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偽りの仮面【小説家になろう大賞2014 応募作】 作者: 

推敲前バージョン

第十七号 粛清の始まり

 一年前と比べて、オリジナルストーリーが増えています。
 推敲が甘いですが、締め切りまでに整えるつもりですのでよろしくお願いします。
 寒波がワカシーカ王都を襲っていた朝。
 近衛中隊が総統を自称する貴族の邸宅を包囲した。
 ほかにも、王都警備のための王国軍第四連隊が集結した。総勢二千人の包囲網であった。
 女王が警告する。
「聞きなさい、総統に仕える哀れな貴族たちよ。総統称する者はワカシーカを滅ぼす元凶です。王国最高議会による会議の結果、総統の権限を剥奪することに決定しました」
 この会議は共和派貴族を呼ばずに行われた会議であった。
 邸宅を警備する部隊が門を固く閉じ、女王側も彼女の周りを守った。
「総統にだまされていた者たちよ。投降しなさい。さすらば、その罪を不問とします」
 邸宅が騒がしくなる。
 総統はどうしているのであろうか。
一時(いっとき)待ちます。馬鹿なことを考えないように。周囲は完全に包囲していますわよ」

 ユーティライネンが女王に話しかける。
「予想はできていましたが、側近らはどうするべきか迷っているのでありましょう」
「総統を称する者は就寝中でしょう。この国における総統は、単なる各派閥の調整役に過ぎません」

 会話をさえぎるように門が開かれた。

「打って出る気かっ?」
 ユーティライネンが剣を抜く。

 彼らは投降を決意しようだ。
 両手を挙げて邸宅を出てくる。
 総統閣下に最後まで仕えようと思う者はいないらしい。西の帝国の総統に対する忠誠とは大違いだ。
「見るに耐えませんね。手のひらを返したような現象ですわ」
 敵とはいえ、主君同士だったのだ。
 下の者が裏切る行為を見るのはつらかったのかもしれない。ロンメルは思った。

 その頃、邸宅では。
「総統閣下。謀反です」
 総統閣下は寝起きであった。
「何だと! いったいどういうことだ!」
「女王の部隊が包囲しております。秘密地下道からお逃げください」
「くそ。どうせ、側近らは裏切ったのだろう。わしの考えが足らんかった。奴等は反逆者だ! 処刑だ!」
 忠臣は総統を連れて行こうとしたが、彼はその手を振りほどいた。
「もうよい、お前にひとつだけ仕事を与える。それが終わったら逃げよ」
「閣下!」
「わしには残された仕事がある」
 総統は正装を始めた。

 女王は白い息を後ろに流しながら、馬の上で最後のひとりを待っていた。
「総統を称する者は遅いですわね、彼に耐えがたき屈辱を与えたいものです……」
「できれば穏便にしていただきたいものであります、陛下」
 アルウィンが抑えた。
 その時。

 二階にあるバルコニーに総統が現れた。
 立派に着飾った勇士がそこにはあった。

「総統を称する者よ、投降する気になりましたか?」
 王女が声を張り上げた。

「愚かな王よ! わしは貴様なんぞに膝をつく気はない。そして、わしを裏切った者どもを許す気もない」

 総統の忠臣が足元の箱を取り上げた。
 バルコニーから消えた忠臣はすぐさま一階から出てきた。

 アルウィンとユーティライネンが王女を守ろうとした。
 忠臣は王女の十歩手前でその箱を地に置いた。
 そして、後ずさりするとふたたび邸宅に消えた。

「ロンメル! 取ってきなさい」
「はっ!」

 アルウィンは素早くその箱までたどり着くと、王女の馬の横へ持って行った。

「この箱にはなにが入っているのですか?」総統に問うた。
「我が側近らの裏切りと罪にまみれた過去の記録と証拠だ。それで粛清が思うように行くだろう」
 王女は驚いたような顔で箱を空ける。
 さらりと読み下した王女はそれが本物であることと、総統が王女にあてた文を見つけたことをアルウィンとユーティライネンに告げた。ユーティライネンが尋ねた。
「その文にはなにが書いてあるのだ?」
「気にとまった語句はありません」
 王女は答えなかったが、馬に乗っていないアルウィンは見上げたその先に文字を認めた。

