「夢」「仲間」を声高に叫ぶ「居酒屋甲子園」に違和感? NHK「若い世代のポエム化」特集がネットで反響呼ぶ - BIGLOBEニュース
1月に放送されたNHKの特集が、一部で話題となっていた。「夢」「仲間」「絆」など、「ポエム」のような、耳にして「心地の良い言葉」を前面に押し出して仕事を語ることに対して、少なくない人が違和感を覚えたらしい。
このような言葉は、聞いていて「気持ち良い」と感じる人がいる一方で、逆に「気持ち悪い」と感じてしまう人も少なくない。論理もへったくれもなく、ただただ感情論で全てを語り、断定する。見方によっては、ある種の「洗脳」にすら見えて、恐ろしく思えた人もいたのでは。
居酒屋チェーンに限らず、世の中では、そんな心地良い、「きれいな」、あるいは、説得力を持たせるために使われる言葉・表現が、たくさん飛び交っている。
テレビをつければ、ニュースキャスターが「二度と繰り返されてはならない」と神妙な顔つきで悲惨な事件を報道し、書店には、愛国心あるいは敵対心を煽るような文言の書籍が並び、就職活動やビジネスセミナーの現場では、「自己実現」や「10年後の夢」について熱く語り合っている。
人を惹きつけるための過剰な表現の乱用は、問題の本質から目を背けることに繋がりかねない。「『それっぽい』ことを言っているから、そうしなくちゃいけないんだろう」と、なんとなく人を納得させるだけの、思考停止ワード。そんな、「きれいなことば」について考えてみた。
「きれいなことば」に要注意
冒頭の記事では、居酒屋チェーンに焦点が当てられているが、特定の業界に特有というわけでもなく、様々な企業が、「夢」「仲間」「絆」といった「きれいなことば」を叫んでいる。個人的な印象としては、新興の中小企業や、接客業、ブルーカラーの会社に多いようなイメージが強い。
新卒で、ここ数年の就職活動を経験したことのある人なら、心当たりがあるかもしれない。説明会の場や、企業のパンフレットを見ると、そんな言葉が踊っている。「夢は叶う」「家族のような社員」「共に自己実現を目指そう」みたいな。
正統派スポ根マンガのような展開が好きな人であれば、このような文句は眩しく、魅力的なものに映るのかもしれない。でも、ねえ……。どっからどう見ても、胡散臭いようにしか。
僕の勝手な印象かもしれないけれど、このような言葉をデカデカと掲げている企業ほど、具体性に欠けている。とにかく自社を魅力的に見せようと、「心地良い」言葉や表現を重視するあまり、企業情報や事業内容などの説明が疎かになっているイメージが強い。
説明会では、「きれいなことば」と無駄な装飾が施されたPowerPoint、あるいは、若手社員が熱く語るようなプロモーションビデオを見せられた後に、社長が登場。自らの仕事観を熱く語り、「君たちにもできる!」と激励する。で、あっという間に残り時間10分。業務内容などは事務的に羅列するのみで、おしまい。
極端な話かと思われるかもしれないが、僕が参加した説明会で、実際にこんな企業があった。午後から気になる企業の説明会があり、午前はどうしよーっかなーと考えていたところ、友達に誘われて行った説明会。
前情報もなしに参加した結果、「なにこれ、応援団?」と突っ込みたくなるような応援合戦を延々と見せられた。最後の10分で、「あ、コンサル系の会社なのね……」と、ようやく分かった。説明会終了後、ESは送らなかったし、横にいた友達も目が死んでいた。こ、これも「しゃかいけいけん」ってやつだよ!うん!
企業が「きれいなことば」を使う理由
なぜ、一部の企業では、このような「きれいなことば」が溢れているのだろう。3つのパターンを考えてみた。
1. 社長の趣味
社長が根っからの体育会系だったり、精神論が好きで、この手の言葉を好む場合。
これなら、まだ良い方だと思う。単純に社長が「そういうもの」を好きなだけであって、イコール企業の価値には直結しない(多分)。周りからすると、胡散臭く感じるかもしれないけれど、入ってみたら案外普通だった、なんてこともありえなくはない。
一過性の「趣味」として、きれいな言葉を標榜しているなら考えものだけど、割と本気(と書いて「ガチ」と読む)でそう考えている人もいるはず。その場合、話の中で社長の人柄がなんとなしに分かるだろうし、具体的な仕事の内容について聞いてみたら、熱く語ってくれたり、勉強になったりすることもある。判断が難しいかもしれないけれど。ボカされたら、注意。
僕が就活をやっていた頃は、『ONE PIECE』がマンガ好き以外の一般層にも普及しきっていた頃だったので、そんな中小企業が多く見受けられた。明らかにマンガを意識した言い回しを使っていたり、当たり前のように「ワンピースみたいに!」「海賊のような」とか言っちゃっている社長さんもいた。海賊はあかんやろ。
きっと、めっちゃハマってたんでしょうね。かわいいおじちゃんだと考えれば、ある種の和みもある。そんな余裕はなかったけれど。
2. エントリー数を増やすため
企業説明会は、自社のことをアピールする最大のチャンスだ。だからこそ、どの会社もあの手この手でその魅力を伝えようと準備し、多くの合同説明会に出典してくる。
