第五十一話 有効な治癒魔術の使い方
7443年3月10日
『じゃあ、契約書は失くさないでくれな。出来れば信用がおける場所に預かって貰うのが一番だ。俺も一通自分で保管して、最後のは行政府に預ける。だから俺が給料を払わなかったりしたら契約不履行で訴え出て強制執行させることが出来る。そういう時は納税証明書かステータスープンで貴族の証明が必要になるけどね』
そう言って二人の顔を見て微笑んだ。
『まぁ、心配はいらないわよ。そのあたり、アルはしっかりしてるからね』
『無理なことを言うこともありませんし、ちゃんと実力を考えてくれますから……アルさん、あの話はしないのですか?』
あの話ってどの話かね。大体想像つくけど。
『ああ、これから話をする。君達はもう神様に逢っているからレベルアップのことは知っていると思う。……うん、予想通りだ。だが、それだけだと30点と言わざるを得ない』
トリスとグィネが不思議そうに見ている。
『これは以前俺が会った転生者と話したり、実際に自分で検証したり、いろいろな場面から想像したに過ぎないから、完全に正解であるとは言えないが、限りなく100点に近い回答だと思う』
俺はそう前置きをすると一口お茶を口に含んだ。俺の好きな豆茶ではないが、高級店で扱うのにふさわしい、馥郁たる香りと味に満足する。
『レベルは技能のレベルの他にもう一つある。便宜上、肉体レベルと呼んでいる。技能のレベルのようにステータスオープンで見たりすることは出来ないから証明は出来ないけれど、肉体レベルは“ある”と思ってまず間違いないだろう。君達は前世でゲームで遊んだことはあるかな? うん、二人共若いからあるだろうとは思っていた。なら話は早いな』
コンピューターのロールプレイングゲームになぞらえて簡単な説明をする。当然いきなり納得なんかするはずもないが、今は知識として頭の中に“こういう情報がある”ということを入れることが大切だ。正直な話、二人共レベルはたいしたことないからすぐに上昇するだろう。特にグィネのレベルは低いからあっという間に何レベルも上昇するはずだ。そうなると流石にステータスの上昇の恩恵についても実感出来ると思う。ズールーやエンゲラと言った、充分に種族的に元々のステータスが高い亜人ですら連続してのレベルの上昇に気づいた節があった。
元々の能力値が低いグィネが同様にレベルアップを繰り返したら確実に気がつくはずだ。これはトリスだって同様だろう。だから、今はこれでいい。
『その辺は迷宮で魔物、モンスターを狩っていけば君たちもおいおい自覚すると思うよ』
そう言ってまた二人の顔を見た。どうにもうさんくさげな表情だ。
『うん、いきなり信じられないのも無理はないね。そうだな簡単な実験をしてみようか? トリス、君は二年くらい冒険者をやっていたと言っていたね。ベルはだいたい一年で、しかも女性だ。二人で腕相撲でもしてみるとよくわかると思うよ』
『え? 面白そう。私もやりたい! 最近結構力出てきたと思うんだよね!』
ラルファ、お前には言ってないよ。ま、いいけどさ。
『まぁ、ここでやるのも、ほら、なんだ。トリス、後でベルとやってごらん。多分だけど勝てないよ。君が俺たちの想像もできないほど、いつも訓練に打ち込んで鍛えているなら別だけど、それにしてもベルの力には驚くはずだ。そうすればさっきの話にもある程度納得が行くと思う。グィネは……そうだな、こんなのはどうかな?』
俺は部屋の入り口あたりの何もないところに行くといきなり倒立をする。そのまま肘を曲げていき、体を地面と水平になるまで下ろし、水平倒立へと移行した。そしてまた倒立へと移行する。勿論手のひら以外を床には着けていない。何度か繰り返したあと、水平倒立のまま腕立て伏せもする。息はちょっと乱れた程度でどうということはない。
うん。初めてやったが、高い能力値に支えられているからこそ出来ることだろう。トリスとグィネは唖然としていた。ベルとラルファも驚いていたようだが、この二人にはどこか納得したような表情が浮かんでいる。
『今のは前世だと相当トレーニングを積んだ体操選手くらいじゃないと出来そうにないことはわかるよな? まぁ体操選手ってのは言い過ぎかも知れないけど、筋力だけじゃ無理だ。バランス感覚も必要なことくらいは理解できるだろう? 高負荷の運動を継続できる体力も必要だしね。ベルもラルファもここまで出来るかは解らないけど、二人共15歳の女性と言うには不自然なくらいの体力や筋力があることは確かだよ。本当に後で腕相撲をして確かめてみるといい』
唖然として口を開いたままのトリスとグィネに言った。続けて、
