11-8.ゼナの行方(2)
※3/7 誤字を修正しました。
※3/7 少し加筆しました。
サトゥーです。パニック物の映画だと一安心した後に、必ず次のパニックが待っています。判っていても驚かされるんですよね。
◇
迷宮上層の第一区画に転移後、肩に担いだままだったゼナさんとゲルカ嬢を地面に下ろす。
だが、2人の様子がおかしい――硬直したように動かない。
ゲルカ嬢には悪いが「理力の手」の魔法で空中で待機してもらい、ゼナさんの様子を詳細に調べる。
AR表示で見ると「束縛」という状態異常になっているようだ。
ログで確認すると転移直前に、オレも真祖から「束縛の視線」という状態異常攻撃を受けていた。
壁面に穴を開けてから転移まで数秒も無かったのに、大した物だ。
いや、ゼナさん達を束縛しようとした場所にオレが飛び込んだのか。
抵抗できていなかったらと思うと、ゾっとする。
耐性系のスキルが手に入らなかったので、既に持っていた耐性スキルのどれかが有効だったのだろう。
とりあえず、「魔法破壊」で状態異常が解除できるか調べてみよう。
その前に、一声掛けるか。
「落ち着け。我はお前達を助けに来た者だ」
ゼナさんとゲルカ嬢の緊張が少し和らぐ。
さっきから喋らないのも警戒していたからじゃなく、「束縛」の効果で声が出せないからのようだ。
「束縛」の魔法だと喋りにくいだけで会話は可能なのに、吸血鬼の固有スキルだと効果が少し違うみたいだ。
「吸血鬼の城からは脱出した。これから、お前達の状態異常を解除する。力を抜いて待っていろ」
そう2人に告げて「魔法破壊」を使う。
ほんの僅かの抵抗を感じたが、問題なく解除できたようだ。
「念の為に聞くがゲルカというのは、お前で合っているか?」
「はい、あたしです」
「そうか、ソソナという娘の依頼でお前を助けに来た。そっちの娘は一緒に助けてしまったが問題ないな?」
とりあえず、ゲルカ嬢を助けるついでにゼナさんを助けた事にした。
ソソナには悪いが、救出の報酬代わりに言い訳に利用させて貰う。
礼を告げる二人に鷹揚に応え、脱出を促すことにする。
ゆっくりしていたら、心配しているリリオ達に悪いしね。
そうだ、ゼナさん達に護身用の武器を渡しておこう。
出口までは、デミゴブリンくらいしかいないので武器など不要なのだが、ゼナさんに魔法の武器や高性能な杖を渡す良い機会だったので利用させて貰った。
「ここは迷宮上層の第一区画だ。出口前の大広間まで送る。これは護身用に持っておけ」
「素朴だけど綺麗な短剣……もしかしてミスリル製だったり?」
「純粋なミスリル製ではない。ミスリル合金製だから気にするな」
オレが渡した短剣の材質に気がついたのか、ゲルカ嬢が少し絶句してから自分の見立てを問うてきた。
それに適当な答を返して、ゼナさんには小剣を渡す。
こちらもエチゴヤ商会で販売している量産型の鋳造魔剣だ。
「凄い鋭さですね……。デリオ隊長の持っていた魔剣よりも力を感じます」
「この剣帯を使え。その服では帯に挿すわけにも行くまい」
小剣を鞘から10センチほど抜いて刃を見ていたゼナさんに、貴族への売却用に作り置きしておいた瀟洒な剣帯を押し付ける。
彼女達は、薄手のドレスに華奢なパンプスを履いているだけなので、剣帯が無いと剣を下げる事が出来ない。
「あの~、もし良かったら杖も貸してもらえないかしら? わたし達は魔法使いなの。護身用には剣よりも杖の方が嬉しいんだけど」
「よかろう、これを使え」
元々渡すつもりだったので、ゲルカ嬢の求めに応じて「宝物庫」から取り出した長杖を渡す。
ボルエナンの森の樫の古木から作った杖で、魔法の収束率と発動までの魔力ロスの低減を追及した物だ。
迷宮のように連戦が必要だったり、誤爆が怖い状況で使うのに適している。
元々、アリサ用に作っていた杖だが、後日、大量に世界樹の枝が手に入ったのでお蔵入りしていた。
ゲルカ嬢が早速、自分に身体強化の魔法を使って長杖の感触を確かめている。
「おお、凄いよコレ! 気持ち悪いくらいに、すんなりと魔法が流れる」
「……本当ですね。それに魔力の消耗が凄く少ないです」
ゼナさんも、オレを含めた全員に「風防御」の魔法を掛けて感想を呟く。
気に入ってくれたようで何よりだ。
杖もストレージの肥やしになるよりは、使ってもらった方が嬉しいだろう。
作成者名も空欄になっているし、変に出所を疑われる事も無いはずだ。
オレ達は入り口に向かって回廊を進む。
途中、デミゴブリンと戦う少年少女達がいたので、ゼナさん達の護衛と入り口までの案内を頼んでみた。
「この娘達たちを入り口まで案内して欲しい。むろん、報酬は出す」
「くっ、せめて、戦いが終わるまでっ――待ってくれっ」
リーダーらしき青いマントの少年が、ゴブリンと戦いながらも律儀に返答を返してきた。
