第十一号 サタン恐怖する
「土曜、か……」
龍之介がこの異世界日本に来て一週間が経過した。今日も店主浪造を手伝っていた。
ようやく板についてきたというものである。
簡単な仕込みの作業をひとりで、できるようになった。会計と皿洗いテーブルやカウンターの各種物品補充などは、すべて龍之介が担当していた。
「いらっしゃい」
客がふたり来た。
高校生と中学生と思しき子どもが居酒屋に、親の同伴もなしに来ている。
龍之介はテーブルに座ったふたりの客の注文を聞くために席へと向かった。
背の高い方は店内でも帽子かぶっていたが――
「――っ!」
龍之介は叫び声をかみ殺す。
翔と涼介は向かいの店を見ていた。涼介が襲った店である。警察は単独犯を疑い始めているらしい。まさか、こんなところに犯人がいるとは思いもしないだろう。
涼介は顔をしかめた。
「うるさいぞ」
「……はい? お客様」
「ちょっと、涼君!」
涼は龍之介の質問には答えなかった。
「ご注文は以上でよろしかったでしょうか?」
「はい!」翔が答えた。
龍之介の顔も険しかった。
夢の中で出てきた人物が実際に目の前にいるからだ。
「夢を見てるんじゃないよね……」
龍之介が注文の品を運ぶ。
翔は会釈をしたが、涼介は鋭いまなざしで龍之介を見ている。
厨房に戻ろうとした龍之介を無愛想が呼び止める。
「サタンの娘って、知ってますか」
龍之介は驚いた。まともな言葉遣いができるのだなと。
「――ええ、知っていますよ。向かいの店を襲ったらしいですね」
あなたが襲ったのですよねとは言えない。
涼介は目を離した。
龍之介は肩の力を抜いて仕事に戻る。客席のメンテナンスをしていると、ふたりの会話が聞こえてくる。
「……結局、警察はあまり動いてないみたいだね。一週間しかたってないのに、何事もなかったかのような風景。シャッターも修理されてるし」
「それより、佐田がうるさい」
しばらく考えていた翔は言った。
「サタンさんのことだね!」
「――黙ってろよ。あんまり大きな声で話すな。それで、あの店員がとても怪しいんだとよ。佐田が喚いている」
涼介が翔に話し出した。
龍之介は背もたれの後ろに忍び寄り盗み聞きをする。翔が高い声で聞きなおした。
「まさか、怪しいやつなのかい?」
「よくわからんが、黒い光を発しているらしい。監視するか? あいつが悪魔祓い師だとは思えないが……」
涼介と翔は、翌日の早朝より龍之介を監視することに決めた。
すっかり日が暮れてから、ふたりは店を出た。
翌日、午前五時。
涼介と翔は店のある通りに到着した。路地に入り裏口を目指す。
通りはまだしも、一本中に入っただけで、町内の印象がかなり変わる。
ごみは散乱しているし、アスファルトの一部はコンクリートのままだ。水道管などの工事の際に、コンクリートを砕いて、終わったらアスファルトで固めるからだ。何度も何度も、アスファルトを敷いているためか、道はでこぼこだった。
「――どこがだよ? 馬鹿かお前は」
涼介は突然話した。翔は何事もないように歩いている。古い建物の前に着いた。
「ここだな……」
涼介は辺りを見回し、一階に小窓を発見した。
小窓は涼介の身長より高い位置にある。
涼介は辺りを見回すが、彼の肩を叩く者がある。
「涼君、はい」
「ビール瓶を入れるケースか。これなら大丈夫そうだな……}
彼は黄色いケースを踏み台にし、部屋の中をのぞいた。誰もいない。
彼は窓に手を掛けた。
それと同時に、ひとりの青年が倉庫へやってきた。倉庫の三割方は、常温保存の食材置き場になっている。青年はせっせこ働いているようだ。
「……俺にそんなことわかるか。お前が直接聞け」
涼介はぶすっとしたままである。
「もう、ふたりだけで話してないで僕にも教えてよっ!」翔は涼介の袖を引っ張った。
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