(cache) 月刊 現代農業2013年12月号 木っ端ひとつかみでお湯が沸くウッドガスストーブ
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筆者が作ったウッドガスストーブ(調理用コンロ)。ほんのひとつかみの木クズを燃料に、約1.5リットルのお湯が数分で沸く
筆者が作ったウッドガスストーブ(調理用コンロ)。ほんのひとつかみの木クズを燃料に、約1.5リットルのお湯が数分で沸く

驚きの火力
木っ端ひとつかみでお湯が沸くウッドガスストーブ

小池雅久

 いま私たちの暮らしは大きな転換期を迎えていると感じている人は少なくないだろう。

 四方を海に囲まれているとはいえ、この国の大半は山地である。かつて戦中から戦後にかけて、この国の山の木材資源は使い尽くされたものの、その後の植林と木材輸入の増大によって山に木は増え続け、いまや緑被率からすれば世界有数の森林大国に私たちは暮らしている。発展途上国の多くでは森林の伐採が進み、調理のために燃やす薪すら足りなくなる一方、私たちが暮らすこの国の森林資源はほとんど使われることがないまま荒れ果て、海外から大量の木材を輸入し続けている。私たちの暮らし方はこのままでよいのだろうか。

木ガスが燃料、調理用のストーブ

 わが家の薪ストーブ(ロケットストーブ)の燃料は、近隣の山から出る風倒木がほとんど。これに加えて、わずかながら近隣の山の木を薪として買わせてもらっている。いまやそれなりに周知されるようになったロケットストーブ。これまでいくつものロケットストーブをつくってみたり、そのしくみを人に伝えたりしてきたが、これをきっかけに、注目したもう一つのストーブがウッドガスストーブだ。

 ウッドガスストーブ(Woodgas Stoves)は、名前のとおり木ガスを燃料とする。木ガスとは、空気を遮断して加熱した時に出る可燃性のガスのこと。日本語でストーブというと暖房用のストーブを思い浮かべがちだが、英語の「stoves」には調理用のコンロ、かまどの意味もある。ウッドガスストーブも料理に必要な炎を得ることが目的のストーブだ。

木が燃える時には――

 木は、炭素50%、水素6%、酸素44%と微量の硫黄などからできている。木を火で加熱し続けると、100度までに水分が蒸発し、200度からは木を構成する成分が分解されて、一酸化炭素、メタン、エタン、水素、アルデヒド、ケトン類、有機酸などの可燃性のガスが発生し始める。さらに温度が上がると、250度を超えるあたりから熱分解が急速に進み、増大した可燃性ガスに引火、煙が放出される。この煙の中には、不燃性の水蒸気や二酸化炭素(炭酸ガス)に加え、木が燃える際に酸素が足りず燃え残った可燃性のガスが混じっている。

 つまり、焚き火などで木が燃える時は、不燃性のガスとともに可燃性ガスが燃えないまま煙として大気中に放出されているのだ。

本体は、外缶(3リットル)の中に、燃料を入れる内缶(1リットル)を入れるだけのシンプルな構造 内缶は、底面にも均等に穴(6mm)を開ける 筆者。長野市善光寺の門前町で、妻とともにカフェを営みながら、美術作品の制作、店舗・住宅・庭などのデザイン設計施工などを行なう
本体は、外缶(3リットル)の中に、燃料を入れる内缶(1リットル)を入れるだけのシンプルな構造 内缶は、底面にも均等に穴(6mm)を開ける 筆者。長野市善光寺の門前町で、妻とともにカフェを営みながら、美術作品の制作、店舗・住宅・庭などのデザイン設計施工などを行なう

ウッドガスストーブのしくみ

 ロケットストーブもウッドガスストーブも、大雑把に言ってしまえば、「木が燃える際に出る可燃性ガスを燃料として燃焼させるしくみ」であるところは同じようなものだ。しかしそこには大きな違いがある。

 木に限らず、何かが燃えるためには(1)燃える物質(燃料)、(2)十分な酸素の供給、(3)発火点を上回る燃料物質の温度が必要だ。このうちのどれか一つでも足りないと燃焼しない。

 ロケットストーブの場合は、可燃性ガスに不燃性の水蒸気や二酸化炭素が混じった煙を、冷えることのないように加熱し続けながら、高温の空気を混合することで再度燃やす(二次燃焼)しくみ(可燃性ガスと不燃性ガスが混じった煙を燃やすためには、ストーブ内を700度以上にする必要があるといわれる)。大気中に放出されるのは水蒸気や二酸化炭素のみで、燃焼の後には灰だけが残る。

