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偽りの仮面【小説家になろう大賞2014 応募作】 作者: 

推敲後バージョン

第一号 プロローグとはエピローグでもある

「アル、これを食べてみろっ!」
 アドロヴァがおいしそうな燻製の厚切りベーコンをアルの前に持ち出す。
「アルウィン、こちらの方がおいしいですわよ」
 エレオノーラが腕を引く。
「貴様っ! また、下賤な手を使って、アルをたぶらかすつもりか!」
「なにを言うのですか、あなたは! おいしいクッキーだから、アルウィンにはこちらを食べてほしいと思っただけです」
 アドロヴァが机を叩いた。
「なにを言う! 私が作った厚切りベーコンの方がおいしいに決まっているではないかっ!」
「はたしてそうかしら?」
 エレオノーラはアルウィンの方を向く。
「あーん、アルウィン?」
 アドロヴァがエレオノーラの手をはたいた。
「あーん、ではないだろう! アルの初めての『あーん』は私がするのだ! 王族まがいは引っ込んでおれ!」
「軍人まがいは引っ込んでいらっしゃい。格が違いますのよ、格が。おっほっほっほっほ」
「なにをぉおお」

 ふたりはアルウィンの初めてのあーんをしたくてしょうがないらしい。
「それなら、同時にもらうよ!」
 アルウィンはふたりの作ったクッキーと謎の厚切りベーコンを手にすると同時に口の中に入れた。
「ごぼぼぼぼ……」

 なんだか、片方の味だけ、おかしいことになっている。
 おいしいとアレをあわせると、珍味になるらしい。
 って、そんなこと考えている場合じゃなかった。

「おいしいよ……」
「当り前ですわね」
「本当かっ? 嘘をついているのではないだろうな。私は料理が下手なのだ」

 嘘をつかないって決めたし。

「アドロヴァの方は、味はあれでも愛情を感じたよ」
 アドロヴァは頬を染めて喜ぶ。
「やったぞ、アルに褒められたぞ!」
「偽りではありませんが、悲しきかな。味はあれだそうね。私のも愛情を感じたでしょう?」
「そうなことはないぞ、アドロヴァ中尉の厚切りベーコンだけに愛情が感じられたのだ!」
「えーと、どっちもか――」
「それはだめです!」
「それはダメだぞっ! 引き分けはなし。どちらがおいしかったのか決めるのだっ!」

 苦悩。
 苦悩。
 苦悩。
 早く終わらせないと。

「ごめん……、アドロヴァよりもエレオノーラの方がすこしだけおいしかったかな」
「うふふ……」
「――ッ! こんなくだらないことには参加していられない。ばかアルウィンは知らんぞ。国へ帰る!」
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