかもしれませんよね。
なかなか表面に出てこないですけれども、既に起こっているかもしれません。」

ネット・ポルノ依存 その弊害は

鎌倉
「例えばこういうネット・ポルノに依存してしまう子ども、これをそのまま看過しておくとどういった問題が起き得るんですか?」

千葉大学教育学部 藤川大祐教授
「今、映像であったようなこともありますけれども、私が懸念するのは、特に暴力的な映像をたくさん見てしまうと、性ということと暴力というものが結びついてしまいまして、異性を暴力の対象としてしか見られなくなるという性の歪みと言うんでしょうかね、そういうものが心配ですよね。」

鎌倉
「そうすると、やはり犯罪が起きやすいんですか?」

千葉大学教育学部 藤川大祐教授
「直接、犯罪につながるかどうかというのは分からないんですけれども、異性関係の交際の中で、暴力的になりやすくて、相手側がすごく嫌な思いをするとか、辛い思いをするということが考えられますよね。
最近デートDVなんていう言葉もありますけども、そういう暴力的な関係が1つは心配ですね。
仮に暴力的でないとしても、映像の性の描写というのは実際の性交渉とはちょっと違うもので、視聴覚に訴えるために演出されている訳ですよね、そうすると実際の関係とは違うますから、実際の関係では満足が得られなくて、映像の方を求めてしまうということも考えられますよね。」

鎌倉
「そうすると生身の人間との交際よりも、そっちの世界に没頭してしまうことも?」

千葉大学教育学部 藤川大祐教授
「そういう恐れも、当然ありますね。」

ネット・ポルノ依存から子どもを守るには

鎌倉
「子どもたちをそういったネット・ポルノの依存に陥らせないための対策って、何ができるんですか?」

千葉大学教育学部 藤川大祐教授
「今まで考えられてきたことは、フィルタリングなんですよね。
つまり有害サイトにアクセスさせない仕組みであります。
これは子どもが使う携帯電話、パソコンにはかけましょうということで、かけていればポルノサイトには行けないということなんですね。
ところが、スマートフォンになってちょっと状況が変わってきています。
というのは、フィルタリングが効かない場合というのもありまして、携帯電話の回線でない回線を使うと、フィルタリングが効かない場合もあるとか、特殊なアプリを使うとかからないとか、そういう抜け道を子どもたちが発見してしまうこともあります。」

鎌倉
「アプリというというのは、ブロックを解除するアプリとかそういうものですか?」

千葉大学教育学部 藤川大祐教授
「ルートをちょっと変えて、迂回して問題あるサイトに行けてしまうアプリというのもあるんですよね。
さらに最近は、有名なサイトって言うんでしょうかね、サービスでフィルタリングの対象になっているものが多いんです。
ツイッター、フェイスブック、ラインというのは、みんな標準的なフィルタリグではブロックされてしまう。
ですから、子どもたちがフィルタリングを外す傾向があるんですね。」

鎌倉
「つまりそういった人気のアプリを使うためにはフィルタリングを取らないと使いにくい?」

千葉大学教育学部 藤川大祐教授
「親と相談してフィルタリングをやめよう、ということになりやすくて、スマートフォンを使っているお子さんたちのフィルタリングの普及率が下がってるんですね。」

鎌倉
「でも、実際それを使っている子どもは今、多いわけですよね、そういった人気のアプリ。
その部分で対策は進められるんですか?」

千葉大学教育学部 藤川大祐教授
「こういったアプリを使ってもフィルタリングがかかる仕組みというのもなくはないのですが、分かりづらくてフィルタリング全体を外してしまうという選択をするお子さんが多いんですね。」

氾濫するネット・ポルノ 子どもをどう守る

髙尾
「やっぱり現実問題として、全てフィルタリングでブロックするというのは、どんどん難しくなってきているんだと思うんですけれども、そうした現実の中で、そのネット・ポルノの弊害から子どもたちを守る手段というのはどういうことがあるんでしょうか?」

千葉大学教育学部 藤川大祐教授
「本来は教育、特に性教育の課題なんですよね。
つまり、交際する相手のことを、人格を尊重し、もちろん体も尊重してお付き合いをするということを学ばせなくてはいけないんですが、今は逆にメディアを通して偏った性情報に接することの方が多くて、性教育が追いついていないということがありますね。」

髙尾
「やっぱりそういう意味では、性教育のあり方というのも変わってくるということですかね?」

千葉大学教育学部 藤川大祐教授
「日本では、伝統的にあまり性の問題について大人が子どもに話をするということが多くなかったわけですけれども、メディアがかなり変わってきまして、メディア情報とバランスをとって学ばせるということが、これまで以上に重要になってますよね。」

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