韓国の朴槿恵大統領が日本の植民地支配下で起きた「3・1独立運動」の記念式典で演説した。慰安婦問題への対応を求めるとともに、「過去の過ちを認められない指導者は、新たな未来を切り開くことはできない」とこれまで同様日本の指導者の姿勢を批判した。 朴大統領は就任1年になる。 社会格差の解消を訴え、父親の正熙元大統領の成功にならって「第2の漢江の奇跡」を起こすと宣言したものの、就業率は60%前後で、特に若年層が低迷するなど雇用政策は難航する。輸出型の財閥企業は業績好調ながら、中小企業の成長による内需拡大には至らない。公約の柱とした福祉政策の充実も税収不足にあえいでいる。 目立った成果がないにもかかわらず、支持率は民主化以降の政権でも上位の50%台半ばを維持している。中高年を中心とした保守層にとって、大統領の求心力の源は何といっても対北朝鮮、対日本への強硬な外交姿勢だ。 弱腰になった途端、内政に目が向き、政権の不安定化を招きかねないとの気持ちも強いのだろう。安倍晋三首相との首脳会談は1度も開かれず、国際会議の場でも目を背け合う寒々しい関係が続く。 閣僚に続き、年末には安倍首相自身が靖国神社に参拝し、国会では慰安婦問題で旧日本軍の関与を認めて謝罪した「河野談話」の検証を求める動きも出た。先月の「竹島の日」の記念式典には昨年同様、内閣府政務官が派遣された。一連の日本の振る舞いが、原則を重視する大統領の妥協をますます難しくしているのも事実だ。 そうであっても、一衣帯水の隣国が、妥協すべきは相手の方だとばかりに自分の立場に固執したり、互いの尊厳を傷つけたりするような言動を繰り返していては、溝は一層深まってしまう。 両国のきしみの隙をつき、中国が韓国に急接近していることも見過ごせない。北朝鮮や中国の潜在的な脅威に対処するには、安全保障分野での協力が不可欠なことは米国の進言を待つまでもない。 日韓は民主主義の価値観を共有し、文化的にも経済的にもつながりが深い。今後、新たな火種になりそうな元徴用工の損害賠償訴訟判決などが控えるが、対話を通じて乗り越える道があるはずだ。 不信の連鎖で互いの国民感情は悪化していると言われるが、関係改善を期待する声や動きも芽生えている。来年に迫る日韓国交正常化50年の節目を両国民が祝い合うためにも、両国首脳は冷静に状況を見据え、歩み寄らねばならない。日韓関係の行方を世界が注視している。
[京都新聞 2014年03月03日掲載] |