本来ならば、企業と学生のミスマッチを減らすためには、会社の実情と仕事内容を、データなども駆使しつつ、正確に伝えるべきだと思う。しかし、少しでも優秀な人材を数多く集めたい企業側は、とにかく学生を「惹き付けよう」とする。
ぶっちゃけ、学生側からすれば、企業を選り好みしている余裕なんてない。何十もの、下手すれば100以上もの企業にエントリーすることになるため、ひとつひとつの企業の情報を綿密に調べ、吟味している暇がない。じゃあ、どうやってエントリーする企業を選んでいるかというと、「なんとなく」の感覚で決めている人が多いんじゃないだろうか。
そんな「感覚」で決められてしまう企業側からすれば、学生を惹き付けるために何よりも大切なのは、彼らの第一印象だ。
だからこそ、パッと見の外面を大事にする。その外面のひとつが、「ことば」。たとえ具体性はなくとも、なんとなく「良い感じ」の言葉を見て気分を悪くする人は少ないと思われるため、直感的に「いいね!」と感じられそうな言葉・表現を選ぶことになる。
結果、説明会やパンフレットには、それっぽいけど、中身のない、「きれいなことば」が溢れ返ることになる。学生側も、全ての企業を吟味することなどできないのだから、直感で、なんとなく気になった企業にとりあえずエントリーする。そんな変な循環によって、浮ついた「ことば」だけがふわふわと漂っているような、そんな状態。
これはもう、新卒採用システムの現状が変わるか、学生側の目が肥えるかしない限りは、どうしようもないような気もする。何かを選ぶに当たって、「直感」の力はあながち否定できないけれど、ふわふわした「きれいなことば」には振り回されないようにしたい。
3. 他に書くことがない(書けない)
一番、やばいパターン。暗黒面に染まったブラック企業ほど、「きれいなことば」を使う。というか、それしか使えない。そうするしかない。だって、バカ正直に書いたら、人が集まんないんだもん☆
外部には出せないような労務環境、具体的に突っ込まれると答えづらいような業務内容を抱えている企業は、それらを隠した最低限の企業説明しかできないので、ありとあらゆる「きれいなことば」や表現に頼らざるを得なくなる。なかなかそんな企業はないと思うけれど。
もしくは、仕事が余程つまらない会社。社員から見ても、「うちの仕事の魅力なんて、何もないよな……」と悩んでしまうほどに、単純作業を繰り返すものだったり、考える暇もないくらいのハードワークだったりする場合。
仕事そのものに魅力が見出せないため、それっぽい、この手の言葉に頼るしかない。話題が膨らませられないため、人間関係の良好さや、社員個人の仕事観を「きれいなことば」でアピールしようとする。
全てが一概にブラック企業だとは言い切れないけれど、「きれいなことば」でボカし始めたら、ちょっと気をつけた方がいいかもしれない。
夢を語り、騙って、自己実現を目指す
就職してみて分かったのだけれど、このような「きれいなことば」は、入社してからもずっとついてくる。社員のモチベーション維持のため、上司のそれを聞かされ、時には、自ら「きれいなことば」を語るようにもなる。
自分のやりたいこと=夢があって、それを本気で語れるのなら、何も問題はない。けれど、就活時に「それっぽい」言葉に振り回されて、なんとなくエントリーし、選考の中で自分なりの「きれいなことば」を語ってしまえば、入社後もそれに振り回されることになる。
レポートや人事考課の場面で、素直に自分の考えを書けば、「熱意が足りない」だの「本気で書け」だのと突っ込まれる。そうすると、過剰な表現に頼るしかなくなる。就活時に聞かされ続けた「きれいなことば」を自ら騙るようになり、なんともいえない複雑な気分で日々を過ごすことになる。
僕自身、入社時には本気でやりたいことがあった。そのために、勉強もそこそこしていた。けれど、入社してしばらく経って、それが実現できないことに気付いた、知ってしまった。そうなれば、あとはもう「それっぽい」言葉を騙るしかなくなる。
毎日の業務の中で、別の「夢」を見つけられればよかったのかもしれない。または、「これはこれであり」だと妥協できれば良かったのかもしれない。でも、それができなかったので。夢は無理に探すものではないと思うし、10年も同じ仕事を続けることには耐えられそうもなかった。
そんなことがあったので、現在、新卒採用の大きな流れに乗って就職活動をしている学生さんには、「きれいなことば」に振り回されないで欲しいと思い、こんな記事を書いてみました。
でもそもそも、冒頭の記事に対する反応を見る限り、否定的とまではいかずとも、「ちょっとなんだか……」といった疑念的なものを持っている人は多そうだし、そもそも現在の就職活動の風景が変わっているかもしれない。なので、あまり参考にはならないかもしれませんが、まあこんなアホもいましたよ、というひとつのケースとして。
本当は、冒頭でちょろっと挙げた、メディアの表現についても考えてみようと思っていたのだけれど、就活云々に絞って書いてみたら、思わぬ長さになってしまったので。気分が乗れば、次の記事でメディアの強調表現についても考えてみようと思います。
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※一部、本書の内容にインスパイアされております。