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タイトル挑戦に欠かせない守備改善

サッカーにおけるデータというものは、この美しいスポーツのきわめて熱心なファンに対してさえも睡魔を呼び起こすという不思議な効果を持っている。だが時には数字が心を揺さぶり、試合の結果や、場合によってはリーグ全体の結果を明確に物語ってくれることもあるものだ。

2013年の浦和レッズの数字には、議論の対象とする価値がある。その理由は、2014年にも同様の数字を記録したとすれば、タイトルへの本格的な挑戦などままならないという単純な理由によるものだ。

まずは明白な事実からスタートしよう。昨シーズンの浦和は失点が多すぎた。最終的な失点数は、リーグで6番目に多い56点。優勝を争うチームとしては唖然としてしまうほどの数字だ。優勝したサンフレッチェ広島はわずか29点、2位の横浜F・マリノスも31点しか奪われていない。散々なシーズンを過ごした末に降格の憂き目にあったジュビロ磐田でさえ、失点数は埼玉の「ビッグクラブ」を下回っていた。

この数字は、致命的な問題の存在を表している。ディフェンス面の深刻な崩壊が、このチームの栄光へ向けての戦いを完全に台無しにしてしまったということだ。

では、具体的に何が悪かったのだろうか?


◇個人のミスプレー

昨年喫した失点をざっと見渡してみると、自分たち自身で被害をもたらしてしまうという不安な傾向が明白に見て取れる。理性的に分析してみても、少なくとも総失点のうち10点は完全に避けられるはずのものだったと結論づけていいだろう。加藤と山岸の両GKによる明らかなミスや、オウンゴール、あるいは守備での様々な失態を相手に利用されてしまった場面などがそこに含まれている。

毎週のように、個人のミスが積み重なるたびにタイトル獲得の可能性が薄れていくという印象だった。


◇遠い位置からのクロスボールへの対応

浦和は2013年にヘディングで14失点を喫している。CKから直接ボールが来たものは少なく、その多くはゴールから遠い、40ヤード前後のエリアからのクロスだった。毎回のように、これらの失点はクロスを上げる選手に対するプレッシャー不足や、エリア内でクロスに飛び込む選手に自由を許してしまったことに起因している。第25節でFC東京に2-3の逆転を許した際の失点がその最も顕著な例だった。

これらは決して修正できない問題というわけではない。ペトロビッチは今季、集中力の維持とよりタイトなマークの重要性を強調していくことは間違いないだろう。


◇終盤の崩壊

2013年シーズンを振り返るとすれば、横浜F・マリノスがタイトルまであと一歩で手が届かなかったという点に注目が集まるだろう。だが浦和の失速も同じくらい派手なものだった。4試合を残した時点で、浦和は首位と2ポイント差の2位。だがそこからのラストスパートで、勝ち点12のうち1しか獲得することができず、結局は6位という位置に終わってしまった。個々の試合においても、終盤に失速してしまうことはシーズンを通しての問題点だった。最後の10分間で計13ゴールを喫しており、そのうち9点はアディショナルタイム中のものだ。

試合が進めば進むほど、浦和の守備陣は脆さを増していったし、自分たち自身で崩壊を招いてしまうことも少なくはなかった。3-3の引き分けに終わった第32節のベガルタ仙台戦が、試合を決めてしまう必要がある時にそれができないという問題点を完璧に表している。今季タイトルに挑戦したいのであれば、広島がシーズン終盤に見せたような、インテリジェンスのある効果的なゲーム運びが必要になってくるだろう。


◇布陣の失敗と決断力の欠如

ペトロビッチの敷く3バックの守備にはある種の利点もある。特にDF陣が中盤に上がり、攻撃の枚数を厚くすることができるチャンスがあるという部分が顕著だ。だが一方で、このフォーメーションには基本的な部分での欠点も内在している。

標準的な2人のCBであれば、一人は相手センターFWをマークしてボールにアタックし、もう一人は引いた位置でボールを拾ったり、相手の中盤のからの飛び出しをカバーするものだ。だが浦和の3バックはシーズンを通して決断力を欠いているように見え、他のDFがボールをクリアしたり相手FWに寄せたりするのを待っていることが多かった。

加えて、DF陣が本来の位置から容易に釣り出されてしまうことも目立った。特にウイングバックが前線へ上がり、3人のDFがカウンターに晒されてしまうようなケースだ。川崎フロンターレに0-4で敗れた試合がその好例だった。

おそらく、大宮アルディージャから守備的MFの青木を獲得したことは、最終ラインの前にもう1枚壁を築くことを意図してのものだろう。彼がチーム内でポジションを確保することができればではあるが。


◇2014年への展望

第1節ガンバ大阪戦にアウェーで1-0の勝利を収め、浦和は新シーズンを有望な形でスタートさせることができた。2013年を通して、3度しか記録することのなかったスコアである。ペトロビッチはおそらく今シーズンも同じフォーメーション、同じメンバーを維持して戦っていくことになりそうだ。チームが様々な形でゴールを挙げられることは、土曜日の試合でも槙野が改めて示してくれた。広島からGK西川を獲得できたのは期待以上の補強であり、守備の組織力と安定性を高めてくれることは間違いない。李忠成の加入も、すでに原口や興梠、柏木やリシャルデスらを擁する攻撃陣にさらなるレパートリーを加えてくれるはずだ。

ベストの調子でさえあれば、浦和は確実に良い試合を見せてくれるし、リーグ内のどんな相手でも粉砕できる力がある。ペトロビッチがチームにこれまで以上の戦術的規律を植えつけることに成功したとすれば、2006年以来となるJ1優勝のタイトル獲得の可能性も大きく高まってくるだろう。

さもなくば、国内サッカー界の有力チームという浦和のイメージは、もはや過去の記憶の中のものとなってしまう危険もありそうだ。


文/クリス・コリンズ
セルティックとアーセナルを専門とするスコットランドのサッカーライター。Jリーグのプレースタイルに魅せられ、様々な媒体でJリーグに関しても執筆している。ツイッターアドレスは @chriscoll10

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