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偽りの仮面【小説家になろう大賞2014 応募作】 作者: 

推敲前バージョン

第九号 評議会

 前軍司令官が更迭されたのには、ほかにも理由があった。
 舞台は評議会の講堂である。
 上座に王女が、それに向かうようにして七つの席があった。
 ひとつだけ空いている。

 そこへある男が乱暴に座った。

 ワカシーカ王国には評議会が存在する。

 七名の評議者がおり、すべての評議者が賛成した場合のみ、改革が行われる。
 改革とは、現行のしきたり等を変えるなどの事案である。

 評議者は軍司令官と管区の行政長官を兼ねている。

 北方軍司令官が更迭される前は、

 地方には、共和派貴族三名。騎士道派貴族一名。
 王都には、王党派貴族二名。騎士道派貴族一名。

 全体では、共和派貴族が三名。騎士道派二名。王党派二名。

 共和派の決議は反対多数で否決されていた。
 もともと合議制であるため、一名でも反対すると議決はうまく進まない。

 元軍司令官の平民党用の件以来、王女はある計画を実行しようとしていた。

「……満足ですか? 貴族を代表し、統括しようとする者よ」

 王女は回りくどい言い方をした。

「総統と呼んでくれたまえ、エレオノーラ王女」
「言葉は大切です。そのようなで呼ぶことはできません」

 総統と自称する者は手をひらひらとさせた。


「細かいことは気にしないたちでな」

 評議者たちはいら立ちを隠せない者もいるようだ。

「評議者の規定に、いつから『平民』も認めるという条項ができたのか説明を受けたいもんですな」
「そうですな」

 青の服を着た者たちがそう嫌味を言った。

「評議者の規定に、『働かざる者は評議に参加すべからず』という条項ができないのが残念ですね、我らが総統閣下」

 赤い服を着た三人が総統をほめたたえる。

 そんな中、騎士のいでだち――その服はすり切れ、汚れているのだが――をした老貴族は険しい顔で評議を傍観していた。

「ルンテシュテット伯爵はいずこに?」

「またまた……。冗談が過ぎるぞ、公爵」

 赤の衣をまとった者たちは笑みを浮かべながら話していたが――

「私はいずれ王位を継ぐ者、王女を前にして臣下がおしゃべりを続けるとは何事ですか!」

 王女が怒りをあらわにした。

 前回の評議会では、北方管区の貴族に王党派を据える代わりに、王都管区の王党派貴族一名を王党派貴族一名に据えかえるという

事案が通ったのだ。
 そして、ルントシュテット伯爵の席には総統が落ち着いた。

 現在の勢力は以下のようになっている。

 地方。
 共和派貴族三名。
 王党派貴族一名。

 王都。
 王党派貴族一名。
 騎士道は貴族一名。
 共和派貴族一名。総統。

 全体。
 共和派四名。
 騎士道派一名。
 王党派二名。

「これが今回の議案です。回覧してください……」

 評議者たちは驚きの声を上げた。

 これまでは王都と地方において、行政の格差がなかった。
 ここにいたり、王女は地方と王都を分離することを評議会にに宣言した。

 事実上、王による地方の統治体制は崩壊していたのである。
 地方貴族の統治を委託することにより、王政の負担を減らし、直轄領の支配を固める方針に出たのだ。

 これにより、地方は貴族たちに分割されることになるであろう。
 王都は共和派貴族による反対で改革が進まなくなる。

 王女はどうするつもりか。

「我々に異論はない」

 共和派貴族は賛成の意を示した。

 騎士道派のボック公爵は苦々しい顔で賛成の意を示す。

 最後に王党派貴族が賛成し、評議が終わった。

 王女が退席する前に総統とその取り巻きが部屋を出て行った。

 公爵はぽつり。

「ワカシーカにもいつから共和派がはびこるようになったのだ。飢えた狼どもめが」



 しばらくして北の帝国は、外交使節団をワカシーカ王国に送り、ワカシーカ王国内の共和派貴族を分離独立させるように要求した


 あまりに無礼な要求に対し、列席していたワカシーカ王国王党派貴族が、使節団の一人を切りつけるという事件が発生。
 幸運にも外交官は軽症で済み、切りつけた貴族はどさくさにまぎれて消えた。

 そのため、最高議会議員たちは一安心した。
 犯人は消えたが、平民から替え玉を出せばよい。
 金に苦しむ父親は多い。
 金を出す代わりに死んでくれと頼めば、拒む農奴などいない。

 だが、事件後すぐに、王女や王国最高議会の一部の者は、切りつけた者が共和派貴族だと見破った。
 斬られた外交官はなぜか、暑い日であるにもかかわらず、厚手の服を着ていた。
 王女は、服の中に防具を潜ませていたのだろうと考えた。北の帝国はこの自作自演の事件を口実にして攻めて来るだろうと予想し

た王女は、新任の北方方面軍司令官に戦時体制に移行するように命令した。

 新任の軍司令官は、この命令が総統大本営のものではないために実施を先送りにしていた。
 外交官が切りつけられてから、僅か三日後。
 王女の予想通り、北の帝国は宣戦を布告。しかも、その通知が王宮に届く頃には、帝国軍がワカシーカ王国領になだれ込んでいた



 前軍司令官は、旧態依然な王国軍を抜本的ではなく、穏便に改革してワカシーカを救おうと考えていた。
 しかし、逆に事態を悪化させてしまった。
「この百年の間で一番の名将。我が国で、その名を知らない者はいない。そう! あいつが、我が軍にいたらな! どんだけ戦争が

楽になるか想像も付かん!」
 北の帝国の書記長は、紛争中毎日のように(わめ)き散らしていた。
 ワカシーカ王国内での前軍司令官の評価と地位は低いが、北の帝国にとって、彼は大きな抑止力となっていた。
 彼の左遷を間諜が書記長に知らせたことにより、北の帝国は開戦を決意した。
 皮肉なことである。
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