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異世界でハーレムしてるけれど、まだチートに目覚めない僕にベリンダが振り向いてくれないっ!【小説家になろう大賞2014 応募作】 作者: 

第三章

第十六号 乗り移るサタン

 車は国道を走っている。リョウが運転席後部の窓ガラスを割った。
「きゃっ」
 陽子は小さな悲鳴を上げた。
「高速に乗った方がいいだろ。早く着く」
 浪造は前を向いたまま答えた。
「おぬしらが乗っておるうえに、軽ではエンジンが火を噴く。長野じゃから、地道で()く」
 涼介は後ろに戻る。
「エンジンが火を噴くって……」
龍之介は船団の夢を思い出した。
 夜明け前の国道はトラックがときどき走っているだけ。ほとんど車は走っていない。
翔とリョウが横で議論を交わしている。
耳元を風が切る。
「敵を叩かない限り、奇襲攻撃を受ける可能性がある。敵の準備が十分であると、今回と同じでサタンの力封じられる。だから、敵の本拠地を攻撃する必要がある」
大声でリョウが言った。
「彼らが僕たちを襲う理由も、わからないのに?」
「……浪造は、娘を殺した者を見つけることを諦めないと思うけどな」
 彼らの後ろを街灯の光が追いかけていた。


 昼前、長野別荘に到着した。すぐにふとんをかぶる。
「さっきまで寝てたから眠くない!」
と言い張った陽子はすぐに寝息を立てている。
 龍之介はダンダンを連れて、ベランダへと出た。必要のない見張りを買って出た。
「敵は我らの基地をすぐに攻撃してくると思うか、参謀長?」
 カタカタ。
「来ないと思うよ」
「根拠は?」
目が充血してる。龍之介は思った。睡眠不足の独特の重さが襲っている。
「ぼくたちがへとへとの時に、敵が攻めてくるはずがないさ」
「それを希望的観測と言うんだ。ダンダンにはわからないかな?」
「わかってるよ。でも、ぼくの目は人間よりもいい。この一帯には、人なんていないよ」
 龍之介は伸びをした。別荘を囲んでいる森をながめつつ、
「なぁ、ダンダン。……参謀長は、この戦いに我らが勝てると思うか?」
「――勝てるよ。信ずれば勝つ。こちらにはサタンさんもいるんだ。直接話したことはないけれど、サタンさんの膨大な魔力を感じる。ぼくを信じて、ぼっち。君もできる子なんだ」
 龍之介の視界がが一瞬揺らいだ。
「僕は出来損ないだ。なにもできない」
「未来の艦隊司令官なら、できないことなんてないさ!」
 ダンダンはパタパタをした。
「……そうかもしれないね」
 朽ちた手すりをいじりながら龍之介はつぶやいた。


