生物物理計算化学者の雛

計算化学や研究に関連する諸々を書き留めています。ブログサービス引っ越しのためデザインが変わりました。

高校生の論文が載った雑誌はまともに査読をしていない疑惑のあるオープンアクセス誌のようです

高校2年生の生徒がインドの査読付き国際数学雑誌に論文が掲載されたというニュースがありました。
高2前数学部部長、インドの国際数学雑誌に論文掲載される! (海城PRESS)

高校生にして査読付き論文を発表できることは極めて異例ですので、この高校生は素晴らしい素質、能力があるものと思います。

特に数学という学問は、若い頃から素晴らしい成果を残す天才的な人がいる分野だと思いますし。
(少しわき道にそれますが、その点化学は経験がものを言う部分が大きい気がします。天才的な能力を持たない私のような凡人でも、なんとか成果をだしていけるのでは・・・と自分に言い聞かせながらがんばっています。)

掲載されたのはオープンアクセス誌

ちょいとどんな論文かみてやろうと思ってサイトにアクセスしたところ
Scientific Advances Publishers
自宅からでも論文のPDFを見れたため、誰でも読めるオープンアクセスなんだとわかりました。

普通の論文誌は年間契約等を結んで代金を支払っている購読者しか読むことができません。
それに対しオープンアクセスの雑誌は、誰でも自由に読むことができる代わりに、投稿者が掲載料を支払う必要があります

そのため、どんな内容の無い論文であっても査読の基準を非常に甘くして、とにかくたくさんの論文を掲載し、掲載料を稼ごうとするオープンアクセス雑誌が乱立しているとされています。

2009-06-13 - かたつむりは電子図書館の夢をみるか
興隆するオープンアクセスジャーナルに対する挑戦か?それとも嫉妬か?サイエンス誌

ちなみに今回の論文が載った雑誌Journal of Algebra, Number Theory: Advances and Applicationsでの掲載料は1ページあたり20ユーロ(
Scientific Advances Publishers の7. What are publication charges?
)となっており、今回の11ページの論文で掲載料220ユーロ(3万円強)を掲載料として支払っていると思われます。


今回の論文の雑誌は掲載料目当ての出版社から出ている模様

掲載料目当てと思われるオープンアクセス誌の出版社がまとめられたリストが公開されています。
LIST OF PUBLISHERS | Scholarly Open Access


今回高校生の論文が載った雑誌の出版社はScientific Advances Publishersですが、見事にこのリストにのっていました。

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というわけで、論文が載った雑誌は査読付きとなっていはいますが、きちんと専門家によるまっとうな査読がされたか?という点では極めて怪しいという結論になってしまいます。

実際にまともな雑誌であれば付与されている指標であるインパクトファクターも、この雑誌については算出されていませんでした。

さらなる傍証として、この論文の受取日(Received date)は2013年12月31日、そして差読後の改訂、修正完了(Revised)が2014年1月8日となっており、査読による改訂がわずか10日足らずで完了している点が挙げられます。
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(少なくとも私の分野(化学)であれば、どんなに早くても1ヶ月はかかります。またインパクトファクターが付与されている数学分野のまともな雑誌(Journal of Algebra)の論文をいくつか見てみましたが、Recievedから出版まではやはり数ヶ月以上かかっていました。)

さらなるブラッシュアップを経てまっとうな雑誌への投稿を期待

というわけで、高校生が査読付き雑誌に論文を発表したものの、その雑誌はおそらくまともな査読がされていない雑誌である可能性が高いことがわかりました。

この論文の内容にどれほどの価値があるのか、結果が正しいのかは私には判断ができません。

ですので、是非ともこの高校生には内容のブラッシュアップを図った上で、まっとうなインパクトファクターの付与されている雑誌への投稿に挑戦してほしいものです。


推薦入試への箔付けとして掲載料目当てのオープンアクセス誌を利用できちゃう?

大学の推薦入試では全国大会出場、資格取得(英検など)といったわかりやすいアピールポイントがあるとアピールしやすいことと思います。

ある程度の英作文ができるのであれば、そのアピールポイントとして査読付き雑誌に論文掲載!なんてことがまともに査読をしないオープンアクセス誌を利用すればできちゃうことになりますね。

推薦入試を狙っている高校生は是非挑戦してみてください、なんちゃって。
(本気にしちゃダメですよ、場合によってはこういう雑誌に論文が載っていると将来逆に悪く評価されちゃうリスクもありますのでね)