南米ベネズエラでチャベス前大統領が死去してから5日でちょうど1年。後継のマドゥロ大統領はチャベス氏の路線を継承して反米左派の施策を取る。ただ国内ではインフレや物不足がより一層深刻化。野党との対立が先鋭化するだけでなく与党内にも亀裂が走っており、政府は苦境にある。
「マドゥロ大統領は即刻辞任せよ」。2月12日以降、首都カラカスを中心に国内各地で反政府の抗議デモが連日のようにおきている。政府支持者らとの衝突などで、4日までに少なくとも18人が死亡する事態だ。
マドゥロ大統領は「辞任する考えはない」と繰り返し強調し、反政府運動のリーダーの一人で前チャカオ市長のレオポルド・ロペス氏を2月18日に逮捕するなど鎮静化に向けた対応に追われる。
ベネズエラの対立は根深く、政府と野党を支持する勢力が国を二分している。強硬な反米左派だったチャベス氏の死去に伴う昨年4月の大統領選挙では、マドゥロ氏が得票率50.61%で勝利。ただ野党候補は49.12%を集め僅差だった。低所得者層や地方部は政府側を支持し、一方で高所得者層や都市部では野党支持が目立ち、社会的に分断されている。
加えて与党内部も一枚岩ではなくなってきた。与党の有力者で西部タチラ州知事のホセ・ビエルマ氏は、デモ隊を鎮圧する政府の動きに「行き過ぎだ。政治的な動機で投獄された者を家に帰すべきだ」と発言した。チャベス政権時代には与党から異論を唱えることはなかっただけに、与党内の亀裂が明らかになった。
マドゥロ大統領は国民の関心を外国に向けることに腐心する。暴動の組織化を助けたとして3人の米大使館員に国外退去を求めると発表。公正な報道を手がけていないとして米放送局CNNの取材許可証も剥奪した。
マドゥロ大統領はチャベス氏の左派路線を継承してきた。反米の同盟国であるキューバなどには原油を安価で供給。結果として、世界最大の原油埋蔵量を誇りながら、老朽化している施設への投資は遅れ生産量は減少しており、治安悪化への手立ても遅れている。
そのしわ寄せは国民生活に及ぶ。2013年の消費者物価指数(INPC)の上昇率は年間で56.2%に達しており、世界で有数の高さだ。20.1%だった12年の2倍以上の水準だ。物不足も深刻で、スーパーなどで商品入荷の情報が伝わるとたちまち顧客が殺到する。為替レートでは公式と非公式の格差も拡大している。
国内で流通している外貨は不足しており、ベネズエラ国内で操業する企業に影響している。トヨタ自動車は2月、部品輸入が滞り工場の稼働停止に追い込まれた。同社で中南米を統括するスティーブ・セントアンジェロ常務役員は「進出先ではどの国でも政治的な不安定を心配している」と話す。
マドゥロ大統領はチャベス氏の威光をバックにした政治を続けている。生前最後の演説の日を国民の祝日に指定し、同国有数の油床に同氏の名前を冠した。3月5日は追悼イベントなども開催されることで、政府支持者の動きも活発になるとみられ、対立関係は一段と緊迫する可能性もある。(サンパウロ=宮本英威)
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