彼らは「ぺんどら」の卒業生のようだが、顔に見覚えが無い。
それにしても、デミゴブリン相手に苦戦するとは少々情けない。
数分後、無傷でデミゴブリン達を倒し終わってこちらにやってきた。
「ちぇ、こいつの短剣は血の汚れだよ」
「なんだ、毒じゃなかったのか」
少年達は、デミゴブリンの持つ骨を削った短剣を、光に翳しながらそんな会話を交わしている。
「最近、こいつらの中に毒の短剣を使うやつが居るんだ」
なるほど、それで攻撃を受けないように慎重に戦っていたのか。
リーダーらしき少年が、聞きもしないのにそんな事を教えてくれた。
「悪いが、この娘達を入り口まで送ってやってくれ。これが報酬だ」
そう一方的に告げて、人数分の金貨が詰まった小袋をリーダーに投げ渡す。
「わかった。大階段まででいい?」
「ああ、それで頼む」
チャリという金属音がする小袋を受け止めて、中身を確認もせずに案内を了承してくれた。
入り口までは30分ほどの場所だから、小遣い稼ぎとでも思ってくれたのだろう。
「では、サラバだ。ソソナ殿によろしく伝えておいてくれ」
「あの、お名前を教えてください」
「名乗るほどの者では無い」
……我ながら何を言ってるかな。
まあ、クロと名乗ってもいいのだが、目的は果たしたので回廊の暗がりに姿を隠して「帰還転移」の魔法を使い屋敷に戻った。
◇
「あ! 少年! こっち!」
アリサ達を連れてギルド前に来るとリリオの周りには「月光」のメンバーが集まっていた。
もちろん、治療を終えたセーリュー市の迷宮選抜隊の人たちも一緒だ。
さすがに装備品の修理は間に合うはずもないので、鎧の破損はそのままになっている。
迷宮選抜隊隊長のヘンス卿と挨拶を交わしている間に、ゼナさん達が迷宮門を通過して「死の回廊」を進み始めた。
西門の近くまでやって来たところで、適当に話を切り上げてゼナさんを迎えに西門前に歩み寄る。
「ゼ、ゼナっちぃーー!」
「リリオ! ただいまっ」
西門から出てきたゼナさんを見てリリオが飛びつく。
彼女に遅れてイオナ嬢やルウ嬢の2人もゼナさんの無事を祝う。
「ゼナさん、ご無事で何よりです」
「サトゥーさん!」
3人に抱きつかれながらも、体の隙間から手を伸ばしてきたゼナさんの白い手を握って生還を祝う輪に加わった。
後ろからアリサとミーアに軽く踵を蹴られたが、再会を祝うのを嫉妬するのは止めて欲しい。
◇
ゼナさん達は「契約」スキルで吸血鬼たちの事を話せなくされていたようで、迷宮で攫われて監禁されていた所を謎の人物に助けられたとギルドに報告していた。
謎の人物は、特徴的な風体から、すぐにその正体がクロと判定された。そのせいか、ゼナさんを攫ったのは迷賊という事になってしまった。
後で、クロとして吸血鬼の話をしにギルド長の所に行けばいいだろう。
ゼナさん達は装備の修理の為に、数日の間、迷宮に入れないそうなので今日明日は休養に努めて貰い、明後日に一緒に食事に行く約束を交わした。
ちなみに迷宮選抜隊がボロボロだったのは、吸血鬼達のせいでは無く、甲虫と戦っている所に、剣斧蟷螂が湧き穴から現れてリンクしたせいで激戦になった為らしい。
その時にゼナさんが重傷を負い、直後に黒い霧に攫われたという事だった。
後で聞いたのだが、ゲルカ嬢も影小鬼の毒刃で死に掛けていた所を同じように黒い霧に攫われたそうだ。
もう少し詳しい話を聞きたかったが、西門からナナの後ろに死体の様な姿勢で浮かべられたカリナ嬢が現れたので中断を余儀なくされた。
どうやら、ナナの理術「自走する板」で作られた透明な板の上に載せられているようだ。
カリナ嬢だけでなくエリーナ達やシロとクロウも、ぐったりとして運ばれている。
たぶん、急激なレベルアップで倒れたのだろう。
「マスター帰還を報告します」
「たらりま~?」
「ただいまなのです!」
「お帰り。カリナ様達はレベルアップ酔いかい?」
「ハイと肯定します」
AR表示で見るとカリナ嬢で3レベルアップ、シロとクロウに至っては1レベルから7レベルまで急激に上がっている。
どんな荒行をしたのやら。
明日はお茶会と晩餐に連れて行かないといけないから、今日は早めに休んで貰おう。
明後日に迷宮に行く時は、もう少し手加減するように言っておかないとね。
◇
そして、その日の晩、肉抜きお子様ランチにうなだれるポチを慰めた後に、再び、迷宮下層へと舞い戻った。
そう、例の転生者疑惑のある真祖に会う為だ。
※次回更新は、3/9(日)の予定です。
活動報告にてゼナさん達のラフイラストを順次公開しています。
良かったらご覧下さい。
※3/7 杖の銘について少々追記しました。
※3/7 「転生者疑惑が判り辛い」との指摘があったので、11-7に少し加筆しました。
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