特集ワイド:東京、そして/中 社会思想家・白井聡さん

毎日新聞 2014年02月04日 東京夕刊

社会思想家・白井聡さん=東京都渋谷区で2014年1月30日、丸山博撮影
社会思想家・白井聡さん=東京都渋谷区で2014年1月30日、丸山博撮影

 「『原発推進か脱原発かの二項対立は意味がない』との主張がありますが、私に言わせればこんな主張をする人は大ばか野郎です。二項対立でしか答えのでないケースもある。それがまさに原発。推進か止めるかの二者択一しかない。都政に多くの課題があるのに原発のワンイシューに絞っていいのかという意見もあるが、原発問題を他と同列に扱うほうがおかしい。原発は国民生活に直結するだけではなく、核兵器への転用の可能性がある。まさに国家の中核にかかわる大問題で、すべてのイシューに関連している」

 言葉に力をこめた。

 「このままでは『恥ずかしい国』へまっしぐらですよ」。冷戦は終わったのに、安倍政権は、安全保障面で米国依存を強めている。しかし現実は、靖国神社参拝で米国に突き放され、領土問題を抱える中韓とは摩擦が拡大している。

 「安倍首相がダボス会議で『英独は大きな経済関係にあったが、第一次世界大戦に至った』と発言し、騒ぎになったでしょう。政府は『誤訳だ』と釈明したけれど、欧州メディアは『日本は軍事衝突の準備をしている』と受け止めた。ならば、中国が同じ『誤解』をしても仕方がない。今後、偶発的に日中が軍事衝突する可能性は十分ある」と、深いため息をつく。

 白井さんは都民ではなく、都知事選の投票権はない。しかし、その言葉はますます熱くなっていった。「原発を推進してきた世代を『今さら脱原発なんて無責任過ぎる』と批判したくなる気持ちはよくわかります。でも私たちは将来を担う世代だから、『現実の否認』を絶たねばなりません。それには、福島の原発事故について、私たち個人に刑法で問われるような責任はないけれど、他ならぬ自分たちが起こしたんだ、という当事者意識を持つべきなんです」

 この人の怒りは、未来への責任感からきている。取材後、「大ばか野郎だ」の一言が、頭の中で何度も響いていた。【江畑佳明】

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 ■人物略歴

 ◇しらい・さとし

 1977年東京都生まれ。文化学園大助教。専門は社会思想、政治学。一橋大院博士後期課程修了。著書に「未完のレーニン」など。

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