 これに対してウッドガスストーブは、燃焼過程で空気を遮断、もしくは空気の量を制限した状態で加熱し続けることによって熱分解を起こし、ストーブの中で可燃性ガスを効率的に燃やす。燃えやすいガスだけを効率よく燃やすことで高温を得ることができる一方で、木に含まれる炭素の多くは、不燃性の二酸化炭素にはならず炭(木炭)となって後に残る。

 別の言い方をすれば、ウッドガスストーブは、炭化の過程で発生する可燃性ガスを燃料として燃やしながら炭をつくる装置である。大気中に放出する二酸化炭素を減らし、炭をつくりながら熱を得られることが、焚き火やロケットストーブとのもっとも大きな違いだ。

ウッドガスストーブの燃焼のしくみ ロケットストーブ(ロケットコンロ)の
燃焼のしくみ
ウッドガスストーブの燃焼のしくみ ロケットストーブ(ロケットコンロ)の
燃焼のしくみ
上から着火すると1次燃焼が下に向かってジワジワ進むため、1次燃焼の熱分解で発生した可燃性ガスを大気中に逃さず、2次燃焼させることができる。また、火がフタの役目をして上からの空気を遮断するので、木に含まれる炭素の多くは炭になり、可燃性ガスを効率的に発生・燃焼させることができる。 *燃焼のしくみやロケットストーブについては、最新刊DVDブック「最高! 薪&ロケットストーブ」(312ページ参照)もご覧ください。

上から着火で素早く燃える、お湯が沸く

 ウッドガスストーブは近年、TLUDストーブと呼ばれることも多い。ウッドガスは燃料の呼称だが、TLUDはTop-lit Updraftの略で、上から着火し燃えるしくみを表わしている。燃料の薪が上から燃えるために、下側の薪は空気を制限された状態で熱分解し、発生した可燃性ガスが効率よく燃えることになる。

 煙の中に残る可燃性ガスを燃やすために、ある程度の燃料と時間を必要とするロケットストーブに比べ、ウッドガスストーブは、極めて少ない燃料で、素早く(木の温度が約200度になると)効率よく可燃性ガスを引き出して炎を得ることが可能だ。したがって、湯を素早く沸かすことなどの用途にとても適している。

 ちなみに、燃料の質(材質や乾燥具合)によって燃焼効率は大きく異なるものの、私が製作した1リットルペンキ缶に燃料を入れるタイプのウッドガスストーブでは、約1.5リットルのお湯を沸かすことができる。

1回の湯沸かしに使う燃料はこれだけ。左側の大きめの木クズが下、小さめの枝葉や松ぼっくりなどを上に詰める 焚き付けに新聞紙も添えて、上から着火する。1次燃焼が下に向かってジワジワ進むため、可燃性ガスを逃さずに2次燃焼させることができる 着火して少し経つと、炎が内缶上部の空気穴から横に向かって出てくる。可燃性ガスが2次燃焼している様子がわかる
1回の湯沸かしに使う燃料はこれだけ。左側の大きめの木クズが下、小さめの枝葉や松ぼっくりなどを上に詰める 焚き付けに新聞紙も添えて、上から着火する。1次燃焼が下に向かってジワジワ進むため、可燃性ガスを逃さずに2次燃焼させることができる 着火して少し経つと、炎が内缶上部の空気穴から横に向かって出てくる。可燃性ガスが2次燃焼している様子がわかる

空き缶でつくれる、炭で土壌改良

 果樹や庭先の樹木のせん定枝、草、モミガラなど、可燃性ガスを取り出せるものであれば何でも燃料とすることができ、湯を沸かす熱と炭を同時につくることができる。上質の炭をつくる炭焼き窯のようなわけにはいかないが、副産物としてできる炭は、木や植物、農産物を育てる土壌を活性化するために極めて有効な資材となる。また写真のように、空き缶など廃材を用いて簡単につくれることも大きな魅力だ。

 ロケットストーブに比べるとまだまだ進化の可能性の高いウッドガスストーブ。私たちの暮らし方を見つめ直し、持続可能な未来をつくるために、ぜひ一度、自作して、使ってみてほしい。その魅力がきっとわかると思う。

(美術家 長野市在住)

 この取材時に撮影した動画が、ルーラル電子図書館でご覧になれます。

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