経営が無く、辞表が泣く

マンションの一室から創業した私の会社に、当初まともな人は就職してくれませんでした。一般社会からみれば訳の分からない留学生のところに就職するなんてよほど就職先に困っていないとしないことです。実際、初期のソフトブレーンの社員は本当に他に就職できない人の溜まり場でした。

初期社員の名誉のために言いますが、彼ら自身は欠点を抱えながらも大変光るところを持つ人達ばかりでした。悪く言えば癖がある、良く言えば個性がある方々で私は今も彼らと一緒に創業時期を共有したことを誇りに思います。

それでも社員が辞めて行きます。もともと行きたい企業があるのにすぐ入れないためとりあえず入り易い私の所に入ったのですから、狙っていた企業が声をかけてくると行かない訳がありません。

私にしてみればそれは単なる自分と自分の会社の力量不足や信用の無さを再び証明されただけですからその都度数日は落ち込みました。だから私は現役の時、一番見たくないものは部下の退職届でした。

ところが、NHKの会長が着任した途端に理事全員の日付のない辞任届を取ったと聞いた時はショックでした。最初はてっきり会長が背水の陣の決意をみせるために委員会に提出しておいたのだと思いました(それでもおかしいです)が、よくよく聞くと皆が素直に彼の要求に応じて提出したのです。

その時まず思ったのはこの人は本当に部下を愛し部下の重要性を認識したことのない、つまり本当の経営の苦労をしたことのないサラリーマンだと思いました。貴重な人材だと思うとそんなことは思い付かないのです。本当に愛している人との結婚式で日付のない離婚届を強要するようなものです。

次に思ったのはNHKのガバナンスとコンプライアンスです。会社法では取締役会の投票決議で代表を解任することができることになっています。実際、取締役会でトップが解任されるケースはよくあります。それによって透明性、公平性の高い経営が担保され、ステークホルダー達の利益を保全しているのです。役員達が人事権に怯えてトップの不正を許して大惨事になったオリンパス事件は皆さまも記憶に新しいでしょう。

そんな愛情もなく、順法精神もない人がなぜ視聴者の視聴料で運営される公共放送のトップになったのかは別問題として、一番腹が立ったのはこの件がばれたときの彼の言い逃れでした。

本質ではない生温い国会議員の追及に答える形で彼は「これは一般社会ではよくあることだ」と言ったのだ!

私は日本の様々な企業経営者と友人・知人関係にあります。70代、80代の年配の方々もいれば30代、40代の若い経営者も居ます。彼らの多くは上場した企業の経営者だけではなく、世界的にも著名な企業の経営者です。長年のお付き合いの中では、着任した途端部下の辞任届をもらっておくという人に会ったことはありません。酒のネタとしても聞いたことがありません。

この方はよほど国会議員と視聴者を舐めているか、よほどの変な環境に居て偏った経歴を持つかのどちらかだと思いました。そんな「一般社会」は日本のどこに存在するのか本人に聞いてみたいと思いました。彼の「政府が右と言えば我々が左に行く訳にも行かない」などの発言には正直それほど興味がありません。むしろ正直な人だなと思ったくらいです。

しかし、企業経営、とくにNHKという巨大な公共企業の経営トップがこれほど無知、且つ無法なことをした上、それが日本の「一般社会によくある」と言い張るところを、経営コンサルタントである私は許せなくなりました。

経営者の誰かが声を上げてほしいと思ったところに4日、経済同友会の長谷川閑史代表幹事は会見で、「コーポレートガバナンスの問題として適切ではない」と批判した上、「それぞれの立場で経営を監視する取締役の発言の自由を制限することになる」と言いました。日本商工会議所の三村明夫会頭も「自分の知る限り通常の会社では聞いたことがない」、「異常な状況」と言いました。