『あと、二人共、ロンベルト王国出身なら知っていると思うけど……特にグィネはロンベルティアだから当然知っているはずだから……これは自慢だけど、さっきラルファが言った通り、俺は昨年の年末、ちょっと縁があって第一騎士団の団長、副団長、第三中隊の中隊長の三人と模擬戦をした。団長には惜しくも負けたけど、残りの二人には勝った。で、これは負け惜しみだけど、王妃殿下の前での模擬戦のため、俺は一番得意な武器を使うことは許されなかった。固有技能が関係するからもっと得意な魔法も使えなかった。それでも団長とはそこそこ打ち合えたよ。当事者の話だけで実際に目にしていないから信じ難いだろうけど、事実だ。肉体レベルの上昇によるものが大きいと思う』
流石にレベルアップのおかげの能力上昇だけではないとは思うが、それでも魔物を殺すことによって地道に(俺の場合、天稟の才があるのでそう威張れたものではないが)危険と隣り合わせの苦労を重ねる必要もある。幼少時から叩き込まれた剣技もそうだし、前世の知識である格闘の鍛錬だってしてなきゃあれだけのことはできなかったろう。
『断言するけど、トリスもグィネも時間をかけて稽古や……これが適当な表現と言っていいのかはわからないけど、魔物を殺すことによる経験を積めばこれくらいはいずれできるようになると思う』
・・・・・・・・・
その晩は一度全員で宿まで行き、財布などを持ったあと、改めて宿の前でトリスとベル、ラルファとグィネ(二人は今晩グィネの家に泊まるらしい)、そして俺の三グループ(俺だけグループではないが)に別れる。明日は各自で朝食を摂ったあと、この(今まで俺とラルファも併せて三人で宿泊していた)宿で落ち合うことにした。時刻は既に21時を回っている。
俺はそっとゴム袋をトリスに渡してやることを忘れなかった。可能性は極小だとは言え、万が一にもベルが当たりを引いたらまずいしな。最後に宿のトイレで『最初だからな。奢りだよ』と言ってトリスにゴム袋を渡してやったとき、すぐには何なのか理解できなかったようだが、流石に日本人なだけあってすぐに理解したようだ。『あ、ありがとうございます』と言って顔を赤くして礼を言って来た。素直なのはいいことだ。Mサイズで合うといいんだがな。ま、大丈夫だろ。
ベルの肩を抱きながらトリスが宿に消えていくのを三人でにやつきながら眺めたあと、一人で歩き出そうとした俺にグィネが声をかけてきた。
『アルさん……その……もし良かったら、部屋もありますし今晩は家に泊まりませんか?』
『そうよ、アルも一緒に来なさいよ。どうせ一人で寂しいんでしょ?』
無駄な宿泊費が浮くのは嬉しいといえば嬉しいが所詮は端金だ。
『ありがとう。でも君達も久々に会ったんだ、積もる話もあるだろう? 折角のお誘いだけど今日は遠慮しておくよ。じゃあ、明日またここでね。あと、オメーはあとで殺す』
笑いながらそう言って歩き出した。胸を張れ、寂しくなんかない。
・・・・・・・・・
俺の向かう先は決まっているのだ。そう、正月に邪魔が入って行けなかった王都の最高級店、その名も「エメラルド公爵クラブ迎賓館」だ。なんとも品のない名前だが、何故か名前からして俺の琴線に触れる。迷うことなく店までたどり着く。キールの「リットン」は嬢のレベルは高かったと個人的に思うが、店の作り自体は外見と一部の待合室は大したことなかったが、この店は格が違った。開け放たれた玄関の両脇には明かりと暖房の魔道具があり、玄関のすぐ正面のカウンターには「リットン」にいたセバスチャンよりも品の良い紳士が上品な笑みを湛えて姿勢よく立っていた。
「すぐ行けるかな?」
俺はそう言って右手を差し出す。
「いらっしゃいませ、勿論ですとも。今は丁度いい時間ですので、殆どの子が空いていますからね。ステータスオープン……当店は初めてでございますね? 料金のご説明は必要ですか?」
王都は遅くまで営業している店が多いとは言え、二十二時前というのは、夕方に入った客が丁度入れ替わるくらいの時間らしい。
「ああ、頼む」
「では、こちらへ……」
そう言って紳士は俺を待合室らしき豪奢な部屋に案内した。待合室には毛足の長い真っ赤な絨毯が敷かれ、その上に四脚ほど上等なソファが置かれている。紳士に勧められるまま、上等なソファに腰を下ろすと、ズボっという感じで埋まるほどふかふかだ。ふんぞり返るのにこれ程最適なアイテムも他にあるまいよ。
そんな俺の脇で片膝を立てた紳士が口を開いた。
「当店のホステスに奴隷はおりません。全員が自由民以上の階層です。そして、料金ですが、部屋の賃貸料として三時間当たり20000Z(銀貨2枚)、奉仕料として40000Zとなっております」
ほうほう、全て自由民以上ということは奴隷はすぐに自分を誰かに身請けさせるだけ稼いでいる、ということだろうか。それとも高級感の演出だろうか。どっちでもいいけど。それから三時間当たり60000Zか、今二十二時くらいだから、朝七時くらいまでだと18万Zということだ。ん?
