kahoの日記: STAP細胞の非実在について#3 5
残念ながら政治的には勝てそうにありません.
しかしここを読んだ人に誤解していただきたくないのは,私が孤独な戦いをしているというわけではないということです.むしろ話をした方々は全て私に賛同し応援してもらっており,数の上では私の方が圧倒的なマジョリティだと思っています.
科学雑誌の論文は著者全員の同意がないと著者側からの撤回はできませんので,一人でも意見を曲げない人がいれば強制的に撤回させる方法はないのが現在の制度であるのです.
ところでSTAP幹細胞ではTCRの再構成がみられないが,STAPでは見られる,という現在のストーリーですが,前回のTCR領域を見て頂ければ分かりますが,酸で刺激した段階でゲノム再構成はほぼ観察されなくなっています.わずかに含まれるかもしれませんが,殆どの細胞は再構成の起きていない細胞になるはずです.この点,修正を出すなら著者らは説明する必要があるでしょう.STAP幹細胞だけではなく,Oct4-GFPで選別したSTAP細胞でも再構成の有無を調べてもらえればと思います.NGSデータと矛盾しないのなら,恐らく現在出版されているパターンとは異なるものになるでしょうから.
次に,前回のおまけの答え合わせですが,酸による刺激によって性転換が起こるという世紀の大発見というわけではなく,一つの実験として行っているのに,遺伝的なバックグラウンドが揃っていないことを示しています.
前回よりも細かい図でOct4の周辺を見てみるとよく分かります.
Oct4 surrounding sequence
つまり,CD45+細胞だけがOct4-GFPのトランスジェニックマウスで,それ以外は違う細胞を使っています.
調べた所CD45+以外の細胞にもGFPの配列はありました.従って,これらは論文に使われている,恒常的に蛍光を発するCAG-GFP細胞であろうと考えられます.
酸で刺激した細胞が元のCD45+細胞とは違うことを示すための実験なのに,明らかにDNAが異なる細胞を持ってくるというのは実験として大変稚拙で,STAP細胞とCD45+細胞に違いが観察されてもその原因が酸の処理が原因なのか遺伝子の違いによるのかが分かりません.名誉なことに引用していただいた慶応大学の吉村先生ならば「ネガコンとポジコンをしっかりとるのは研究者の基本だ」と叱られるところだと思います.
何故彼らは性別もDNAも違う細胞を使ったのでしょう.
実験というのはお金も時間もかかるものですから,研究の上でやむを得ずそうすることは無いわけではありません.例えばSTAP幹細胞作成の成功率が非常に低いから,わずかにとれたサンプルでしか観察できない,というような場合です.
しかし今回の論文では,CD45+細胞を集めてそれにストレスを与えて,更に数日特殊な環境において,という過程の中で,最も簡単に揃えられるのは最初のCD45+細胞です.その最もコストの安い細胞を,わざわざ他の細胞とは違うものにした上でで実験をして,CD45+細胞とそれを刺激したものは違う,と主張しているのです.性別もDNAも違うのだから,違いがあるのは当たり前なのに.
ここには私の一つの推測がありますが,残念ながら確実な証拠は時間が足りずに掴めませんでした.
政治的な敗北は単なる権力的な弱さゆえでなく,私の力の及ばなかったせいでもあります.
頑張ってください (スコア:0)
> 私が孤独な戦いをしているというわけではないということです.
> むしろ話をした方々は全て私に賛同し応援してもらっており,
> 数の上では私の方が圧倒的なマジョリティだと思っています.
kahoさんが変に貶められる立場にはならないか心配だったのですが、これなら大丈夫そうですね。
当方、数物系の研究者でこの分野の世界のことは明るくないのですが、内部でこれ以上やっても無駄なら
どこかの段階でSTAPに関する疑問や問題点を論文形式にまとめて、arxivかなにかにあげてみるのは手なんじゃないでしょうか?
