kahoの日記: STAP細胞の非実在について#4 8
ここまで私はChIP-seqの”input”を元に解析を行ってきました.
このデータはまだいくつかのことを教えてくれますが,内容がほぼ学術論文のようになってしまうので,遺伝子発現について先に見たいと思います.
今回彼らが公開したNGSデータはChIP-seqとRNA-seqの実験のものです.このうち遺伝子発現を見るのはRNA-seqであり,いくつかの図を示しています.このRNA-seqデータは調べたい内容に対して不適当なほど長い配列を読んでおり,扱いづらい(計算時間がかかる)のですが,今知りたいのは大まかなアウトラインなので先頭の50塩基だけを使った解析を行いました.NGSデータに馴染みのない方には何のことかわからないと思いますが,データの一部を取り出して遺伝子発現について大まかな解析をしてみた,という意味です.
公開データを見ますと,2つの別々の試薬を使ってでRNA-seqを行っていることが分かります.一つはTruSeq,もう一つはSMARTer Ultra Lowです.論文の図に使われているのはTruSeqの方で,SMARTerのデータは公開されているものの論文中では使われていません.
これらはどちらがよいというわけではありませんが,試薬ごとに特性があるので比較する場合は同じ試薬を使った実験同士を比較することになります.TruSeqとSMARTerの違いは,後者は抽出できるmRNA量(≒細胞数)が非常に少ない場合にも対応している,とカタログ上うたっていることです.私の経験でも少量のサンプルしかとれない細胞ではSMARTerの方が適していると思います.
まず彼らの解析結果が再現できるかを確認してみました.TruSeqを使ったデータからそれぞれのサンプルの類似性(ピアソンの相関係数を用いました)を計算し,クラスタリングを行います.RNA-seqデータは細胞の種類ごとに2度ずつ行っており,原論文では細胞の種類ごとに分けていますが,ここではそれぞれ別にして調べました.その結果,同じ細胞のデータはそれぞれ非常に近く,そして論文と同じようにSTAPはCD45+と幹細胞の中間地点に配置され,STAP幹細胞はES細胞に近い位置に配置されました.最初に述べたように大まかな解析ですが,間違った結果を導くほどではないようです.
ちなみに,データベース上の表記では同じサンプルにSTAPと書かれている場合と酸で処理したCD45+細胞と書かれている場合が混在していて正確な条件が分かりません.図の見やすさも考えて,今回はSTAPに統一しています.
次に,論文で使われていないSMARTerのデータを同じく解析してみます.
結果はTruSeqのものと大きな違いがありました.STAPはどちらも桑実胚よりもESに近くなっています.
これらの類似性は驚くほどです.STAPは分裂しない細胞で,得られる細胞は何種類もの遺伝型をもったものの混合であるというのに,2度の実験の両方共がES細胞に近い(相関係数でいうと0.85程度で,STAP同士と同じか上)という結果です.
これは科学的に大きな発見ではないでしょうか.著者らはSTAP細胞からSTAP幹細胞を誘導(?選別?)してその多能性を検証していますが,STAP細胞そのものも,ほぼESのような性質を持っていたのです.酸で処理しただけでよいのだとすればよほど効率も上がりますし,論文の価値も高かったはずです.
著者らはSTAP幹細胞の詳細な作成プロトコルを提出するより,この実験の時のSTAP細胞の作成プロトコルを追求する方がよかったのではないでしょうか.少なくとも,これほどの有望なデータが得られたのに論文で触れないというのは解せません.2度のSTAPの遺伝子発現が2度ともがESに近かったのに.
なぜ彼らはこのデータを使わなかったのでしょうか.
先に述べたようにSMARTerの方が細胞が少ない場合に適しており,増殖能の低いSTAPにはこちらの方が適していると考えられます.なのに,細胞数が必要なTruSeqで別のデータをとりなおし,そちらだけを出版したのは何故でしょうか.
合理的な説明はいくつも考えられます.彼らに問いただしても答えは用意されているでしょう.
従ってこの結果は決定的な証拠にはなりません.ただし,私の仮説には合致するものでした.
※追記
AC氏からの指摘によりExtended Fig 6dで使用されていることに気が付きました.
大変申し訳ありません.再解析と修正を行います.