「部屋の賃貸料と奉仕料が別れているということは、俺の借りた部屋にホステスを複数呼べるということかね?」
俺がいやらしい声でそう尋ねると紳士は一瞬驚きを隠せなかったようだが、すぐに表情を消して答えた。
「勿論ですとも。ですが、その場合、ホステス毎に奉仕料を頂くことになりますが……」
「ああ、そりゃそうだろう。すぐ行けそうな子、見せてよ」
「はい、ただいま」
そう言うと紳士はさっと身を翻し、部屋から出ていった。マホガニー製の重厚だが背の低いテーブルに手を伸ばし、用意された茶を啜る。十分も待つと、紳士はぞろぞろと女を連れて部屋に入ってきた。おお、どれもこれもいい女ばかりだ。全部で十人以上いる。
俺は端からじっくりと検分するかのように女たちを値踏みした。
よし、決めた。
「ん、まずあの子」
俺が指さしたのは赤い髪の勝気そうな美しいプロポーションの普人族、どうやら一番人気のNo.1の嬢らしい。俺の見る目は確かなんだな。
「ん~、それからあの子」
次に指さしたのは栗色の髪の美人さんだ。あの大きく垂れた耳は犬人族だろうか。ちょっと前までこの嬢がNo.1だったとのことだ。うむうむ。
「それからねぇ。あの子」
三番目に指さした相手は長い金髪で目を見張るような巨乳の普人族だ。この嬢はNo.4らしい。あれれ?
「で、あの子かな」
最後に指さしたのは赤い髪と小麦色の肌をした健康そうな普人族だ。この中では一番年齢が高いみたいだ。この嬢はNo.5とのことだ。きっと素晴らしいテクニックを誇っていることだろう。
No.3が気になるところだが、まあいいだろ。去年彗星のごとく現れて急激に人気が上昇し、あっという間にNo.3にまでなったらしいが、最近は出勤率が落ちているらしい。まぁ風俗なんて水ものだしな。
とにかく、今度こそ遊んでやるわ。思えば長かった。去年の四月、キールの「リットン」で流されてダメになって以来、既に一年近くが経過しようとしている。四人の嬢を朝まで指名すると、それだけで48万Zだ。うほっ、なんとも贅沢だ。だが、記念すべき日だし、これでいいのだ。俺は金朱を二つ取り出し、何故か財布に入っていたエレクトラム貨も一枚取り出すと、それを紳士に渡しながら言った。
「細かいのが無くてね、釣りはいいけど、ちょっと大きめの部屋を頼むよ」
合計60万Zとちょっと多めの代金を支払い、意気揚々と案内された「ティアラ」の間は広く、豪華であった。美紀、すまん。もう我慢できねぇわ。
朝までかけて全員二回ずつ食ってやった。
勿論使うものは使っている。
うむ、流石は兄貴が手ずから改良した材料で作った物だ。
使用中に切れるなんてアクシデントはなかった。
彼女たちは見たことのない製品に興味を覚えたようだ。二つ余っているからNo.1とNo.2の嬢に「バークッドのゴムを使った新製品だ」と言って上げることにした。
流石に四輪車は疲れたがかなり満足した。
折角の初体験だ、こんくらいじゃなきゃな。
・・・・・・・・・
7443年3月11日
まだ三月だと言うのに「エメラルド公爵クラブ迎賓館」を出たら太陽はいつもより黄色く眩しく感じられた。このところ網を張ったあと、毎晩のようにベルやラルファと宿で話していたから久々に思う存分発散できたのは大きいが、やはり贅沢すぎる。でもまた来よう。今度はどの部屋にしようかな。
そう考えながら寝不足の頭で宿に向かう。
宿に俺が着くと殆ど同時にベルとグィネも到着した。ベル達は出てこない。
「おいラルファ、お前、呼んで来いよ」
なんか俺が呼びに行くのも嫌なのでラルファに言った。
「ええ~、ちょっとそれはねぇ……」
だよな。
俺たちはベルに気を使って宿を空けたんだよ。
