原発再稼働の前提となる原子力規制委員会の審査が、最初のヤマ場を迎えつつある。

 新しい規制基準に比較的早く適合しそうな原発の絞り込みが進み、最初の再稼働の候補原発が「優先審査」の対象として近く公表される見込みだ。

 再稼働に前のめりな政治家らからは「世界一厳しい規制」といった言葉も聞かれる。基準を満たしさえすれば問題ない、と言いたげだ。

 だが、それは違う。

 周辺住民の避難計画や使用済み核燃料の行き先など、規制基準には含まれない大きな問題が横たわっている。それだけではない。規制委による審査そのものも改革途上であるからだ。

 規制委の審査はまだ、福島第一原発事故の反省を十分に反映しているとはいえない。狭い範囲に多くの原発がある集中立地の問題など、重要課題がいくつも残されている。

■集中立地は未検討

 思い起こそう。3年前、福島第一では1、2、3号機が次々に炉心溶融を起こし、大量の放射性物質をまき散らした。

 「どこまでひどいことになるのか」。日本中が底知れない恐怖に襲われた。

 4号機の燃料プールが過熱して使用済み核燃料が大規模に破損すれば、放射能汚染で近づけなくなる恐れがあった。

 そうなれば、停止中の5、6号機や12キロほどしか離れていない福島第二の4基まで、最大10基の原発から次々に放射能が放出されることもありえたのだ。

 運転員の懸命な努力や4号機燃料プールに大量の水が流れ込んだ幸運などで、「最悪のシナリオ」はかろうじて免れた。

 それでも、世界の原子力規制当局には衝撃を与えた。主流になっている軽水炉で放射能を大量放出する過酷事故が起き、さらに燃料プールや集中立地のリスクまで浮上したためだ。

 日本を含む各国とも、自然災害対策などを見直し、複数基の同時事故に対応できる態勢を事業者に求めるようになった。

 ただ、7基を抱える柏崎刈羽原発(新潟県)があり、福井県内には14基の原発・高速増殖炉が集まるなど、日本は集中立地では世界的にも突出している。それを考えると、規制委の取り組みは甘い。

 規制委の田中俊一委員長は「いずれ議論しなければいけないが、まだしていない」という。1カ所でいくつもの原発が同時に動く状況はまだ先と考えているからのようだ。

 しかし、燃料が入った原発は止まっていても危険がある。運転は1基でも、近くに原発があれば事故拡大の危険がつきまとう。特に複数の事業者が絡むと事業者任せではすまない。

 日本こそ率先して検討すべき問題だ。集中立地のリスクに正面から向き合わずに、審査結果をどう説明するつもりなのか。

■訓練も抜き打ちで

 新規制基準は、地震や津波などの自然災害に備えた設備面では格段に厳しくなった。

 過酷事故も想定させ、各原子炉で炉心損傷事故の確率を1万年に1回程度以下に抑えるなどとする「安全目標」も定めた。目標を満たすように構造や設備を強化させる。

 欧米では広く採用されている手法で、日本でも10年以上前から議論されながら安全神話に阻まれて導入されずにきた。

 安全目標で比べれば、各国とほぼ同水準であり「世界一」ではない。設備の追加要求に事業者は不満顔だが、自然災害の多い日本では最低限の水準と考えるべきだ。

 一方、運転時の事故対応などソフト面の規制はまだ弱い。航空機の衝突しか考慮していないテロ対策も含め、抜本的な見直しが必要だ。訓練の立ち会いで済まさず、事故やテロ時の対応を事前の打ち合わせなしで実地で審査するなど、海外の実践例にも学んで強化すべきである。

■周回遅れ取り戻せ

 福島での事故は事業者に都合のいい規制のもとで起きた。規制強化は欧米から周回遅れであり、早く追いつく必要がある。

 国民への説明にはもっと意をつくすべきだ。委員長会見や審査会合をインターネットで中継したりしているが、審査や規制について社会にどこまで伝わっているだろうか。避難計画への関与も強めてもらいたい。

 実務にあたる職員の能力と意欲を高めることも不可欠だ。

 原子力規制庁は原子力安全基盤機構を統合し、職員が約千人に倍増した。機構は事故前も審査実務を担い、「事業者寄り」との批判を浴びた。新生規制庁は意識を改め、事業者と健全な緊張関係を持ち、規制の質を高めなければならない。

 それには規制委が原発推進派から独立を保ち、規制の意義を職員に浸透させる必要がある。

 安倍政権や事業者は再稼働を急ごうとしている。しかし、規制委はあくまで厳格な審査を貫き、常に改善策を追究していく姿勢が求められる。