March 6, 2014
アメリカではいま、大麻の社会的な受容への機運が高まっている。コロラド州とワシントン州では、2013年に嗜好(しこう)品としての大麻が合法化。また、アラスカ州やオレゴン州など多くの州で、嗜好用または医療用としての規制撤廃が検討されている。アメリカのオバマ大統領も、大麻の使用は「悪い習慣」としながら、アルコールより危険だとは思わないと語っている。
しかし、大麻が健康に与える影響についての理解は実際に進んでいるのだろうか。アメリカ国立衛生研究所(NIH)所長のフランシス・コリンズ(Francis Collins)氏によれば、10代前後から長く大麻を使用し続けると認知能力が低下する可能性が高いという研究がある一方、吸い込む煙が肺癌(がん)の原因になりうるかどうかは不明だという。「誰もがまず知りたいと思う情報が少なすぎる」と同氏は指摘。
そこで今回は、アメリカ国立薬害研究所(NIDA)のノラ・ボルコウ(Nora Volkow)所長に話を聞いた。
◆コロラドとワシントンで、大麻の所持と販売が合法化・・・
しかし、大麻が健康に与える影響についての理解は実際に進んでいるのだろうか。アメリカ国立衛生研究所(NIH)所長のフランシス・コリンズ(Francis Collins)氏によれば、10代前後から長く大麻を使用し続けると認知能力が低下する可能性が高いという研究がある一方、吸い込む煙が肺癌(がん)の原因になりうるかどうかは不明だという。「誰もがまず知りたいと思う情報が少なすぎる」と同氏は指摘。
そこで今回は、アメリカ国立薬害研究所(NIDA)のノラ・ボルコウ(Nora Volkow)所長に話を聞いた。
◆コロラドとワシントンで、大麻の所持と販売が合法化されました。どのような事態を懸念されますか?
特に若者の間で使用量が増加しないか注視しています。不安視されるのは、大麻製品の販売を目的とする産業が生まれているという事実です。使う人が増えるほど、販売業者の利益は大きくなります。売上を伸ばすために使用が奨励されるような事態になれば、問題が深刻化するおそれもあります。
◆最近、オバマ大統領が大麻をタバコやアルコールと比較する発言がありました。どちらも健康に良くないと言われながら法的には容認されている嗜好品ですが、大麻を同等に扱っても問題はないのでしょうか?
薬物の影響は、それぞれの薬物ごとに論じられるべきもので、その良し悪しを比較することは好ましくないと思います。喫煙は死亡率を高める最大の要因と明らかになっていますが、脳の認知機能を損なうケースはありません。
アルコールには知覚と動作の統合を乱す働きがあります。飲酒による自動車事故が多発するのはこのためです。また、行動がより衝動的になるという特徴もあります。一方、大麻には精神状態を鎮静させる作用があります。吸引すると動作が緩慢になり、学習能力や記憶能力が低下します。さまざまな経験や知識を身に付けなければならない若者たちにとって、このような作用は極めて深刻で、喫煙とは異なる重大な影響をもたらすことになります。
◆大麻の吸引による影響は、特に脳の発達という面で成人よりも10代の若者の方が深刻だという研究結果が多数報告されています。また、大麻が統合失調症の発症原因になる可能性についても懸念されています。一方でこのような研究に対しては旧来から、相関関係や因果関係を疑問視する声があります。現状をどのようにお考えですか?
難しい問題です。精神疾患との因果関係ははっきりしていません。統合失調症、うつ病、不安障害などに関する研究結果が示唆しているのは、元々これらの疾患を発症しやすい傾向にある人が大麻を吸引すると、その進行が早まり症状が悪化する可能性があるということです。
大麻の主な精神活性成分である9-THC(デルタ-9-テトラヒドロカンナビノール)を健常者に十分量投与すると、妄想症が発生する場合がありますが、通常その症状は一過性です。一方、統合失調症に対する耐性が低い若年者の場合、大麻摂取による精神疾患は慢性化する可能性があり、事態ははるかに深刻です。確かにこうした結果を見れば、大麻と精神疾患との間に関連性があるようにも思えます。しかし、その他の要因が関与している可能性を考えると、問題はそれほど単純ではないのです。
◆NIHのフランシス・コリンズ所長は先日、大麻の吸引と肺癌との関係についてより詳しい研究が必要だと発言しました。一方、大麻の使用者が肺癌になるリスクは喫煙者に比べるとはるかに低いという研究結果も報告されています。肺にはどのようなリスクがあるのでしょうか?
その研究論文では、大麻を大量に吸引すると肺癌のリスクが高まる可能性が指摘されています。ただし、リスクが現実化するのは相当量を吸引した場合であって、通常の量であれば発症リスクは格段に低いと考えられます。
大麻を吸引すれば、THCの他にもさまざまな化学物質を同時に摂取することになります。肺に与える影響を考える場合は、その点を考慮しなければなりません。タバコを1日20本吸う人は珍しくありませんが、大麻は多くても5本程度です。肺に吸い込む化学物質全体の量はタバコの方がはるかに多いと言えます。
◆合法化された州での先行きについて、どのような見方をしていますか? 注視すべき点を教えてください。
大麻に接する人の数は今後増加していくでしょう。悪影響が生じる機会もまた増えると考えられます。これは、タバコやアルコールの場合と何ら違いはないのです。
PHOTOGRAPH BY JORDAN STEAD, SEATTLEPI.COM