知り合いに気兼ねする必要のないようにしたんだけどなぁ。
ベルならそのくらい分かりそうなもんだけど、やっぱり嬉しかったんだろうな。
丁度良いのでグィネに話しかける。
「グィネ、ちょっと相談があるんだけど、いいかな?」
「はい、なんですか?」
小さな体で俺を見上げてくる。
「昨日ちらっと話したことなんだけど、俺の商会の本拠地をロンベルティアに作ろうと思ってね。不動産屋とか知り合いがいたら紹介して欲しいんだが、どうかな?」
俺がそう言うと、彼女はちょっと困った顔をしながら返事をしてきた。
「ごめんなさい、知らないんです。そのあたりのことは全部お父さんがやっていたので……」
「ああ、そうか、気にしないでくれ、もし知っていたらという程度の話だ。第一騎士団にでも紹介してもらうよ」
申し訳なさそうな彼女に気にしなくていい、と言いながらもあまり第一騎士団に頼りすぎるのもいかがなものかと思っていた。でも、仕方ない。姉ちゃんは……知ってそうにねぇよなぁ……。ああ、行政府で紹介して貰うという手もあるな。
「それはそうと、グィネ、君が一緒に来てくれるのは嬉しいよ、ありがとうな」
グィネの【固有技能:地形記憶】は、恐らく迷宮を進む上で最高の手助けになるだろう。ラルファの空間把握による方位の掌握と併せて、多分俺たちだけが正確な迷宮の地図を作成できる筈だ。
「いえ、正直に言うと、私もこれからどうしようか悩んでいたので……。商会の免状を取り直すにしても時間もかかると思いますし……。本当はトリスと暫く冒険者をやってベルさんを探すのを手伝ってもいいかなぁって思っていたんです……」
首から下げた小さな袋を撫でながら言った。昨晩の話だと、あの袋の中にはグィネの両親の魔石が入っているらしい。出先で亡くなったので魔石だけ王都に連れてきたとのことだった。
「そうか、人生山あり谷ありだ。いろいろあるだろう。だけど、後悔しないように一生懸命やってりゃそのうち良い事もあるさ。安心してくれ。俺のパーティーに入ったことを後悔はさせないつもりだよ」
「そうよ、アルはすっごく強いし、いろいろ知ってるしね。何をやるにしてもある程度の力は要るでしょ? 死んじゃおしまいだけど、アルと一緒ならそう簡単には死なないわよ」
俺達の話を聞いていたラルファも首を突っ込んできた。珍しく俺のことを持ち上げている。
「ああ、その点は安心してくれていいよ。無理をさせるつもりもないしね」
そんな事を喋っているうちにベルとトリスが出てきた。ベルは少し歩き方がおかしい。
【ベルナデット・コーロイル/4/4/7429】
【女性/14/2/7428・兎人族・コーロイル準男爵家次女】
【状態:裂傷】
【年齢:15歳】
【レベル:9】
【HP:95(97) MP:75(75) 】
【筋力:14】
【俊敏:21】
【器用:14】
【耐久:13】
【固有技能:射撃感覚(Max)】
【特殊技能:超聴覚】
【特殊技能:無魔法Lv2】
【特殊技能:地魔法Lv2】
【特殊技能:水魔法Lv2】
【特殊技能:火魔法Lv2】
【経験:103243(110000)】
ああ、俺って最低だな。しかし、裂傷か。HPも2減っている。いま治癒魔術をかけたらどうなるのだろうか? ベルも効果は大したことないものの、治癒魔術はもう教えている。なぜ使おうとしないのか。使ったら怪我している部分が治っちゃうからだろうな。
「ベル、なにその歩き方、変なの」
知ってはいたがラルファは本当に馬鹿だな。ほら、ベルとトリスの顔が真っ赤になっちゃってるじゃないか。グィネも微妙な表情でラルファの尻を叩いている。多分ラルファの頭まで手が届かないからだろうけど。
