焦点:欧州の天然ガス市場、ロシア産が牛耳る構図は変わらず
[ロンドン 4日 ロイター] -欧州諸国はウクライナ危機を受け、ロシアへの依存度が高い天然ガスの調達先多様化をあらためて迫られている。しかしこうした努力にもかかわらず欧州の天然ガス市場をロシアが牛耳る構図が変わることはなさそうだ。
ロシアの政府系天然ガス大手ガスプロム(GAZP.MM: 株価, 企業情報, レポート)は欧州大陸の天然ガス需要の3分の1を供給する最大手。ロシアから欧州への供給は3分の1がウクライナを経由する。
ガスプロムによるとウクライナ経由のルートで供給途絶は起きていないが、ロシア軍がクリミア半島を掌握すると、ロシア産の供給停止の懸念から天然ガス相場は3日、10%急騰した。
ロシアは過去にウクライナとの価格交渉の際に同国向けの供給を停止し、そのあおりで中欧地域を中心に欧州へのロシア産ガスの供給が止まったことがある。
ロシアへの供給依存は、ロシア政府が天然ガスを政治の道具に使うことを嫌う欧州連合(EU)にとって不快なことだ。
欧州委員会のヘデゴー委員(気候変動)は4日、加盟国の指導者に対して、今後の気候・エネルギー政策を協議する際にエネルギーのロシア依存の政治的な意味合いについても取り上げることを期待すると述べた。また再生可能エネルギーなど代替エネルギーの供給に投資する必要性も指摘した。
欧州の各国政府や発電会社は、アゼルバイジャンと結ぶ天然ガスパイプライン、中東やアフリカ、北米などからの液化天然ガス(LNG)輸入などのプロジェクトに数十億ドルを投じてきた。
しかし欧州域内での天然ガス生産の落ち込みを補うのにも不十分にとどまりそうだ。
ガスプロムのメドベージェフ副社長は今週ロンドンで「当社は欧州市場でのシェアを高めている。英国やノルウェーなど域内の国で生産が落ち込んだからだ」と述べた。
米国からの輸出開始は2015年以降、東地中海や東アフリカからの輸出は20年ごろ以降となりそうで、ロシア産に代わる供給元の確保は遅々として進まないだろう。また量的に見ても、ロシア産の輸入を大幅に減らすには不十分だろう。
IHS・グローバル・インサイトのアンドルー・ネフ氏は「天然ガスの調達元を多様化するというEUの主張は実際には実現性が乏しい。東欧でのシェールガス開発や石炭への大幅な回帰についてもっと熱心な取り組みを打ち出さない限りありえない」とした上で、欧州が石炭よりもガスの利用を支持する温暖化防止目標を掲げていることを考えると、石炭への回帰はないだろうとした。
ロイターの調査によると、北米産か東地中海産のLNGの新規の供給量が年150億立方メートルを超えるのは23年以降。またアナリストは、世界の新規ガス輸出プロジェクトは欧州に比べて価格の高いアジアへの販売を目指すとみている。
<ロシアの優位>
欧州の政治家からはロシアの供給が幅を利かせる状況を楽観する声も聞かれる。ドイツのガブリエル経済・エネルギー相は「ロシアは少なくとも西欧にとって完全に信頼できる供給元だ。心配する必要はない。ただウクライナは心配な事が多く、欧州が本気で支援を提供するのならば同国のエネルギー問題を解消すべきだ」と述べた。
欧州の現在の天然ガス需要は年間4850億立方メートルで、ロシアの供給は約1600億立方メートル。各種資料に基づくロイターの試算によると、欧州の需要は23年までに年5850億立方メートルに増え、ロシアの供給は1750億立方メートルとなる。
つまりロシア産は供給量が増えるだけでなく、欧州市場におけるシェアが30%程度で安定的に推移するということだ。
ロシアが欧州市場での優位を固められるかどうかは、ガスプロムが進める「サウス・ストリーム」パイプライン計画に掛かっている。
このプロジェクトはロシアから黒海を経由してブルガリア、そしてその先の中欧・南欧諸国に至る総延長2500キロメートルのパイプラインを建設し、年間630億立方メートルのガスを輸送する。調達元多様化の問題の解決にはつながらないが、ウクライナを経由せずに済む。
欧州連合(EU)の規制当局から承認を得られるかどうかがネックになりそうだが、ガスプロムは承認獲得に自信を見せている。
(Henning Gloystein記者)
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