【東京】日本の消費者物価上昇率はここ数カ月間、対前年同月比で1%を超えて推移しており、政府のデフレ克服のための物価上昇率目標の2%に向かっている。だが、その主要な牽引役は円の対ドル相場の急落であり、エコノミストの中にはリスクが高く持続不可能だと見る向きもある。
円安は海外展開する主要企業にとってはカンフル剤となったが、日本企業の70〜80%はもっぱら国内市場向けに販売しており、これら企業は燃料や原材料の輸入コストの上昇に見舞われている。
「現在のCPI(消費者物価)上昇率の上昇分の約8割が円安の影響とみられる。従って、良いインフレとは言えない」と、日本総合研究所の湯元健治副理事長は話す。中小企業はコスト増に直面しても、それを価格に敏感な消費者に転嫁できる可能性はほとんどない。そのため、これら企業は簡単に賃金を引き上げることはできない。賃上げは、安倍晋三首相が唱える成長の「好循環」を創り出すためにまず実現しなければらないものの1つである。
日清オイリオグループの朝倉昌彦執行役員家庭用事業部長は、政府の物価押し上げ策は思わぬ結果をもたらしていると話す。同社は、原材料を輸入に全面的に頼っており、円安と大豆相場の高騰がダブルパンチとなっている。同社では、円が1ドル当たり1円安くなると、輸入コストは10億円上昇する。10億円は、同社の経常利益のざっくり5分の1に相当する。朝倉氏は、小売業者間の競争が激しいため、日清オイリオはコスト増分を完全には消費者に転嫁できないと指摘し、「消費財を扱っている側からみると、デフレから脱却しているという感想はない」と話す。
日本の大規模金融緩和という大胆な実験は、1年の区切りが近づいているが、CPI上昇率(食料・エネルギーを除く)は、今回と同じような成長局面にあるとみられていた前回の2006年を上回っている。日銀は、2015年春ごろには2%のインフレ率を達成するとの目標を打ち出している。
だがエコノミストは、円安が日本経済に与えるリスクが高まっているため、安倍首相はもはや円安による物価上昇に頼ることはできないし、そうすべきでもないと主張する。日本はスマートフォンなど完成品も輸入するようになっているため、円安が輸入品価格に及ぼす影響は以前より大きくなっている。
日本商工会議所が3000社以上を対象に行った調査では、円相場が1ドル=102〜104円になると輸入コスト増加によりマイナスの影響が出てくると答えた企業が半数近くに達した。エコノミストらは、これ以上の円安はもはや優先課題ではなくなっているとし、安倍首相はアベノミクスのもっと難しい部分に焦点を当てる必要があると訴える。
アベノミクスの政策リストのうち最も重要な戦略は、賃上げを実現させ労働者が直面している物価上昇に耐えられるようにすることである。トヨタ自動車など主要輸出企業は今春闘で数年ぶりにベアを実施する公算が大きい。だが、ベア実施が中小企業や非輸出企業に広がるのかどうかははっきりしない。加えて、輸出企業各社が検討している約1%の小幅賃上げでは、4月に実施される消費税の5%から8%への引き上げの影響を相殺するには十分でない。
富士通総研の早川秀男エグゼクティブ・フェロー(元日銀理事)は、「消費税率が上がる時に、2%の物価目標の達成を急ぐはない必要はないし、国民の理解は得られない」と語る。
エコノミストらは、安倍首相は構造改革や規制緩和も推し進める必要があると話す。そうしない限り日本経済は悪循環を断ち切ることはできないと言う。前内閣府政策統括官(経済財政分析担当)の斉藤潤氏は、「金融政策だけで、デフレ脱却の話をするのは間違いだ」と指摘するとともに、長期ビジョンを示した成長戦略とワンセットで考えるべきだと強調した。
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