うちの分野ではarxivには査読誌投稿中の論文もがんがんあげられますし、論文は関連分野のほぼ全ての研究者が目を通します。
"政治的なこと"があるので難しいかもしれませんが、研究者としては極めてフェアなやり方だと思います。
(アクセプトまでの時間が早いレター形式とかで査読誌に出すのもありでしょう。)
理研の上層部はなんであれ、理研の"研究者"の健全性を示すいい機会になると思います。
Re: (スコア:0)
ブログおよびarxivを使った論文の批判の仕方としては、以下のLior Pachterのブログとarxivに投稿されたコメントが参考になるかもしれません。
http://liorpachter.wordpress.com/2014/02/12/why-i-read-the-network-non... [wordpress.com]
http://arxiv.org/abs/1212.3076 [arxiv.org]
ただし、生物系でarxivを読む人は少ないですし、実名を出す事を強いられますが。
許せない (スコア:0)
分野が違いますが、これまでの疑惑を抱く部分や、分野を跨いだとしても、到底許容できない不正が疑われることについて、一科学者として、許せない気持ちです。
野依先生をはじめ、理研の方々は一体何をやっておられるのですか?
理研はまさに日本の研究の最先端を行くはずなのに。
こんなのがまかり通るんですか??
今こそ、日本の研究者の良識がとわれるのではないか?
kahoさん、応援しています。
実験手法解説を見ました (スコア:0)
We have established multiple STAP stem cell lines from STAP cells derived from CD45+ haematopoietic cells. Of eight clones examined, none contained the rearranged TCR allele, suggesting the possibility of negative cell-type-dependent bias (including maturation of the cell of origin) for STAP cells to give rise to STAP stem cells in the conversion process.
CD45+として集められた細胞に含まれるrecombinationを起こしていない、何かよくわからない細胞からSTAP stem cellが作られる、という主張ですね。元論文にもrecombinationを起こした細胞がSTAP stem cellになるというdataはないので、(元論文はそう思わせるようでとてもまぎらわしいですが)、その点では嘘をついているわけではない賢明な主張と言えるでしょう。kahoさんのおっしゃるようにCAG-GFP細胞である、という確証は得られなかったのですね。それ以上のことはできないかもしれないですね。ただ、今回の論文がいい加減なものであるなら、STAP細胞は遠からず消えていくでしょう。
画像データの使い回しは、今検証中でしょうが本当だったら問題外ですね。
公開データを使っているんですよね? (スコア:0)
とても興味深く読ませていただきました。ポイントをついた重要な解析だと思いました。
「内部告発」と考えて悩まれていると思いますが、これは内部でのみ手に入る情報をリークするのではなく、すでに公開済みのデータを再解析したものですよね?純粋に科学的な問題であり、「政治」とは関係ないと思います。論文発表済みのデータで解析・解釈に問題がある場合、発表後であっても(雑誌側と)著者側に説明責任が出てきます。網羅的解析データの生データ公開義務とはそういうものだと思っています。先に著者に連絡して訂正を促すのはとても親切ですが、直接雑誌に連絡しても全く問題ないと思いますが...
分野が違いますが自分もNGSデータを扱うことがあるので、もし時間的余裕がある時に同じことをやってみようと思っていました。NGSもだいぶ普及してきたので、幹細胞研究者で機会があれば再解析しようと考えている人は多いでしょう。既にそれなりの数の研究者がデータのダウンロードくらいはしているでしょうし、その中にはkahoさんと同じ解析をしている人もいるでしょう。もしかしたら、Nature編集部に連絡している人もいるかもしれません。「むしろ話をした方々は全て私に賛同し応援してもらっており」と書いておられるので、kahoさんを含めNGSの専門家連名でNatureに問い合わせれば、Nature編集部側でも色々検討すると思います。成功者の足を引っ張るということではなく、「科学の健全性」を示す事例だと思います。
kahoさんの解析が正しいとしても、Natureが総合的に判断して載せると決定すればそれは雑誌側の決定で覆しようがありません。TCR再構成が示せずreprogrammingの証拠が不足していようが、バックグラウンドの異なる細胞で比較したあまり信頼できないデータであろうが、です。もちろん、著者や雑誌への信頼が失われることになると思いますが...
Natureが現状を容認する場合、著者がわざわざ撤回するとも思えません、よね。「政治的に」は、Natureに載ったという事実は非常に大きいので。著者側に働きかけるのは、あまり有益ではないと思いました。
ただ、まだkahoさんの解析も仮説の段階なので(客観的に検証されていない)「STAP細胞の非実在について」というタイトルは、少々刺激的な気がしました。とにかく、他の点でも問題が多い論文ですので、怒りたくなる気持ちも理解できます(自分も嫌な気分になっています)。