第十八号 かも
四人がアルフ研究所へと向かった。
そのころ布団で寝込んでいた龍之介は、二階の窓から外を眺めていた。
陽子は龍之介の看病をしている。
飲み物と食べ物を運んで来た。
「う~~、ようちゃんだけ、ずるい。ぼくもドラグンのお世話したい!」
「それじゃぁ、陽子は向こうに行くから、龍之介君をよろしく頼むぞ。なにかあったら、大声で陽子を呼ぶんだぞっ!」
「わかった!」
陽子は部屋を出た。
廊下は薄暗く、先が見えなかった。龍之介の部屋の隣が陽子の部屋であった。
自室に入る。部屋の中は物が散乱している。彼女が持って来たダンボールに、サタンが憑依したからだ。
陽子を影が這っていた。
「ママはなぜ殺されちゃったの? 最後の言葉は、愛してるじゃなかった。愛していると言ったあとに……」
陽子が窓の外を見た。世界は闇に包まれている。
「もし、いま敵が攻めてきたら、どうなるのかなぁ!」
陽子は明るい声を出した。
「悪魔の力を借り受けているが、陽子はすぐに使い果たしてしまうぞぉ。あの程度の魔力では、足りない。足り――」
自信に満ちた呪文のような言葉を吐いていた陽子は凍りついた。彼女の視線の先には、なにか動くものがある。
侵入者。ローブを羽織って、杖を片手に持つ集団が別荘に迫っていた。
「龍之介君! 祈祷師が攻めて来たよ!」
いまにも泣き出しそうな陽子が龍之介の部屋に入ってきた。
「……そうか、戦力を二分する作戦か。だが、こちらに戦力はない。当てが外れたな」
最後の方は咳でかき消された。
「そんなことを言っている場合じゃないよ! ぼくを窓際に上げて!」
陽子がダンダンを窓際のテーブルの上に乗せた。
「うんうん。怖いね。五十人はいるんじゃないかな? 司令官殿、どうしますか?」
龍之介は体を起こした。
「僕はいつの間に陸軍司令官になったのか。……まぁ、いい。体調が悪いのはいつものことさ。彼我の戦力比では、この敵から逃れられない。一方面だけで五十人だろ。三方が、がら空きでもすぐに追いつかれる」
「殺されちゃうよ……」
陽子は泣き始めた。龍之介が首を振った。
「殺すつもりなら、たいまつをつけずに忍び寄るはず。別荘の反対側から来他方が有効的な奇襲になる」
「でも……」
「おやっさんたちが出て、時間があまり経過していないのに攻めて来た。殺すにしては、ずさんすぎる」
龍之介は布団から出た。陽子が止めようとしたが、聞かなかった。
「戦力比を見せつけて、投降させようとしてるんだ。サタン自身が言ってた。人間に憑依されたことは、いままで一度もなかった」
「だからなに?」
「サタンと敵対する勢力なら、悪魔の情報やサタンを捕虜にした方法に興味を持つのは、当然のこと。貴重な情報を得るためには僕たちふたりを生きた状態で手に入れる必要があるだろ?」
ガタガタ。
「ぼくたちふたり? 違うよ。ぼっちとぼくだよ! うわああん」
ダンダンが悲しみを表現した。陽子が涙をぬぐった。
「よぉし、陽子司令官について来い。脱出するぞ! 森の中に退避しよう!」
「ぼっちが、司令官だ!」
陽子は龍之介の肩を支えながら部屋を出た。
龍之介はダンボールをつかんでいるが、ふらふらしている。
「ぼっち! 絶対にぼくを離さないでね!」
二人は階段を下りる。龍之介は独り言を続けている。
「にしても、わからないな。助けを呼ぶべきか。……火でもつけようか」
「そんなことしたら、陽子のコレクションが灰になっちゃうよ!」
龍之介はため息をついた。
「この際、手段を選んでいる暇はない。奴らの狙いは、俺たちに電話をさせることなのだろう」
ダンダンが揺られながら話しかけた。
「電話してどうするんだい? 冷たい悪魔さんが来たら、祈祷師にとっては、悪い方向に進むと思うけれど」
「それが狙いなんだよ。僕らふたりを人質にして、武装を解除させ――」
「三人でしょ!」ダンダンが叫んだ。
「三人を人質にして助けに来た仲間を投降させる。彼らが僕たちにわかるようにして迫り寄っているのも……」
龍之介は黙り込んだ。
陽子が右を向き、無言で問いかけをした。
「そういうことか。ここにいる連中は戦う必要がない。三方もがら空きに違いない。投降させることが目的なのだから」
陽子はそうは思っていないようだ。
「時間的に考えるとサタンの探知圏内にいたにもかかわらず探知されなかった。ここにいる祈祷師は存在を消すんじゃなくて、そもそも霊力が弱いに違いない。だから、ここまで来られた」
「熱が出ているから、疲れてるんじゃないかな、ぼっち」
ダンダンは否定的だ。
「そんなことない! 龍之介君の言う通りだよ。ここで戦う。ふたりはこの部屋に入って。この部屋には窓がない。立て籠もろう」
龍之介はふらふらとしていた。
陽子をとめようとしたが無理やり部屋に押しこめられた。ダンボールはわめいている。
「ぼっち! しっかりして……」
陽子が龍之介の額に手を添える。
「あっち! 水!」
小さな袋に陽子が魔法で水を入れた。そして、彼の額の上に置く。
「龍之介君は、だいじょうぶだよ。サタンさんが直してくれるのだ。悪魔の棟梁なんだから!」
陽子は部屋の外をうかがっている。廊下にはだれもいない。
彼女はダンボールのもとへ行き話しかけた。
「ダンダン。陽子を応援してくれるか? これから、奴らを打倒す手助けをしてほしい」
カタカタ。
「う~~、ドラグンを守るためには仕方ないね。ひとりぼっちにしておくのは心配だけれど」
「よく言ってくれた。攻撃こそが最大の防御である、だろぉ?」
「そうだね。服司令官殿。ぼくたちが前に出て、動けないドラグンを助けないといけないのかもしれない。ダンボールには難しいお話だね」
陽子はダンボールを持ち上げ部屋の戸を閉めた。
そして、首にかけているひもを服から取り出し、鍵をかけた。
「この部屋はだれの部屋なんだい?」ダンダンは興味のなさそうな声。
「ママだぞ。この鍵を最後に手渡してくれたの……」
「そうなんだ」ダンボールの口数は少なかった。
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