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キャッシュバックや本人確認はどうなる? MVNO2.0フォーラム
(2014/3/6 20:42)
「Nexus 5やiPhoneといったSIMロックフリー端末と組み合わせて利用できるようになってきた」――そんな現状分析を前に、これからどのような発展を遂げていくのか、いわゆるMVNOの将来を語るイベント「MVNO2.0フォーラム」が6日、開催された。
自前の設備を持つ、いわゆるキャリア3社(NTTドコモ、au、ソフトバンク)がMNO(Mobile Network Operator)とされる一方、そうしたキャリアから通信回線を借り受けて、安価なサービスやM2M(機器間通信)向けサービスなどを展開するのがMVNO、仮想移動体通信事業者だ。国内のMVNOは、日本通信のように専業で行っているところもあれば、IIJやNECビッグローブ、ニフティなどのようにISP(インターネットサービスプロバイダ)が手がけるケースもある。6日のフォーラムには、キャリア3社、そしてMVNO代表としてIIJ、NECビッグローブ、日本通信の代表者が集い、議論を交わした。
独立系のMVNO、シェアは4%
NECビッグローブ取締役執行役員常務の内藤俊裕氏によれば、国内のモバイル契約数(1億5097万件)のうち、MVNOのシェアは8%、1257万件に上る。ただし、このMVNOのシェアのうち51.4%(650万件)は、AXGP回線を借りるソフトバンクモバイルやWiMAX回線を借りるKDDIのように、キャリアがMVNOとして回線を借り受けているものだ。つまり、基地局を持たず電波も割り当てられていない、自前のモバイル通信インフラを持たない本当の意味でのMVNOのシェアは1億5097万契約のうち、約4%に過ぎない。
NECビッグローブの幹部であり、なおかつ、テレコムサービス協会MVNO委員会の委員長でもある内藤氏は、「MVNOの認知度不足」「ニーズの把握不足」といったMVNO側に責がある部分に加えて、政策的課題が解決されていない、と指摘する。前日の5日には、MVNO委員会として9つの項目にわたる政策提言を発表しており、提言の中で、現状はMVNOにとって不利な環境で、キャリア同士で回線を融通しあっているケース(MNOでもあるMVNO)への提供条件が不透明などとして、キャリアや総務省に対応を求める方針。MVNO側からの提言が採り入れられれば、好みの通信サービスと端末を自由に組み合わせて利用したり、コンビニや空港などでSIMカードを購入してすぐ利用できるようにしたりするなど、新たなサービスを実現できる、とアピールしている。
この提案に対して、今回、フォーラムに出席したキャリア関係者からの発言はなかったが、総務省では2020年代を見据えて、通信業界の競争を促す政策を見直す有識者会合「2020-ICT基盤政策特別部会」を設置しており、今後、そうした場で取り上げられる可能性がある。
海外の状況は?
三菱総合研究所の西角直樹氏からは海外におけるMVNOの状況が紹介された。
日本では約4%とされるMVNOの市場シェアだが、西角氏によれば、西欧では約11%、米国では約10%、オーストラリアでは約14%と、1割程度のシェアを獲得しており、日本市場の倍になっている。
西角氏によると、米国では、かつてはほとんどが格安MVNOで、シンプルな通話サービスを中心に、低所得者層、特定のエスニック層に提供されてきた。一方、近年はデータ系のMVNOが増加。もともと米国はSprintがMVNOに好意的な姿勢で展開してきたが、音声に続いてデータ通信でも積極的に展開。さらにT-Mobileも“親MVNO”にかじを切ったのだという。2012年にT-mobileは業績が悪化したものの、それでもMVNOビジネスは堅調に推移した。2013年はブランドが回復して業績は改善。MVNOも引き続き好調で、T-mobileの業績は全体的に伸びた。こうした状況から西角氏は、ブランド力の弱いMNOが卸売りで他のブランドと組むことで強みに転じられると指摘する。
一方、欧州は「MVNOの実験場の様相。乱立して淘汰されてきた」という。西欧のMVNOには、価格で勝負するところもあれば、トルコ人向けのサービスといったように特定のコミュニティ/民族に向けたMVNOもある。またVirginのような多国間にまたがるMVNOも存在する。ただ、競争が進んだ結果、最近では、ネットワークだけではなくITシステムやMNOとの交渉までアウトソーシングを活用して、自身は身軽になる“ライトMVNO”と、自ら交換局やユーザーを管理するデータベースを持ったり、電話番号の割り当てまで行う「フルMVNO」と、2極化が進んだ。