 監視者、龍之介。
 舞台、長野別荘。
 太陽、没失。

「やっぱり、敵の本拠地に突撃して、叩いた方が早いんじゃないか? 俺は戦略というもんがよくわからん」
 リョウは翔に尋ねた。
「サタンさんは、どうにかならないの?」
「あいつが悪魔である以上、雄鶏の鳴き声を聞くと動きが制限されるのは、どうしようもないことらしい」
「サタンさんの体が問題なんじゃないかな。別の体に転生したらどうかな? 悪魔以外の……」
「なにを言ってんだよ。そんな訳ないだろ」
 しばらく黙っていたリョウは大声を出す。
「ほんとか、それ!」
 疑い深い声。
「そう言って、逃げる気だろ」
 どうやらリョウはサタンと会話をしているらしい。
「好きって……、気持ち悪いんだよ。吐き気がして来たぞ。いっそ悪魔祓いに成敗されたらどうだ」
「人間は死んだら消える。お前もそれでいいじゃないか」
「天国なんかないよ。死んだらなにも残らない。天国があるとしたら、天国は人でいっぱいだよ。満員天国になる」
リョウは顔に笑みを浮かべた。
「いったい、どういうことなのかな、涼君?」
「――まっ、使えなくなったら、それはそれで!」
「……陽子の見つけたダンボール、『ケー・ロク・エー・エフ』に乗り移るんだそうだ。そうすれば、雄鶏の鳴き声に悩まなくても済むらしい」
「亡霊に憑りついているだけで、別の物に乗り移れば、雄鶏の鳴き声に苦しまないってこと?」
「いまさら、だよな」
陽子がぶつぶつ。
「呼び捨てにされたぞ。地球人と呼んでほしかったのに……」
「よし。行け、サタン!」
 その刹那、リョウの身体から禍々しい黒い光が発生した。
気体のような黒い光は吸い込まれるようにして、陽子のダンボールに入って行った。ダンダンよりすこし大きい。
みんなは固唾をのんで、ダンボールが動くのを待ちわびている。が――
「ダンボールじゃ動けないね。もっと高等な物に乗り移れば良かったな……」
 リョウが身震いした。
「ダンボールがおっさんなのは、気持ちわりーから、もっかいやり直せ!」
 へこんだダンボールはおしゃべりをやめない。
「――君は相変わらず口が悪いな。皆様、申し遅れました。悪魔の棟梁だったサタンです」
「わしと年齢が変わらないのではないかのぉ」
「わぁあああ! ぼく以外にダンボールが話してる。だっ、駄目だよ、ぼっち。このダンボールは悪魔だ!」
 ダンダンはパタパタを繰り返す。「ぼっち」はというと、ダンダンの横で寝ている。
『ちょっ、幽体離脱じゃん……』龍之介はすこし恐怖を感じた。
「お前よりかなりでかいな」リョウがいじわるく言った。
「――大きいから優秀ってわけじゃないもん。ぼっちには、ぼくがぴったりなのさ。駄目だよ、ぼっち!」
 パタパタパタパタ。
「すごいぞ~。ダンボールが二体話し出した。もう、さいっこう!」
 陽子は舞を始める。
「これはすごいね。僕も勉強になるよ」翔はメモを取りだした。
「お前ら……」リョウがあきれたような声で言った。

 作戦会議はお開きになった。
みんな、サタンに興味津々のようだ。
「だっ! めっ! 悪魔の言葉に、だまされたらいけないよ」
 ダンダンが、サタンとの会話を妨害しているらしい。
「ダンボールの知能は、その大きさに比例するようだね。大きい方が、計算速度と記憶力も大きくなるようだ……」
 ダンダンは、かわいらしくカタコトと体を揺すっている。
「地団駄を踏んでるぞぉ」
 そのさなか、龍之介は夢世界から離脱するのを感じた。

 目覚めた。
「……タイムラグ?」
 部屋の中がうっすらと明るい。陽がのぼりつつあるらしい。
雄鶏が高々とその声を響かせている。
「サタンさん、龍之介です。おはようございます、雄鶏の件は解決されたようですね」
「おや? 寝ていたのではないのかね?」
「私には全知全能なる神がついていますから」
「信新深いね」
サタンは動きを制限されていない。
「いよいよ、敵本土上陸作戦が煮詰まってきたじゃないか」
「そうみたいですね……」

 龍之介が全員分の朝食を作っていると、だらだらと起きてきた。
 リョウは戦いに乗り気である。サタンがどうしても、と命名した「敵本土上陸作戦」の決行日が近づいている。
 浪造とリョウはやる気満々だが、ほかの三人は作戦実施に懐疑的であった。
「涼君、リスクが高いよ」
 止めようとしてもリョウは話を聞かないだろう。龍之介は思った。
「個人的な恨みを晴らすための戦いには、気が向かない」

 内部に問題を抱えたままだが、一番参加に反対したのは龍之介であった。
「僕、足手まといになるから、いいわ。ここに残る」
「荷物持ちぐらいにはなるだろう。私を持ち給え」サタンは横柄な口をきいた。
 カタカタカタカタ!
「こら、悪魔! ドラグンはぼくだけを連れて行くんだ」
ダンダンが体を震わせている。
「そうだな、お前は荷物持ちだな」
 リョウが目を輝かしながら龍之介にウインクした。
「……荷物持ちって、僕の存在価値はそれだけなのか」
 まばゆい朝日がリョウの顔を照らす。
窓際のソファーに深く腰掛けた龍之介は、闇に落ちて行った。
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