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2014年3月7日

村上春樹 最高傑作の一つ — 書評「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」

2014年03月07日 10時37分 by ttachi

 

 

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村上春樹さんの作品の中に、飛び抜けて素晴らしいと感じる作品がいくつかある。

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そして村上春樹さんの作品群の中では、僕は長編小説がとても好きだ。

短編やエッセイ、翻訳、ノンフィクションにも素敵な作品も多いが、僕の中では「村上春樹 = 長編小説」という図式がすっかりできている。

そして、今回紹介する「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」は、間違いなく彼の最高傑作の一つだろう。

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド

村上 春樹 新潮社 2005-09-15
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600ページ以上の大作だが、まったく飽きさせることがない。

僕自身20代で最初にこの作品に触れて以来、恐らく10回以上は再読してきたと思うが、それでもときどき読み返したくなる。

当初は2冊組の文庫本を買ったのだが、あまりに繰り返し読んでボロボロになったのでハードカバーを買い直した。

今回久し振りに読み返してみて、やはり素晴らしい作品だと感慨を持った。

さっそく紹介しよう。

 

 

 

村上春樹 最高傑作の一つ — 書評「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」

表裏一体・パラレルワールド

この作品は、「世界の終り」と「ハードボイルド・ワンダーランド」という、別々の物語が交互に語られる形で進んでいく。

明らかにリアルな現代の東京を舞台にした「ハードボイルド・ワンダーランド」。

ここではないどこか、夢の中のような不思議な世界が舞台の「世界の終り」。

主人公も別々だし、他の登場人物にも共通の人物はいない。

当初は関係ないように思える二つの物語が、「一角獣の頭骨」という共通のキーワードで繋がる。

そしてこの二つの物語が、結末に向けてどんどんと結びつき、絡み合っていく。

そのストーリーの豊かさ、仕掛けの見事さは、まさに村上春樹さんの真骨頂。

かなりの長編だが、まったく飽きさせないのはさすがだ。

 

 

 

実は世界は2つではなく3つだ

ストーリーとしては「世界の終り」と「ハードボイルド・ワンダーランド」の二つが絡み合っていく。

しかし舞台、つまり物語の世界は実は2つではなく3つ用意されている。

それは、「世界の終り」が一つ目、二つ目は「ハードボイルド・ワンダーランド」の「地上」だ。

そしてもう一つが「ハードボイルド・ワンダーランド」の地下の世界である。

ハードボイルド・ワンダーランドの主要な舞台は東京の神宮・原宿辺りの地下深くで進行する。

地下の世界には、人間ではない「やみくろ」という謎の生物が跋扈している。

地下は「やみくろ」が支配する帝国なのだ。

村上春樹ワールドの特徴として、非常にリアルで現実的な世界の中に、「羊男」や「リトルピープル」、この「やみくろ」など、人間ではない「何か」が当たり前のように登場する。

その出入りがとてもシームレスで自然なのだ。

リアリティーのある現実世界の小説なのにファンタジー。

それが村上春樹作品の特徴だ。

ハードボイルド・ワンダーランドは、地上にいる間はとても現実的でリアルな物語として展開する。

しかし地下に潜った主人公たちは、完全なる別世界、異界でやみくろたちと闘うことになる。

完全なる暗闇で進行する物語。

村上春樹さんのキーワードには、「暗闇」や「井戸」など、深く暗い場所、というのがある。

本作品に登場する「やみくろの世界」は、まさにその典型といえるだろう。

 

 

 

複雑なストーリーの奥にあるシンプルな真理

「世界の終り」で暮らす人たちは影を持たない。

そして影を持たない人たちには心がない。そしてその代わり彼らは不死なのだ。

彼らは壁に囲まれた街で淡々と暮らしていく。そこには感情がなく、老いもない。

そこは完全な世界なのだ。

しかし、その完全な世界に新たにやってきた「僕」には、引き剥がされたがまだ生きている「影」がいる。

そして影が生きている間の人間には「心」があり、そして心が残っている人間は、一角獣の頭骨に保存されている人々の「古い夢」を読む仕事が与えられる。

それが何を意味するのか、どうしてその世界はそのような仕組みになっているのか。

それを解きほぐしていくと、最終的に浮かび上がってくるキーワードはとてもシンプルなものだ。

ここでは敢えてその言葉は書かない。

まだ本書を読んだことがない方は、ぜひ本書を読み進めながら、本書が訴えかけている、シンプルなキーワードを見つけてみて欲しい。

 

 

 

切なくも行く先が気になるエンディング

二つのストーリーは複雑に絡み合った糸をほぐすように展開していく。

そして、どんなに糸をほぐしても、最終的な解は与えられない部分もある。

それが、空白となって、物語に強い「余韻」「読後感」を与えるのだ。

このようなエンディングの手法も、この作品で確立されたと言って良いのではないだろうか。

それぞれの物語の主人公やヒロインはこれからどうなっていくのか、それ以外の登場人物は何を想うのか。

それらが読者に委ねられる形で、ストーリーは永遠に続くかのような余韻を残しつつ終わりを迎える。

切なくも、その先が気になる、いつか続編を書いて欲しい、と願わせられるエンディングなのだ。

 

 

 

まとめ

二つの物語はさまざまな面で対照的だ。

「動」と「静」、「空想的」と「現実的」、「精神的」と「物質的」、「非・性的」と「性的」など、さまざまな側面において2つは対局の世界である。

しかし、この二つの世界は密接に結びつき、根元では繋がっているのだ。

物語を読み進むに従って、あまりにも良く練られ構築されたストーリーに、僕ら読者は舌を巻くことになる。

こんな物語をいつか書いてみたい。

そんな風に思わせられる名作である。

初めて読んでからもう20年くらい経つが、まったく古くならないのも素晴らしい。

初期村上春樹作品のマスターピース!

大好きな作品。

村上春樹作品を初めて読むという方にもオススメ!

 

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド

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