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異世界でハーレムしてるけれど、まだチートに目覚めない僕にベリンダが振り向いてくれないっ!【小説家になろう大賞2014 応募作】 作者: 

第一章

第四号 そして、現在に異世界に。

 さびれた町の路地裏で、大閃光が走った。
光が弱まると同時に、ひとりの学生が放り出された。
段ボールにぼっちと呼ばれている男子学生は低いうねり声をあげる。
「う~ん」もぞもぞと体を動かす。
「……今日は学年末試験の最終日だ。出席日数は確保したんだ、起きろぉ」
 しかし、彼が目を覚ましたところは、汚らしい路地裏のごみ箱の中であった。
「いったいここはどこだ?」
 学生はあたりを見回した。
ごみが散乱している。

「ちょっと、ホームレスのにいちゃん、ごみ箱の中で寝てるじゃん? 寒いし、お前、ダンボールを恵んでやれよ」
 通りかかった高校生のひとりが蔑むような声で言った。
 優しそうな高校生は、彼の近くに落ちていたダンボールを手渡した。
「ダンボールの方がまだましだと思いますよ」
「僕はホームレスではない。茅原龍之介だ」彼は不機嫌そうな声を出した。そして、
「ここはどこだ?」と尋ねた。
「……はい? 日本ですよ。東京です」

 龍之介は西暦と日付を聞いたが、高校生の言うそれと一致していた。
ただ時刻だけはすこし、彼の時計とずれていた。
 冷たい高校生は去って行った。
最後まで、ホームレス扱いだった。
「……タイムスリップではないのか。昭和の日本に来たような気がするけどなぁ」
 地べたに座る彼は、恵んでもらったダンボールを見た。
底はガムテープで固定されているが、上は(ひら)いている。
中を確認した彼はつぶやく。
「なにも入ってない……」その途端、
「ひどいじゃないか、ぼっち! ぼくを見捨てるなんて!」
 ダンボールがしゃべった。
上部がテープで固定されていないので、ふたをパタパタと動かしながら話しているのだ。
「むこうでは話せなかったけど、きみをずっと見ていたんだよ」
「お前はなんだっ? どうして、ダンボールがしゃべる!」
 嘆く龍之介は、
「ついに、引きこもりが悪化して、幻覚を見るようになったのか? ……ああ、所詮引きこもりの末路はそんなものか」
 太陽の光が雲に遮られた。
建物が密集しているので、辺りが薄暗くなる。
影に包まれる彼は立ち上がった。

「ぼっち、ぼくの話をよく聞いて」
「ダンボールは話さない。幻聴だ」
 龍之介は耳をふさいだ。
そして、ダンボールには見向きもせず路地を歩きだした。
「――待ってよ。ぼくは歩けないんだ。つれて行って!」
 ダンボールはぱたぱたをしている。
そんなダンボールを放置プレイにした龍之介は十メートルほどして通りに出た。
向こうを見渡した龍之介は、突然立ち止まった。
 視線の先には大きな工場がたくさんある。
煙突は煙をもくもくと吐き出している。
「量が多い。過去ではない日本。現在でもない日本。ここは……」
 彼は来た道を戻る。
「ぼっち! ありがとう。ようやくぼくの話を聞く気になったんだね」
「ここはどこだ?」
「日本だよ」
「ちがうだろ」
 落胆している龍之介が言い返す。
「ぼっちがもといた日本とは違うんだ。人間にもわかる言葉は……、うん、パラレルワールドかな? きみの世界と並行して、この世界も存在するんだよ」
「異世界ではないのか?」彼は質問を続けた。
 段ボールは悩んでいるらしい。「ぱたぱた」をふわふわと動かしている。
「むずかしい。ぼくは人間ではないから、わからないよ。たぶん、異世界でもあると思う」
「まぁ、いいか。お前は何者だ?」
 激しく動くぱたぱた。
「人間扱いしてくれるんだね! ぼくはダンボールさ」
 龍之介は眉間にしわを寄せた。
「そんなことを言われなくても、わかるよ。なぜ、ダンボールが、話せるのか、と聞いてるんだ!」
 区切って話した。
 ダンボールは龍之介の話を聞きながら、パタパタをする。
「――この世界に来たら、話せるようになったのさ。ここには魔法が存在する。地球でも、人間と同じように考えたりはしていたんだけどね。ぼくは引っ越しのためのダンボールとして、君の家に運ばれたんだ。覚えてる?」
 龍之介は頭を抱えこむ。
「……引越ししたな。確かに僕が捨てたダンボールだ」
 パタパタが激しくなった。
「そうだよ、ぼっち。ようやく思い出してくれたんだね」
 ダンボールの声は、先ほどより高い。
「ぼっちという呼び方をやめろ。悲しくなる」
 嘆く龍之介と喜ぶ段ボール。
「ところで……、なぜ、僕がお前を見捨てたと考えているんだ?」
 ダンボールはパタパタをやめた。
「全然ぼくに話しかけてくれないんだもの。引越しが終わったら、捨てたし」
「――そりゃ、引越ししたら捨てるよ。……被害妄想、ストーカー行為で訴えるぞ」
 ダンボールに聞こえないくらい小さな声でささやいた。

「ふぅ、ところで、ダンボールよ。君は、僕が異世界に召喚された原因を知っているのかね」
龍之介は急に気取ったしゃべり方を始めた。
「――それは、ぼくがきみをここに連れてきたからさ」
 龍之介の顔が蒼白になった。
言葉より先に手が出る。
ダンボールは、向かいの建物の壁に叩きつけられた。
「いたいよ! ダンボールもいたみを感じるんだよ。人間と違って自己治癒力もないから、どんどん、ぼろぼろになるんだ。わかっていて、そんな意地悪をするのかい?」
「あー、わかったよ。とにかく、俺を元の世界へ戻してくれ」
 ダンボールはパタパタを再開した。
「それは無理だよ。ぼくは、君のためを思ってここへ召喚したんだから……」
 龍之介は両手を上げて振った。
「なんで俺のためなんだよ。俺を思うなら、いますぐ、地球に、戻せ!」
 パタパタが激しくなった。
「ごめん、ぼっち。召喚装置が破損しました。起動できません。さっき、ぼくを壁になぐりつけたせいだよ。人間は、それをジゴウジトクと言うんだよね、せっかくだし、脱引きこもりを目指そうよ?」
 龍之介は頭を抱えて、うずくまった。
「終わった……。留年一回。ようやく、来年は高二になれると思ったのに。進級しなければ、強制退学になってしまう」
「死力を尽くして、落とした授業を受けていたのに」
「単位制の高校だからこそ、今年は進級確定だったはずなのに」
「引越しという難関を乗り越えて、試験対策も万全だったのに」
「……あぁ、なんか疲れた、死のっ」
 龍之介は、そばにあるごみ集積場にダイブした。
ダンボールを抱き枕にしている。
「ぼっち! うれしいけど、こんなとこで寝ちゃだめだよ。ねぇ、聞いているのかい……?」

 龍之介はダンボールの呼びかけに答えなかった。
ごみの間に深く身体(からだ)をいれこんだ彼は、眠りこそが平安とでも言いたげな顔をしている。

 夢は辛い現実を、ひしひしと思い出させる悪魔。
それでも、時間の進むのが早いのは夢の中だ。
人間は、現実より早く感ぜられる夢の世界に身を沈める。
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