日本のビジネスマンと経営者達は未だに健全性を失っていません。
この記事へのコメント
匿名にて失礼いたします。(名前が明らかになると色々と問題になるものですみません)
いつも、宋さんの記事を読ませていただいております。今回の籾井会長の件は正に言われている通りと思います。籾井会長の元の会社でも社有車を社長を退任してからもずっと使っていたとか・役員の給与だけを猛烈に引き上げた(結果従業員の年収はガタ落ち)とか、正にやりたい放題でした。自分さえ良ければ全て良しというタイプの人間(?)でして、決して公共放送のトップなどなれる人ではありません。このことが解らず、推薦した人たちもどういう人なのでしょうか?全く疑問を持ってしまいます。早く退任の結論を出すことを提言したいと思います。(但しこのような方がまた出てくれば同じと思いますが)
Posted by HT at 2014年03月07日 08:50
部下にあらたまって「お話があります。」といわれるのが一番いやでした。背広のうちポケットから出てくるのが退職届だからです。くしの歯が抜けるように社員が辞めていくこんな淋しいことはありません。「お前なんか辞めてしまえ。」は何度も言われたことはありますし、始末書も何度も書きました。でも、辞表を持って来いとは言われたことがありません。ましてや役員になった時に白紙の辞表をとるとは聞いたことがありません。自分がその職をまっとうする能力がないと思ったときに書くのが辞表でしょう。幸い退職届は書いたことがあいますが、辞任届けは書いたことがありません。能力がないのに、ルール違反をしているのにかかわらす、温情で会社に残してもらってはいけません。
Posted by 藤岡一男 at 2014年03月07日 09:09
匿名にて失礼いたします。(名前が明らかになると色々と問題になるものですみません)いつも宋さんの記事を読ませていただいております。今回の籾井会長の件は、正に言われている通りと思います。籾井会長の元の会社でも社有車を社長を退任した以降もずっと使っていたとか・役員の給与だけを猛烈に引き上げ、従業員の年収はガタ落ちとか正にやりたい放題でした。自分さえ良ければ全て良しというタイプの人間です。決して公共放送のトップとしてやれるような人間(?)ではありません。
こういったことが解らず推薦した人たちというのもどういう人なのでしょうか?早く退任の結論を出すことを提言いたします(彼は絶対自分ではやめるようなことはしません、)
但し、このような方がまた出てくれば同じことですが???
Posted by HT at 2014年03月07日 09:19
健全なお考えをお持ちの方が日本の経営者の中にいらっしゃる事がわかり少しほっとしました。ちなみに、なんの苦労もないサラリーマンでも上司だからといって何でも出来るなどと思っている者はそんなにいないと思いますよ。いても人事のミスか政治的事情とされたうえで長続きはしないですよね。今回のNHK事件も石原代表発言事件その例なのでしょう。それにしてもこういった報道が何かの策略をベースにしたものでないことを祈るばかりです。
Posted by takog at 2014年03月07日 09:28
初めてコメントさせてもらいます。
ご意見にまったく同感です。
私も零細ながら会社を立ち上げ昨年度に若手に引き継ぎました。
こんな感覚を持った人間が公共事業会社のトップかと思うと情けなくなります。
一経営者として否定します。
貴殿のご活躍祈念いたします。
ありがとうございます。
 笹田保広   拝
Posted by 笹田保広 at 2014年03月07日 09:57
独裁政治を敷こうとしているのでしょうか?
企業のトップは裸の王様でも、創業者と違って籾井さんは物産出身のサラリーマン社長です。たぶん他人が信用できない人でしょう。
NHKというところ私個人もあまり信用していません。(映像制作はお金が掛かっていて良い作品が多いとは思いますが)
過去に両親を私の住む近くに呼び寄せて新居を構えたところ、NHKの受信料の自動引き落としの営業をするために担当者が両親の家に訪ねてきたとき、通帳をみせろと自宅に上り込み母に迫ったときがありました。85歳の高齢者に対してこういうことを平気でやる集団なんでしょうか?苦情の電話を担当部署に入れましたが一度不在中に電話があったのみで、以降音沙汰なしです。やくざまがいの行為でとんでもない組織だと思います。
Posted by 木村 交延 at 2014年03月07日 10:12
ああ
Posted by HT at 2014年03月07日 10:23
類は友を呼ぶ!面汚しの友は面汚ししか集まらないに決まってるだろう?それより、日本社会の成熟度に関心せざるを得ない。精神錯乱者も総理大臣になれるから、NHK会長のケースはかわいいもんじゃ。
Posted by Preston.Lee at 2014年03月07日 10:27
籾井会長の件は宋さんがおっしゃる通りだと私も思います。
このような世間の常識からかけ離れたことがまかり通る今のNHKは病んでいると思います。
これは後で安倍首相が糸を操っているのではないでしょうか。
安倍首相に都合が悪い、軍国主義復活に支障をきたすようなニュースを、NHKが流さないように布石したのだと思います。
このままだと本当に日本は世界から見放され、没落してしまいます。
籾井会長はもちろん他の問題児の2人にも即刻辞表を出してもらいたいです。
止めさせる合法的な良い方法はないものでしょうか。

