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異世界でハーレムしてるけれど、まだチートに目覚めない僕にベリンダが振り向いてくれないっ!【小説家になろう大賞2014 応募作】 作者: 

第三章

第十七号 敵本土上陸作戦

 作戦はその日の夕方に開始だった。だが、龍之介は、
「激しく頭痛がする。俺は留守番で……」と言った。
 浪造が龍之介の額を触った。
「仮病じゃないの。本当に熱い」
「ぼっち! 大丈夫? う、うわぁああんん!」
 ダンダンが大声で泣き始めた。
涙は出ていないが。
「あらかじめ、翔が長野別荘から自宅に電話をかける予定だったろ」
「逆探知させて戦力を長野に吸引したのち日本支部に潜入する。わしの戦術は日本一じゃ」
「これじゃぁ、おやっさんの手が使えない」
「悪魔祓いの祈祷師達も馬鹿ではない。電話を掛けなくともすぐに気づかれるだろう」
 サタンは重苦しい声だ。
「それこそ、龍之介をひとりになんてできないよ!」
陽子の泣きそうな声。
「それじゃぁ、こうしようよ。龍之介君と陽子ちゃんは、長野別荘で待機。敵の戦力を吸引する作戦は延期して、今回は偵察任務とする。ほかに、ここで待機したい人はいる?」
 カタカタ。
「ぼっちと、ようちゃんと、いっしょにいる!」
 翔はダンダンをなでた。
「ご主人様をしっかり守るんだよ」
「うん!」
 リョウがため息をついた。
「……仕方ないな。副隊長は置いて行こう。三人を残すとなると殲滅戦はできないし、今回は延期にしよう」
「ぼくを人間扱いしてくれてありがとう。冷ややかな悪魔さん」
 リョウは答えなかった。一同はさっそく準備を始めた。
 忙しく動いている仲間を見守りつつ、龍之介は眠りに落ちた。


「……出発だ」
 リョウの合図で浪造がエンジンを掛ける。
軽自動車の甲高い音が森の中に響いた。森は闇が支配していた。

巷で怪しい企業とささやかれているアルフ製薬研究所。実態はまだわかっていない。
一時間で偵察を終わらせる予定であった。
「製薬会社を語った怪しい会社。それが世間の目であるが、実際には神を語り人心を惑わしている」
 サタンはダンボールの体で言った。
「それが真実かどうかはすぐに分かるじゃろう」
 翔がサタンを持って荷台に乗る。リョウも後に続いた。

 真夜中の国道は、前回と同じように車がほとんど走っていない。
東京に入った。
「三人が心配だよ」
「大丈夫だろう」
「――だいじょうぶとも限らない。相手が受け身の対策をしていなければ、危険だ」
 サタンが会話を邪魔した。
「この短時間の間に、敵も攻勢を取るとは考えられない」
「――サタンさん、能動的な行動をしていたらどうなるのかな?」
「戦力が二手に分かれたのだ。攻勢に出るならいましかないだろうね……」
「お前、いつもは偉そうなこと言ってるくせに、なんで、あのときに言わなかったんだ!」
「私は、人間を見守る存在。過度な接触をするのは、私の信条に反する」
「それとこれとは違うだろ!」
「すくなくとも、私の感じる範囲では、白魔法や霊力を感じなかった」
「そう言って、偽者にも襲われたんじゃねえか!」
「例えそうだとしても、いまからでは遅い……」
 彼らの行く末を暗がりが覆っている。

 すぐに目的地にたどり着いた。
 四人は近くの駐車場に乗り入れ、ここからは徒歩になる。

 アルフ製薬所は沿岸部に立地している。
当時、破産しかていた建設会社を買い取って、過疎化した安い土地に安い労働力で建設されていた。

 一行は壁に魔法の階段を作って敷地に入り込んだ。
「いや! 亡霊のまま入り込んだら、ひとたまりもなかったな。芝生の水は聖水だ……」
 夜でも水撒きが行われている。三メートル以上もあるかと思われる壁を乗り越えた彼らは。そうやって清められたのであった。
「本当に聖水か? なにも感じないぞ?」
「亡霊に効くのだよ。悪魔と亡霊は厳密には違うのだ。といっても、私のせいで勘違いする者が多いのだが……」
 ダンボールから声が聞こえている。
監視する者がいないとも限らない。
四人は警戒しながら進んだ。いざとなれば、魔法を使えるが限度というものがある。普通の魔法を工夫して使わなければ、すぐに魔力を喪失してしまう。