このほか、韓国では、かつてSIMロックを解除できないものが一般的だったが、2010年頃から制度が整備されて、端末の共同調達などを政策面で支援して、MVNOのシェアが、1%にも満たない状況から約4.5%まで伸長した。
欧州、ローミングに新たなルール
さらに欧州では、国境の行き来が多い中で、欧州委員会が新たなルールを策定。「国境を越えてデータ通信を安く使えるような仕組み」が2014年7月より導入されることになった。これまではEU内のユーザーが他国へ行くと、普段使うA社のローミングサービスを使うか、渡航先の現地事業者のSIMカードを使う、といった形だった。一方、7月からはA社以外のローミング先を自由に選択できる「デカップリング」と、データ通信ではA社をバイパスして、渡航先の通信事業者のネットワークへ直接繋がる「LBO(ローカルブレイクアウト)」という2つが、新しい制度だ。これはMVNOにとってもチャンスだと西角氏は語る。
乱れ飛ぶ“キャッシュバック”に苦言
基調講演に登壇した、ジャーナリストの石川温氏は、店頭での販売で、現状、MNP(携帯電話番号ポータビリティ)を利用すると、7万円、10万円ともされる金額がキャッシュバックされる、という状況を紹介する。
日本通信代表取締役副社長の福田尚久氏は、前職のアップル勤務時代のエピソードから「原価を割って販売するということは、その分を他のユーザーから補填するということになる。MNPでのキャッシュバックは、本当にそのユーザーから将来得られる収益を原資としているのか。そして景品表示法としても問題はないのか」と課題があると指摘する。
これに対して3キャリアが語った内容は以下の通りだ。
NTTドコモ経営企画部長の吉澤和弘氏
「キャッシュバックが積み増しされているのはMVNOを阻害する要因の1つかもしれない。3月は1年で一番の商戦期で加熱し過ぎている。本来の競争の姿ではなく、適正な競争条件にしていくことが重要」
KDDI 渉外・広報本部長の藤田元氏
「もちろん法律違反がいいわけではない。現状、キャリアはしのぎを削りすぎている、というのはあるかもしれない。商習慣もあって、いきなり(販売奨励金を)辞めると販売代理店への影響が出てくる。落ち着くところに落ち着かなきゃ行けない」
ソフトバンクモバイル渉外本部長の徳永順二氏
「キャリアの立場で、過剰に(販売奨励金を)払いたい会社はないだろう。しかし通信業界はスケールメリットがある分野で、パイを広げたい、という動機がある。今は年度末で過剰になっているところはあるだろうが、ビジネスなので、今後、沈静化、適正化するのではないか」
いずれも現状のキャッシュバックの在り方には疑問を示してはいるものの、すぐには辞められない、といった形だ。
本人確認、厳しすぎる?
基調講演で、石川氏は、「2013年夏にNTTドコモが実施したツートップ戦略を契機にメーカー側がこれまでのビジネスの在り方を再考し始めている」と説明。また海外取材で得られた知見として、空港でSIMカードが購入できる事例、あるいは家電量販店でモバイルWi-FiルーターとSIMカードがパッケージになって提供されている事例などを紹介。ソチ五輪での状況にも触れつつ、その後のパネルディスカッションで、日本市場は本人確認の手続きが厳しすぎると指摘した。
パネルディスカッションで、本人確認の在り方が取り上げられると、ドコモの吉澤氏は「プリペイドを含め、犯罪への影響があまりに大きい。本人確認は絶対に避けて通れない。どこでも販売できる、というのは、なかなかできないかなと思う」と否定的な見解を示す。ソフトバンクの徳永氏も「コンビニで簡単に契約したり、ネットでアクティベートしたりできるほうがいい。でも、犯罪防止とのバランスがある。広く議論してもらえれば」とする。
こうしたキャリア側の指摘に、日本通信の福田氏は「現状、本人確認は音声通話だけで、データ通信は対象外。かつて警察庁や総務省と協議した結果、データ通信回線を購入した後、ユーザーの持つ携帯電話に紐付ける形にした。これによる犯罪抑止効果はあったと思う」とデータ通信での対策を紹介。またインターネットイニシアティブ(IIJ)常務執行役員 ネットワーク本部長の島上純一氏は「もちろん今の本人確認の制度を辞める、という議論にはならないが、アプリでもコミュニケーションが取れるようになり、データ通信回線だけではなくWi-Fi経由でも通信できるようになっており、犯罪を防ぐ仕組みとして形骸化が進んでいる。その穴をどう考えるか重要」と指摘した。
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