特集ワイド:東京、そして/中 社会思想家・白井聡さん

毎日新聞 2014年02月04日 東京夕刊

社会思想家・白井聡さん=東京都渋谷区で2014年1月30日、丸山博撮影
社会思想家・白井聡さん=東京都渋谷区で2014年1月30日、丸山博撮影

 <この国はどこへ行こうとしているのか>

 ◇「現実の否認」を絶て−−白井聡さん(36)

 白いストライプが入った鮮やかな青のスーツに、黒の山高帽。まるで映画のスクリーンから飛び出たようなしゃれたいでたちだ。「服飾系の学部に個性的な服の学生が多いから、合わせてるんです」。社会思想家で、文化学園大助教の白井聡さん(36)は、そう言って照れくさそうにほほ笑んだ。それにしても、この人はこんな格好でデモに通っていたのだろうか。

 官邸前などでの脱原発のデモにたびたび参加し、数万人に上った群衆に交じって白井さんは「原発反対!」と叫んできた。そして、ふと気付いた。「東京にも放射能は降り注ぎ、危険にさらされたのに、なぜこんなに参加者が少ないのだろう。首都圏人口が3000万人だから何十、何百万人が来てもおかしくないはずだ」

 昨年中国・上海で開かれた政治思想関係の国際学会では、韓国人学者にこう聞かれた。「日本のデモはなんであんなに小規模なんだ? もし韓国で同じ事故があったら、何十万人規模のデモになる。そうすれば政権なんて吹っ飛んでしまうよ」。「その通りだ」としか言えなかった。

 怒りの声を上げる国民が少ないのはなぜか。「私は『現実の否認』という日本人のメンタリティーが根底にあると考えています。しかもこれは今に始まったわけではない。戦時中も戦後もそうでした」

 「現実の否認」って、何なんだ?

 政治思想を研究してきた白井さんは、昨年3月「永続敗戦論 戦後日本の核心」(太田出版)を出した。「戦後日本は敗戦を終戦と呼び替えることで敗北の事実をなかったこと、つまり否認した。さらに東西冷戦下で米国の保護下にあり、経済大国化に成功したため、敗戦の責任を考えずに済んだ」。この構造を「永続敗戦」と名付けた。同著は論壇で大きな反響を呼んだ。

 執筆の動機は福島第1原発事故だ。事故発生後「この国の政府は、国民の生命と安全を守ることに関心がない」と感じた。緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)のデータを米軍に流しておきながら、国民には当初公開しなかった。線量が高い地域に多くの人々が避難し、被ばくした。100億円以上を費やした装備がこんな使われ方をされたのに誰も責任を取っていない。

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