「黙ってろ、阿呆。俺たちはもう朝食は食ったが、トリス達はどうなんだ? まだならゆっくり食ってきて構わないぞ。その間に馬を用意して来るからな」
俺がそう言うと、グィネがハッとして言った。
「あっ、私、馬が二頭に荷馬車がありますけど、どうしましょう?」
ああ、そう言えばそうだ。それに多少在庫も残ってると言っていたな。トリスとベルは俺たちに会釈をして歩き去った。やっぱ飯食ってなかったのか。昨晩は随分とお楽しみのようで……俺もだけどな。
「それもそうだな。普段はバルドゥックで迷宮に入るから、もしすぐに必要無いなら処分した方が……いや、良かったら俺に買い取らせてくれないか? 多少相場に色をつけてもいいよ」
「うーん……でも……いや、そっちのがいっか。アルさん、お願いします」
「わかった。後で相場を調べるからそれからでいいかな?」
「あと、ついでに家もどうしようかな……」
流石に家は買取りたくないわ。いや、金の問題じゃない。あの程度金貨10枚もありゃ買えるし。ボロいし、場所も良くないから完全に死に財産になっちまう。転売するにしてもそう簡単に買い手も見つかりそうにない。
「もし売却を考えているなら、これから行政府まで行って不動産屋を当たるつもりだから、そこで話してみたらどうかな?」
俺がそう言うと、
「あ、それもそうですね」
とグィネは納得したように言った。
「え? あの家、売っちゃうの? ずっと住んでたんでしょ?」
ラルファがちょっと心配したように言った。
「うん、でも、昨日考えたの。誰かに貸すのもいいけどね。借り手探すのも……あ、不動産屋さんで聞いてみればいいのか」
グィネはそう言うと一人納得していた。
「うーん、今日も王都に泊まった方が良さそうだな。ラルファ、俺達はこの宿を出よう」
「そうねぇ。そうしよっか。若菜、今日も泊めて」
ラルファがグィネを拝むようにして言った。
「それはいいけど、若菜ってよりグィネって呼んでよ。何回も言ったでしょ? 若菜は死んだし、私はお父さんとお母さんに付けてもらった名前があるの」
そりゃそうだ。
「えへへ、ごめんごめん、つい、ね」
「アルさんもどうですか? 昨日はお陰さまでラルと沢山話できましたし、気兼ねは要りませんよ」
舌を出して謝るラルファを他所に、グィネは俺の方を向いて言って来た。
「そりゃ助かる。ありがとう。でも、いいのか?」
「え? いいの? ……まぁアルなら変なことしないでしょ。でも別の部屋で寝るからね」
俺もグィネも冗談だとは解ってはいるが、つくづくラルファは空気の読めない馬鹿だな、という顔をしていたと思う。
・・・・・・・・・
それから、行政府で紹介を受けた不動産屋に行ってみた。ロブン男爵という人が自ら経営している不動産屋だった。どちらかというと主に貴族を相手にする不動産屋らしい。グィネの家の借り手についてはひと月もすれば見つかるだろうとのことだ。これは王都には領地を持たず、官職だけで生計を営む貴族も多く、当然ながらあまり裕福ではない人もいるからだそうだ。そう言った貴族に賃借の需要はあるらしい。当然一度手入れは必要だろうけれど。
だが、俺の希望するあたりの商会の本拠となるような売り物は無いそうだ。
仕方ない、商業向けの不動産屋を探すしかあるまい。又は、鎧のメンテナンス用という名目で第一騎士団に泣きつくのも最悪の場合ありっちゃありだ。
一日かけて可能な事は全て行った。
明日は全員でバルドゥックへと移動する。丁度土曜で迷宮探索は休みだし、明後日の月曜から改めて迷宮には再チャレンジだ。今度は、秘密兵器を擁しているからな、サクサク進めるようになるだろう。
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