 『殺せ』。

 総統は剣を振り上げて演説を始めた。
「王に忠誠を誓わぬ貴族が必要ないように我が側近らは裏切り者である。断固、生かしておくべきではない。内部対立ばかりしている国は五年以内に滅びる。ははは、ワカシーカは終わらなければならない。その罪を償え。存在していたことも愚かしい。わしは知っておるぞ、『エレオノーラ』! わしはすべてを知っているのだ。そして、死なねばならんこともなっ!」

 王女はアルウィンから弓を取ると、右手を差し出した。
 アルウィンは一本の矢を差し出す。
 彼女は弓に矢をつがえた。
 これまでかと思われるほどに引き続けると、ふと、すべてが終わったかのように力を抜いた。
 解放された矢はまっすぐ飛んでいき、そして総統の胸に深々と刺さった。

 総統はバルコニーに手をつく。
 黙って見守っていた兵士たちが息をのんだ。
 総統が射抜かれたのだ。
 彼は口をもごもごと動かすと、手すりから身を乗り出した。

 一瞬の間。
 アルウィンには総統が笑っているように見えた。
 そして、馬の呼吸さえも大きく感ぜられる世界で、総統の頭蓋骨が割れる音が大きく響いた。

 邸宅は制圧された。
 しかし、政治の実権が女王と王国最高議会に戻ったわけではなかった。
 相変わらず主導権は共和派貴族が握っていた。
 総統の死体は一週間にわたって放置され、一族はみな独房へと叩き込まれた。


「彼は貴族であった」共和派貴族と目されるリスト・ヘイッキ・リュティ議長がそう主張をした。
 粛々とした議場、そこは王国最高議会であった。総統のむくろが弔われたのち、女王は議会に召喚を受けたのであった。
「正統な貴族ではなかったが、それでも女王陛下の下した処罰はあまりにもひどいものであります」
「王を裏切り、民を苦しめ、国を滅ぼそうとした者に対して慈悲を与えるわけがありません、それが『王に抵抗する団体』の部下であってでもです」
「我ら『赤色貴族団』を愚弄なさいますかっ?」
「一方的なは武力を使うこともありうるのよ。王都を守る連隊は第四連隊だけ。ほかの連隊は一切の歩みを許されていません。その状況下であなたたちはなにをしようというのかしら?」
「――脅しなさるのかっ?」
「陛下は我ら忠臣を切り捨てるおつりか!」
「恐るべし事態だ、陛下」
 彼女は片手を宙に上げた。
「いま一度。この国の王である私、ハンナ・マルケッタ・ヒュートネンに誓いを立てますか?」
「我ら、貴族は家名を拝するときに誓って」
「いま一度、誓いなさい。そうすれば、総統を自称していた者に仕えていた赤色貴族団に加盟している者たちの過去の不正には目をつむりましょう」
 議員たちは動揺を隠しきれない様子で、
「不正? なにをおっしゃいますか、女王陛下」
「これを見てもまだそのような口が叩けますか?」

 御手によって掲げられた書。
 それは総統によって暴かれた共和派貴族の不正の数々であった。
 彼は共和派貴族として関係を深くめることで手に入れた情報を事細かに記していたのであった。