Posted by 山永順一 at 2014年03月07日 10:30
籾井会長の件は宋さんがおっしゃる通りだと私も思います。
このような世間の常識からかけ離れたことがまかり通る今のNHKは病んでいると思います。
これは後で安倍首相が糸を操っているのではないでしょうか。
安倍首相に都合が悪い、軍国主義復活に支障をきたすようなニュースを、NHKが流さないように布石したのだと思います。
このままだと本当に日本は世界から見放され、没落してしまいます。
籾井会長はもちろん他の問題児の2人にも即刻辞表を出してもらいたいです。
止めさせる合法的な良い方法はないものでしょうか。
Posted by 山永順一 at 2014年03月07日 10:37
匿名にて失礼いたします。(名前が明らかになると色々と問題になるものですもません)
いつも、宋さんの記事は読ませていただいております。
今回の籾井会長の件は、正に言われている通りと思います。
籾井会長の元の会社でも、社有車を社長引退後もずっと使っていたとか。給与にしても役員の給与だけを極端に上げて、従業員の年収はガタ落ち等、やりたい放題でした。自分さえ良ければ全て良しというタイプの人間です。
慰安婦問題・NHKの問題等行くとことに必ず、落とし穴ありというか、どうしようもない人間です。
決して公共放送のトップなど張れる人ではありません。このことが解らず推薦した人たちもどうしようもありません。
自分では絶対に退任などいう人ではありませんので、推薦した方から退任すべきとの発言をしていただかないとどうしようもありません。
一刻も早く、退任すべき人です。
Posted by HT at 2014年03月07日 10:41
「一般社会でよくある」という表現は極端かもしれませんが、私の少ない企業経験の中でも一回知ってます。社長が役員の辞表をすべて預かったという話はウチの会社でもありました。業績が悪くなり、役員一同背水の陣で建て直せという決意を現れだと聞いてます。その後、見事に業績は回復しました。しなかったら当然社長も辞めるつもりだったでしょうね。
今ほどコンプライアンスがうるさくなかった時代の話です。

スタートアップ企業と大企業では、社長に求められるスキルもマインドも違います。
日本の大企業の経営者の多くはサラリーマンです。サラリーマンが出世し、役員になり、社長になるのです。
社長になったら経営者かというと、今度は株主という上司に評価されるサラリーマンになります。

サラリーマンを馬鹿にするのは自由ですし、宋さんには馬鹿にされてもしかたないと思いますが、サラリーマンにはサラリーマンの組織掌握術はあると思います。
成功するかどうかは、社長とその部下(役員・理事?)しだいですが。
社長が社員(労働者)の辞表を事前に確保したという話なら、ありえない話ですが、会社が危機的状態にあるときに、社長が役員を掌握(よくある私利私欲のための下克上をねらって、会社の建て直しよりも社内政治に精を出すとかをやめさせるため)というのはアリなんじゃないですかね。
時代錯誤といわれるかも知れませんが、戦国時代の大名が実子を人質に出したように。

もちろんそれは権力構造を維持するためです。しかし、強権で権力構造を固めるのも時と場合によりけりで、どうしてもそれが必要な時期にやれば、有効な場合もあると思います。
Posted by 都市部無党派層 at 2014年03月07日 11:16
これまでのNHKは極めて反日的放送を垂れ流してきました。しかもテレビを所有しているだけで強制的に受信料を支払わせるヤクザも逃げ出すような放送局です。反日も真実のことなら許せますが、ジャパンデビューアジアの一等国など、台湾の人たちの人権を無視し、且つ親日的な発言はカット、少しでも反日的な事だけを聞き出そうと言うとんでもない報道姿勢です。そのほかにも最近世界各国に向けて従軍慰安婦が存在したかの放送をしています。こんな報道体制を改めさせるためには、経営幹部の辞表を預かるぐらいでちょうど良いのです。
Posted by 高月 瞭 at 2014年03月07日 11:26
公共放送の会長の辞任は時間の問題ですね。日本を代表する大商社の副社長まで登った方だそうですが、まあ大企業のトップによく見受けられるタイプでしょうね。
宋さんのお知り合いの大使を務められた某商社の元会長さんと何が違うのでしょうか。
非常に興味のある点ですが。

確かにNHKの経営責任を背負うのですから、御本人にはそれなりの「覚悟と責任」で自負があったのでしょうが、行動が不適切と言うことですね。

私の経験で申し訳ないのですが、東南アジアの社会主義の国で合弁会社の経営に携わったことがあります。
本社から派遣されている経理担当の勘違いした責任感には参りました。

