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異世界でハーレムしてるけれど、まだチートに目覚めない僕にベリンダが振り向いてくれないっ!【小説家になろう大賞2014 応募作】 作者: 

第一章

第三号 十年前

 太陽がうっすらとその姿を現し始めたころ、ひとりの老人が精力的に働いていた。
店の前をほうきで掃いている。はす向かいの店主が老人にあいさつをした。
「おやっさん、おはよう!」
「おはようさん」無愛想な返事をした老人は店に戻った。
はす向かいの店主は嫌な顔ひとつしなかったが――
「っち、先代で潰れそうになった店を立て直した男は違うな。いつか……」

 店に戻ったおやっさんは仕込みを始めた。
彼がダンボールを開くと、激しく傷んでいる材料が顔を出した。
「――またか」
 老人はカウンターにある電話を取った。
店内の内装は古いがよく手入れされているらしい。
「……津田じゃ。また、痛んどるぞ! いったいなにを考えとるんじゃ!」
 老人は電話を右手に持ち替えた。
彼の顔が赤くなる。
「一部だと? 一部でも駄目じゃ! いい加減にしろ。いまからそっちに行くから覚悟しておれ!」
 津田は戸を開け放ち、その足で苦情を言いに行った。
裏口は開け放たれたままである。
 彼が店を出てすぐに――
別の男が店内に侵入した。
続いて、小さな悲鳴と怒声。
流ちょうな外国の言葉が流れ落ちた。
店の窓から閃光が走ったが、それが終わると、侵入者はさっそうと出て行ったのであった。

入れ違いに金髪の少女がやってきた。
少女は裏口が開け離れているのに気づいた。
「ツダさま、ツダさま。ベリンダでございます」
 返事はない。
「失礼しますよ!」
 少女は入った――
悲鳴。

別の少女の甲高く泣き叫ぶ声が辺りに響いていた。
べリンダというと建物から出てきた。
少女の左手は強く握られている。
涙を地に散らす女神は走り去り、二度とは戻ってこなかった。

 続いて、津田が戻ってきた。
彼は正面の戸に手を掛けたが――
開いている。
「……物騒な時代に閉め忘れたわい」
 店内に入った津田は、奥の物置の扉が開いていることに気がついた。
「なぜ、そこが開いておるんじゃ?」
 荒らされていた。
あわてて確認した彼の前に、惨殺された娘があった。
孫は体を震わせている。
「――ああ、わしはなんてことをしてしもうたんじゃ。娘の言うことを聞いておればよかった」
 警察が来る音。
「陽子! 何があったんじゃ」
 孫は口をきかない。

救急車はサイレンを鳴らしながらやって来たが、ふたたび動き出す時は、無音であった。
呆然とする彼を突然の雨が叩きつける。
 彼はいつまでも救急車が出て行った方向を見つめていた。
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