(cache) 月刊 現代農業2013年12月号 1年おいしく食べるなら塩分12%、空気をしっかり遮断
月刊 現代農業
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●巻頭特集 味噌に惚れた!

巻頭写真

いま、味噌が若者に静かなブーム。
手軽に使えるおかず味噌や、
味噌スイーツも出てきて注目度満点。

「味噌づくりの極意」コーナーより

1年おいしく食べるなら塩分12%、空気をしっかり遮断

小清水正美

地域、原料などによって味噌は多様

 味噌は奈良時代にはつくられ、現在までとても長い間つくられ続けています。現在の私たちが食べている味噌には地域の名を冠した信州味噌、江戸味噌、仙台味噌などがあります。また、その味噌の色合いから白味噌、赤味噌、淡色赤味噌と呼ばれることもあり、塩分の多少によって甘味噌、辛味噌のようにも呼び分けられます。さらには、使用するこうじの原料によって米味噌、麦味噌、豆味噌に分けられます。

味噌の配合には法則あり

 こうじが多いと塩が少なく日持ちしない

 この多様に発展した味噌について、全国味噌鑑評会出品味噌の原料配合をみると、ダイズとこうじ、塩の関係について、一つの法則が明らかになっています。

 こうじが多く使われると塩の量が少なくなり、こうじの量が少なくなると塩の量が多くなります。

 具体的には、京都の白味噌はダイズの2倍量のこうじを使い、原料全体の重さの6%くらいの塩を配合します。信州味噌型の赤味噌はダイズとこうじの量が同じで塩は12%。仙台の赤味噌はダイズの半量のこうじを使い、塩は14%となっています。

 そして、塩の少ない白味噌は仕込んでから数週間のうちに味噌として利用され、長く日持ちさせていません。一方、塩分12%の信州味噌型は前年の秋から翌年の春過ぎまでに仕込み、夏の土用を越して発酵・熟成され、翌々年の夏までは大きな変化もなく保存・利用できます。さらに、塩が濃い仙台味噌は、前年の秋に仕込み、丸1年かけて発酵熟成させるので、食べ始めるまでに足かけ3年を要するものとなっています。白味噌と信州味噌の中間にあるのが江戸味噌で、塩分が9%になっています。この9%が微妙なところで、気温が低い時は発酵・熟成があまり進みませんが、夏の暑い時期になると発酵・熟成が進みすぎてしまうことがあります。

 このように日本では長年の経験の積み重ねの中でその地域の風土、生活習慣に適した味噌づくりが行なわれてきました。

農家の味噌は塩が多く保存期間が長い

 醸造所の味噌は販売用のため消費が早く、長く保存させない味噌づくりでしたが、農家の味噌は1年に1回仕込み、長く保存し、長く食べ続けることのできる味噌仕込みがなされてきました。さらに、味噌は塩の保存も兼ねていたようで、醸造所でつくられる味噌より塩が多く使われていました。

 農家にとって味噌は貴重なものであり、味噌仕込みの手順や材料の配合はその家のしきたりとして継承され、変更されるのは極めてまれなことでした。しかし1961年の農業基本法により、自分で何でもつくる百姓から生活必需品を買う農家に変わり、味噌づくりの知識と技術、用具類は一気になくなってしまいました。

 その後、1980年代になり、転作作物として大豆が栽培され、生活改良普及員によって味噌づくりが推進されました。このときの味噌は地域の伝統的な味噌ではなく、信州味噌型のダイズと米こうじを同量使用し、塩分が12%のものでした。

米こうじでつくった「米味噌」(小倉隆人撮影、以下Oも)
米こうじでつくった「米味噌」(小倉隆人撮影、以下Oも)
味噌の原料。左から時計回りに、水、タネ味噌、塩、米こうじ、煮てつぶした大豆。塩の量は、この米こうじと、煮た大豆の重さを測り、塩分濃度をもとに計算して決める(O)
味噌の原料。左から時計回りに、水、タネ味噌、塩、米こうじ、煮てつぶした大豆。塩の量は、この米こうじと、煮た大豆の重さを測り、塩分濃度をもとに計算して決める(O)
重石は味噌全体に加重がかかるようにおく(O)
重石は味噌全体に加重がかかるようにおく(O)
仕込みのときに空気が遮断されないと、味噌の表面にこのような「白カビ」が生える。実際にはカビではなく、産膜酵母という酵母。食べても害はないが、特有の臭みがあり、味噌の香りが悪くなる(O)
仕込みのときに空気が遮断されないと、味噌の表面にこのような「白カビ」が生える。実際にはカビではなく、産膜酵母という酵母。食べても害はないが、特有の臭みがあり、味噌の香りが悪くなる(O)

 いっぽう、近年になると、都市住民の中に手づくり志向が広がり、味噌をつくり始める人たちが増えています。

1年間おいしく食べるなら塩分は12%に

 このような状況の中、農家や都市住民の味噌づくりの話を聞くと、長い時間をかけて確立された技術を無視し、大昔の人が失敗したことをいとも簡単に行なって、見事に失敗しているケースがあります。