現地法人の予算管理は現地通貨でやるのですが、彼は米ドルの予算書と実績管理の作成を毎月やっていて、私のところに説明に来ます。経営管理として無駄なことと思い彼に注意しました。

「東京の本社は米ドルで出資している。事業撤退時に、企業価値を把握する必要があるからやっている」と自分の行動を正当化してきました。

生まれたばかりの現地法人の課題は、いかにして経営を軌道に乗せるかを現地幹部と一緒に悩み、行動するのがミッションですが。

然様に、勘違いした「責任感」ほど、はた迷惑になると言うことでしょう。
Posted by 伝三郎 at 2014年03月07日 11:40
匿名で申し訳ありません。全く宋さんのおっしゃる通りです。着任早々に部下の辞表を預かるという経営者がどこにいるでしょうか。「日常の事」とNHK会長は述べていますが、どこか狂っている人ではないでしょうか。会社なら取締役会で解任できるようにNHKに関係する法律を変更し解任すべきです。まともな人なら辞職しているはずです。このような人を任命した人も同罪です。NHK会長ともども、日本のリーダーであることがおかしいことです。部下の首根っこをとらえたままで、NHKの経営は大丈夫でしょうか。強圧的な経営で任期を全うすれば良いと思っているのでしょうか。あるいは任命者の退任と共に辞職するのでしょうか。そうであれば全く無責任な人がNHK会長になったものです。
Posted by TAD at 2014年03月07日 11:49
7年近くメールをご拝読させていただいております。
困った経営者あるいは経営者失格…大なり小なり身の回りで見聞きしてきました。今回のNHKトップの言動は稀有と言うべきか、最悪と言うべきか、はずれ値と言うべきか、その乖離(ズレ)にはほとほと呆れ果てます。
一方では、中堅・若手に対し経営者感覚をきちんと持って職務に接することを伝えてきたひとりとしては、ある意味、反面教師的な好材料なのだと解釈したりしています。
言うまでもなく、経営資源の基本中の基本はヒトです。時に「人材」を「人財」と書くのもその表れだと思います。ヒトがあっての組織。しかし、困った経営者たちに(報復人事を恐れずに)言うべきことは言っても通らないことがほとんどで、残念ながら経営陣の強硬な方針によって「人財流出」の憂き目にあったこともしばしばです。命を絶つという最悪のケースも過去にはありました。
何年かのスパンで経営陣も異動により替わりますが、不幸にして困った経営者に当たってしまった場合の対処・対応・心構え等、ご教授いただけたら幸甚です。
Posted by 谷江徹司 at 2014年03月07日 13:02
私は辞表を書いた人達は、辞めるべきだったと考えます。どんな組織でも自分の意見と異なる方針を出す時は有るでしょう。その時反対したら首になるからと言いなりになるのと、反対の意見を持ちながら、その中でベストを尽くし、先を見るのとでは大きな違いがあると思います。或る意味、イエスマンばかりに囲まれた籾井会長のNHKはますます期待が持てなくなった。
Posted by 松尾皓司 at 2014年03月07日 13:50
おっしゃる通りです。
甚だしいルール違反を違反とも思わない・思えない人物を公共事業のトップに据え置く何て言語道断、それを見抜けなかった・見抜かった(?)任命者の責任もあります。
一日一時間一分でもでも早く退任させることが
必要です。これで受信料支払い拒否する人が更に増えるのは必至だと思います。
Posted by 山東虎 at 2014年03月07日 14:03
最初このニュースを聞いた時、籾井会長の発言に対し、委員全員が辞表を出したのだと思い、素晴らしいと思いました。ところが全員が唯々諾々と預けたという話で、じゃ、やっぱり、その程度の委員の人達なら辞表出して貰った方が、お金を払ってる国民のためになると思いました。
Posted by 垂水清一 at 2014年03月07日 15:30
宋さんのご発言はもとより、どなたが思っても皆様のご指摘の通りだと思います。そこで反対のことを考えました。籾井さんはそういう方だからそうした発言をなさったということだとすると、なんで天下のNHKがそういう方を会長にされたのでしょうか?50%だという報道もある受信料支払い率がさらに悪くなるのを承知で、NHKがそうした人事をしたのか?いまいちわかりません。何か深い読みがあるのでしょうか?
Posted by 小泉 武衡 at 2014年03月07日 15:52
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