まぜもの (スコア:0)
TruSeqのほうのSTAPのdataって、単にESとT cellの混ぜ物だったりして。
STAPがあったとしてもFACSでpurifyしなきゃ混ぜ物になるんですが。
SMARTerのデータは論文中にあり (スコア:0)
「SMARTerのデータは公開されているものの論文中では使われていません.」とありますが、実際は、Nature LetterのExtended Data Figure 6のd, e, fで使用されいます。
http://www.nature.com/nature/journal/v505/n7485/fig_tab/nature12969_SF6.html [nature.com]
Re:SMARTerのデータは論文中にあり (スコア:1)
大変失礼しました.見落としていました.
このデータでのES細胞マーカー遺伝子の発現で議論したほうが良かったですね.
近いうちに修正します.
kaho
Re: (スコア:0)
Fig.6dの図の説明文のところに、「, we used pre-amplification with the SMARTer Ultra Low RNA kit for Illumina Sequencing (Clontech Laboratories).」とあります。
非STAPから (スコア:0)
非STAPのみの細胞群からスタートしなければ、何の意味も無い。
紛れ込んだものを誤認識したか、悪意で紛れ込ませたかのどちらか。
Re: (スコア:0)
非STAPのみの細胞群からスタートしなければ、何の意味も無い。
紛れ込んだものを誤認識したか、悪意で紛れ込ませたかのどちらか。
T細胞から…という証明は全くなく、元々組織中に有った多能性幹細胞を抽出しただけなんでしょうか?
もしかするとmuseと同一の細胞を別の手法でpick upしたということになるのかも。
外部の反応 (スコア:0)
[ 701585 ] 名前: 名無しさん 2014/03/06(Thu) 23:46
今回の理研の公開情報でアカデミックな方々は疑問から確信に変わりつつあるようです
田口善弘 ?@Yh_Taguchi中央大学理工学部物理学科教授
STAP細胞の件、「第三者による再現」云々という人もいるけど、仮に第三者が「STAP細胞」を同じ手順で作れてももうだめなのでは。
それでは「もともとのサンプルに最初から混じっていた幹細胞類似の細胞を抽出してしまった」のを再現した「だけ」、という可能性をもはや否定できないのでは?
池田清彦 ?@IkedaKiyohiko 早稲田大学教授生物学者
twitterで説明するのは困難だけど、 T細胞以外の細胞からできたのか、 それとも、TCRの遺伝子がもとに戻ったか。 後者だとしたら免疫学のパラダイムがひっくり返ります。
野尻美保子 ?@Mihoko_Nojiri .理論物理学者
過去論文がほとんどすべて重要なミスがあるのに、なんで実験やってられるかが謎(まあSTAP もなんとかしないといけないので業務の一貫といえばそうだけど)プロトコルが先なの?みたいな。他の分野の感覚はよくわからない
@Sukuitohananika (森岡正博) 哲学者・大阪府立大学教授
STAP細胞について、とりあえず知っておいたほうがいいこと→ 本人による再現実験は再現性の追試とは言わないこと。
著者たちによる当初のSTAP細胞の「すごさ」が、本人たちの追加説明によってどんどん後退していること。
堀川大樹生物学者@horikawad
今日公開されたSTAP細胞作製の詳細プロトコルにT細胞特有のゲノム再編成が起きてなかったという記述。だとしたら、STAP細胞はT細胞がリプログラミングされたものではないということか。Nature発表時の主張と矛盾する
上 昌広@KamiMasahiro 血液・腫瘍内科学、真菌感染症学
どうやら、小保方さんは剽窃・改竄の常習犯だった可能性が高い。加藤研のケースは、不正が研究室ぐるみで行われることを示している。誰かが仕切ると言うより、先輩のやっていることを真似て広まるのだろう。
小保方さんは、どこでそれを覚えたのだろうか?ハーバードか?早大・女子医大か?
Oct-GFP+のSTAP細胞 (スコア:0)
Nature Letterの Fig.4のChip-seq解析において、著者らはこの図でSTAP, ES, STAP-SCと、FI-SC, TSとの間のヒストンメチル化パターンの違いを主張したかったのではないでしょうか。CD45+細胞はあまり重要な対照ではなかったと著者らは弁解するかもしれません。不適切なコントロールであることにはかわりはありませんが、CD45+細胞の性やstrainが違っても、”STAP細胞の非実在”とまで言えるほどのミスではないように思えます。
Chip-seqやRNA-seq以外の実験(多能性確認実験、qPCRなど)では、Oct-GFP+のSTAP細胞を用いていますので。
一番の問題点は、Chip-seqやRNA-seqでも、Oct-GFP+のSTAP細胞だけをFACSでpurifyして、実験しなかったことですね。
Nature Letterの Fig.4 http://www.nature.com/nature/journal/v505/n7485/fig_tab/nature12969_F4.html [nature.com]