第十五号 突然の敵襲
真夜中。
別荘の屋根には、ダンダン用の見張り台が建ててあるが、そこにダンダンはいない。
一階。
深夜アニメが暗い部屋を照らしていた。だが、彼らは見ていない。
「あぁ? なんだって?」リョウが寝ぼけた声で言った。
雄鶏の鳴き声が辺りに鳴り響く。
がばっと体を起こした。
「おい、サタン。なにか言えよ。お前がいないとどうしようもできないだろ。……ちっ、使えない奴だな」
龍之介は体を起こす。
リョウが布団から出て。窓の外を見た。
「――お前ら。敵襲だ。逃げるぞ。サタンの奴、雄鶏を怖がって、うんともすんとも言わなくなった」
翔と浪造はすぐに跳ね起きた。陽子は目を覚ましていない。
「あまり無理をさせるとな。俺がなんとかしよう」
リョウはみなを車庫へと急がせた。
唯一の免許保持者である浪造がエンジンを吹かした。
「こうなれば、敵に発見された浮上中の潜水艦と同じじゃな」
浪造は思い起こすかのような声で言った。この別荘には、作業用軽トラックしかなかった。
浪造と陽子以外は荷台に乗り込む。どうやら陽子が目を覚ましたらしい。
「ふわわわわわ?」
敵の攻撃を防ぐ役割を担うため荷台に乗った者たちが戦う準備をする。
ダンダンは、陽子の膝の上だ。龍之介が車庫のシャッターを開け放つ。
急発進し龍之介は置いてきぼりを食らうところであったが、翔が彼の手をつかみ回避された。
「久しぶりに車を運転するのぉ!」
その途端、つんのめるように、車は突然停止した。
「二で発進。すぐに四に入れるんじゃなかったかのぉ。がっはっはっはっは!」
「おやっさんの頭に奇数は存在しなかった……」
龍之介は絶望した。
「あのおっさん、本当に免許持ってんだろうな……?」
リョウが怪しんだ。
そんな彼らの事情に構うことなく、悪魔祓いの祈祷師らが立ちはだかる。
「我らにあだなす、嘘偽りを語る悪魔に、正義の鉄槌を下せ」
風が起こる。
「神を恐れぬ反徒を打ち滅ぼしたまえ」
翔の指先から水が噴き出す。
水と風の竜巻はすべてを吹き飛ばした。龍之介は傍観している。
「手練れか」
祈祷師らは、すぐに車で追いかけてきた。
「祈祷師が車を使うことほど、みっともないことはない気がする」龍之介はひとりでつっこみをいれた。
「――ここらは、目をつぶっても走られるぞ。昔はずっと遊んでおったからな」
浪造は笑い声をあげた。浪造は横を見ながら運転している。
「すごいよ、人間はすごいんだね!」
「ひゃっほーい! ヒーローの逃走劇だぞ。これは歴史に残る戦いだぁ」
寝起きの陽子も、はしゃいでいる。
「水の壁を! 業火にも負けぬ水の壁を!」
叫ぶ翔を龍之介はただ眺めているだけであった。
厚い水の壁が木々を取り込みながら形成された。
それにリョウの風の魔法が加わり氷の壁と化す。
祈祷師らが魔法をかける。
しかし氷の壁を貫けなかった。避け切れなかった車は衝突し大破した。
「ひ弱なお前も、こんなに成長したんだな」
リョウの言葉に翔が微笑んだ。
ひとりだけ不安な者がいた。もちろん龍之介である。
彼は身を低くしながらうしろを見ていた。
ときどき振り落とされそうになる。
両手が白くなるまでしっかり荷台をつかんでいた。
雲に包まれていた月が姿を現し、彼らの道を照らす。
荷台の前方に立っている翔の前髪を風が吹き上げていた。リョウは赤い長髪をなびかせ、口元に笑みを浮かべている。
「それもいい」
龍之介の冷や汗を風が奪っていった。他のなにかも拭い去ってくれるかのように。
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