「閲覧なさいますか。そうすればすべてが明瞭にわかるのですよ」

 議員のうちでも意見が割れているようであった。
 耳を寄せ合い、考えを巡らせていたようであった。

 そんな中起立する者があった。
「陛下! 私は陛下への忠誠を誓います!」
「女王陛下よ、永遠なれ!」
「我らは陛下と死をともに致す覚悟がございます!」

 勇士を見た共和派貴族たちもしぶしぶ宣誓を行った。
 微笑を浮かべながら、
「これでよろしいわね……」

 議員たちは次々に署名を行っているなか、女王は考えていた――

 私が思うに。
 彼らの黒幕は北の帝国の書記長であって、共和派貴族を粛清すること自体に意義はない。
 北の帝国に攻め入る口実と機会を与えるわけにはいかなくってね。

 署名が終わったみたいね。

「陛下! 我々は忠誠を誓いました。忠義に対して報いるのが王の務めであると、僭越ながらも考えます」
「その通りだと思うわ。それで……、あなたたちはなにを望むのかしら?」
「我ら赤色貴族団は、大防衛線構築を女王陛下に具申いたしまする。各領主にはすでに連絡済でありまして、国境線全体に防衛線を建設し始めております」
「これが完成すれば、北の野蛮民族どもに頭を悩ます必要などございませぬ。陛下、ご英断を」
「ご英断を!」
 女王が合図をする。たちまち、彼女の横にアルウィンが現れた。
「そやつは、確か……」
「白戦争の英雄だよ」
「まだ、若いではないか」
 アルウィンが壇上に上がる。
「えへん。あー、近衛中隊副官アルウィン・ロンメルであります。貴族の方々が御考えという、大防衛線構築の計画でございますが、資源も時間もないワカシーカには実現不可能であるのは明白でございまして……」
「陛下! このような場に平民を連れ込むなど、由々しき事態でございます!」
「そうでありますぞ、先代陛下もこのような」
「――恐れながら。楽天家の女王陛下でさえも共和派貴族が進める大防衛線を国境線上に構築するという計画に対しては、否定的な考えをお持ちでございます。要塞群は消極的で、攻勢を取る際には役に立ちませんし、守勢にも、要塞群の一か所を突破されれば、すべての要塞群が無意味になるからであります。当初、陛下はこの計画を中止させようとしておられました。もちろん、ユーティライネン近衛中隊長も私、ロンメルも大防衛線計画は無意味だと、女王陛下に強く具申いたしました」
「貴族だけでなく、民の多くも戦争を望まない」議長が言った。
「もちろんであります。陛下は他国への抑止力ともなる『大防衛線構築に関する計画』を承認なさるおつもりであります。それと平行して『食糧自給率向上計画』を実施するにあたって、貴族の方々に協力を願いたい。飢餓に苦しむ国民を救うためであります」
「具体的に、なにを、どうやって、どこが対策をするのかね?」
「一例を挙げますと、農具に軍用の良質な鉄材を使用して、耐用・作業効率を上げることを図りたいのでございます。農具は無償で農奴に配り、その間、王国軍の武器製造は停止するよていであります。堤防建設計画も実施予定でありまして、これにより休閑期の農業従事者の仕事を確保できると考えます。予算に関しては宮廷費からねん出することとなっております。あとは王国最高議会のみなさんのご英断をお待ちしております」
「それだけではないだろうに……」
「――そうであります。ほかにも陛下は考えを巡らせておりますね」
「宮廷費から支出されるのであれば、我々貴族が反対するいわれはない。陛下の御計画に反することがございましょうか、いや、ありますまい」
「女王陛下、永遠なれ!」
「女王陛下、万歳!」

 議場に賛成の嵐が吹き荒れた。
 議案は過半数以上の賛成により可決され、声援に答えつつも女王は次に内政改革の着手を宣言した。
 拍手を背に浴びながら女王が議場を退出した。

「命欲しさに手のひらを返したような賛成、ですか……」
 王女はふともらした。つづけて、
「義務とは権利です、そう思いませんか? ロンメル小隊長?」とアルウィンに話しかけた。
「義務をまっとうした者に権利が与えられるものだと存じ上げます」
 アルウィンの言葉はまだ、議場の影を引きずっていた。
「義務も権利も初めから同時に存在するもの。義務すら権利であるのです」
「どういうわけでこの話を?」
「ふと思い出したのですよ。ただ、それだけです」
「そうでありましたか……」
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