第十九号
陽子は目を擦って階段の先をうかがっている。
暗くて、よく見えない。
「ダンダン、だれか見つけたか?」
息を殺してそう尋ねた。
「いないよ。ダンボールの目でも見つけられない」
陽子は肩を落とした。
廊下を進むと、行き止まりに窓があった。
そこから外をのぞく。ダンボールにものぞかせたが、だれも見つからなかった。
「いったい、なにが起こっているんだろうね……」ダンボールはいつもと変わらない口調で話している。
陽子は廊下を引き返した。階段をダンダンに調べさせた。
だれもいない。
龍之介がいる部屋も通り過ぎ、行き止まりにぶち当たった。
外を確認する。
だれもいない。
「悪魔祓いの祈祷師達はどこに行ったんだぁ?」
「嫌な予感がするね。実はぼくたちの行動が、すべて見透かされてるんじゃないかな?」
彼女はきょとんとした。
「どういう意味だぁ?」
「つまり、ドラグンとヨウちゃんをばらばらにする作戦なんじゃないかってこと……」
陽子が大声を出す。
「もっと、早く言わないといけないじゃないか!」
その刹那――
催涙弾が窓ガラスを破って廊下に打ち込まれた。催涙ガスが廊下中に広がる。彼女は咳き込みながらも得意の土魔法で壁に穴をあけ、ガスを外に出す。
「ヨウちゃん!」
「辺りを観察するんだぁ、敵はどこにいる?」
「ぼくを一瞬だけ、窓の外に出して!」
陽子は言われた通りに外へすこしだけ出した。そこへ炎が襲いかかる。
「あついよ」ダンボールの端がくすぶっている。
陽子は火を叩き消した。
「相手は一階から侵入しているよ。もしかしたら、ドラグンがいる部屋の床をくりぬいているのかもしれない」
「そうだね、急ぐよっ!」
彼女は二三歩歩いたが、たちまち、炎に襲われる。
土の壁で守った。
「祈祷師は階段を上がってきているみたいだね」
「そんなのんきなことを言っている場合じゃないよ、ダンダン!」
「のんきさ。相手が必死になっているということは、ドラグンはまだ敵の手に落ちていないということなのさ、手はある」
「そっか! ……それでどうすればいいの?」
ダンダンは低い声で言った。
「――廊下じゃなくて、部屋を通ればいいのさ。君の魔法があれば壁を破壊できる」
「でも。ママの部屋を壊すなんて……」
ダンダンは諭すように、
「それじゃあ、ママの隣の部屋までを破壊すればいいじゃないか」と言った。
「了解!」
廊下の両側に部屋があるけれども、龍之介がいる側の部屋に入った。そして、詠唱を始める。
「土の悪魔。荒ぶる怒りを体現する大地の力よ。壁四枚分を打ち抜く威力で、壁を破壊せよ」
陽子の指先から弾丸が放たれ、狙いたがわず壁を打ち抜いて行った。
陽子は間に合わないのではないかという一抹の不安を感じた。
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