 最も失敗の多いのは塩の量です。故意に塩の量を減らすときと過失で塩の量を減らすときがあります。

 故意に塩の量を減らすのは減塩志向のある都市住民に多く、初夏にはいい加減に発酵・熟成し、おいしい味噌ができていますが、続く暑さで一気に味が落ちてしまいます。減塩してつくると、味噌の発酵が早く進み、早くうまみや香りも出ますが、品質の変化も早くなり、甘味がなくなり、酸味が強くなります。塩分を9%程度に減らしたときに多く発生します。さらに塩分を減らすと、雑多な微生物が増殖するので一気に腐敗ということになります。

 すぐ食べたり売ったりするなら減塩でも問題はないと思いますが、1年間おいしく食べるには、塩分12%で仕込み、減塩は調理で工夫すべきでしょう。

 農家では塩を少なくすることはほとんどありませんが、仕込み量が多くなるので、こうじに塩を混ぜるときに塩の量を間違えて少なくなってしまうことがあります。

空気を遮断するため重石はすべし

 また、味噌の重石は何のためにするのかと聞かれたりすることがあります。なかには重石をしないという人もいます。しかし重石がないと、とくに暑い時期には酵母の活動を抑えることができず、味噌の中から炭酸ガスが発生します。発生が多いと味噌が湧き、味噌が樽の中から噴き出すこともあります。重石は空気を確実に遮断して、味噌の中からの発酵を抑えたり、炭酸ガスによって噴き出すことを抑えるために必要です。

 発酵が進まないように温度の低いところへ置けばよいと思うかもしれませんが、それだと発酵が進まないので、色の淡い、香りのない味噌となってしまいます。都市住民の中には仕込んだ味噌を冷蔵庫に入れておく人がいますが、やはり発酵が抑えられるので香りのない味噌となります。

 重石の目安は、樽・容器の大きさにもよりますが、20〜30リットル容器ならば10〜20kg、60リットルなら20〜30kgとします。味噌の一部に偏って加重をかけるのでなく、表面全体に加重することが基本です。

容器は大きいほうがよい

 都市住民の中には1kg程度のダイズとこうじで味噌をつくることがあります。農家でも大樽に仕込むより、移動がラクな小さな容器に仕込みたいという人たちが増えています。しかし、仕込み容器の表面は空気中の酸素の影響を受けて、味噌の色が黒くなったり、香りが変わってきます。1kgのダイズとこうじで仕込んだ味噌だとそのほとんどすべてが酸素の影響を強く受けるので、色や風味のよいものができるとは思えません。

 味噌は50〜60kgの味噌が入る大きな容器に仕込むのがよく、小さい容器であっても15〜20kgまでとしたいところです。

 なかには1tタンクに味噌を仕込み、味噌の保管所の天井にレールとチェーンブロックを備えているところもあります。個人の農家ではそのような大掛かりなことはできませんが、ある女性農業者は移動用の台車を数個作ることで、大樽に仕込みつつ、作業性を向上させています。

大樽でもラクに運べるように、ある女性農業者が使っているキャスター付き台車 1tタンクで味噌を仕込む加工所で使われている、天井のレールとチェーンブロック
大樽でもラクに運べるように、ある女性農業者が使っているキャスター付き台車 1tタンクで味噌を仕込む加工所で使われている、天井のレールとチェーンブロック

風味を上げるタネ味噌

材料を混ぜ合わせるときにタネ味噌を添加すると風味がよくなる
材料を混ぜ合わせるときにタネ味噌を添加すると風味がよくなる

 なお、味噌の風味には乳酸菌と酵母が関与しています。高濃度の食塩が含まれた環境のなかでも生育が活発な乳酸菌と酵母を添加すると良好な味噌が醸成されるため、食品企業ではこれらを添加しています。

 農家では乳酸菌と酵母を添加する代わりに、風味良好に熟成された味噌(仲間の味噌で可)をタネ味噌として入れるとよいでしょう。

 長く使っている味噌の容器にはこれらの乳酸菌や酵母がすみ着いているので「わが家の味噌はおいしい」ということになります。新しい容器・加工所では周辺にいる雑多な微生物が入り込むので、なおさらスターターとしてタネ味噌を入れる必要があります。

 タネ味噌は、蒸煮大豆、こうじ、塩を攪拌混合するときに、60kgの仕込み量に対し100〜200gで十分です。

 昔の人は味噌づくりに働く微生物の知識はありませんでしたが、塩や重石、天地返しなど、上手に微生物をコントロールする方法を身につけていました。現代は微生物の働きも明らかにされ、それらが働く温度をコントロールする冷蔵庫などもあります。新しい知識と技術を的確に使えば、簡単によい味噌をつくることができるはずです。

(食べもの研究家 神奈川県横浜市)

「田舎の本屋さん」のおすすめ本

現代農業 2013年12月号
この記事の掲載号
現代農業 2013年12月号

特集:味噌に惚れた!
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