 四人はこそこそと敷地内を歩いていたが――
「お前たち、いったい何をしているんだ!」
 警備員だ。リョウは不覚を取った。
その瞬間に翔が氷の矢を放った。
警備員は服を壁に打ち付けられ身動きが取れなくなる。間髪入れずに水の膜で彼の者の口を覆った。警備員は突然のことで恐怖の顔つきで彼らを見ている。
「翔、サンキュー。サタン、いったいなにしてんだよ。お前の眼はすべてを見通すんじゃなかったのか?」
「悪魔祓いの結界の中では苦しいのだ……」
「頼りねーな。とっとと、建物に入るぞ!」
 リョウが先を進む。
厳重なセキュリティーのかかった扉があったが、扉の横の壁を見事に切り抜いた。浪造と翔の造形技術のおかげであった。
 中にはもちろん、だれもいない。
懐中電灯をつけ忍び足で歩く。
すぐに守衛室の前まで来た。警備員たちは気がついていない。
リョウは扉を開けた。
「風の悪魔よ、すべてを薙ぎ払え!」
あっという間に格闘術と合わせた風の魔法で全員倒してしまった。
彼らは警報ボタンを押すことなく床に伸びた。
翔がロープを取出し縛りあげた。
「だれかひとりがここで待機して、ほかの警備員に対処する必要があると思うね」
 さすがはサタンである。
翔が残ることとなった。
リョウと翔が別行動をとるのは珍しい。ふたりにはなにかあったのかもしれない。

「……サタン、どこへ行けばいいんだ?」
「深く深く日の当たらぬところ」
 浪造は無言である。地下へと向かった。

「だれも襲ってこないというのが不思議だな」
「これはいったい……」
 リョウが振り返る。
三人は橋のように向こう側に続くガラス張りの廊下にいた。広い実験室の中央を横切っているらしい。
「行くしかないだろ?」
 眼下には、実験体がたくさんある。
皮を引きはがされている動物たち。
宗教的な実験が行われているようだ。
「いつの時代でも人間は変わらないということだよ。興味深い」
 さらに奥へと進む。T字路があった。
リョウが持ち込んだガラス片で覗いてみた。明らかに警備員ではない者が写っている。
「いよいよだな、サタン。向こうの部屋になにがある?」
「実験結果。大型計算機――君らが言うコンピュータというやつかね?」
「了解。それを調べれば、なにかわかるのか?」
「もちろん。娘さんのことも検索したら、出ると思うよ。おそらく彼女は元悪魔祓いの祈祷師。浪造君のところへ逃げてきた。そうだろう?」
「うむ、よくわからなかった。家を出て行ったのに、ふたたび帰ってきたのじゃ」
「陽子ちゃんは、血のつながったお孫さんかね?」
「それは真実だ」
「早くぶっ潰そう」リョウは興奮しているらしい。
「――やめておけ。いまの戦力では勝ち目は薄い。また、ここへ来ることがあれば、そのとき、見るとよいだろう」
「来ることがあれば?」
 T字路の前方から、祈祷師が攻撃を仕掛けてきた。氷の刃――
 浪造が炎の壁を展開して溶かした。リョウが叫ぶ。
「退却!」
「君にしてはあっさりだね」リョウのわきに抱えられたサタンが言う。
「彼我の戦力を見分けられない隊長は、クソだよ」
「……お話はそこまでにして、わしを助けてくれ!」
 炎の攻撃。
涼介は烈風を繰り出して食い止めた。
「翔の水魔法が必要だ。急ごう、爺さん」
 浪造は期待を裏切らない。
「わしは、爺さんじゃない! おやっさんと呼べ!」
 浪造がリョウの後を追いかけた。
「おやっさん、意外に早いな」
「毎朝鍛えておるからのぉ。若いもんには負けぬ!」

 守衛室が見えた。爆発が起こっている。
「翔も襲われていたのか。罠だったんだな、クソ!」
 翔は水の壁を作り祈祷師達の接近を許さなかった。
翔がふらふらと片足をついたとき――
「愚かなる悪魔の手下ども。ちりさえ残さぬ烈風で吹き散らせ!」
 翔の眼の前の祈祷師が、空気のかたまりを受けてはじけ飛んだ。
「……そうか、涼君が来たんだね」
 倒れこむ翔をリョウが抱えた。祈祷師たちはしつこく攻撃してくる。
「おやっさん、急げ。早く逃げるぞ。お前の力で通路を封鎖しろ!」
「お前扱い……」サタンはつぶやいた。

 浪造はリョウの命令に答えなかったが、通路の天井を破壊した。がれきの山を取り除こうと祈祷師たちがあがいているのが見えた。
 浪造はがれきの山に煉獄の魔法をかけて焼き固めた。

 四人は切り傷だらけで、芝生を突っ切った。
「私がふにゃふにゃになってしまうではないか」
 サタンが嘆く。

 彼らは車に乗り込んだ。浪造はすぐさまエンジンを吹かす。
「祈祷師も甚大な被害を受けている。人通りの多いところを進め。迂闊に攻撃できないだろう」
 浪造の横に座るサタンが言った。
「ほい!」

 車が発進する。
翔は意識を戻さない。
リョウは翔の両手を握りしめていた。
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