2012年7月24日(火)

放射性物質の放出 冷却のさなかにも

井上
「東京電力・福島第一原子力発電所の事故はきのうの政府事故調の最終報告で、ひととおりの調査報告が出揃った形です。」
 

大越
「しかし、まだ分からないことばかりであることは、報告書そのものが認めているところです。
とくに、いつ、どこから、どんな理由で放射性物質が放出されたかは、どの報告書でも特定されていません。
そのなかで、NHKが取材を進めると、これまで放出源のひとつとされた1号機、3号機の水素爆発、そして2号機の大量放出だけでなく、原子炉を冷却しようとしていたその時にもすでに放出されていた事実が見えてきました。」

放射物質放出 冷却のさなかにも

福島第一原子力発電所2号機。
津波発生から3日後の去年3月14日夜から15日未明にかけて、さらなるメルトダウンを食い止めようと、原子炉に水を注ぎ冷却する作業が断続的に行われていました。
しかし…。

 

まさにこの時、大量の放射性物質が南向きの風に乗って、関東地方に流れていったことがデータで明らかになっています。
なぜ、冷却作業中にもかかわらず放射性物質が拡散する事態となったのでしょうか。


 

核心:知られざる放出

専門家たちは放射性物質の放出ルートを解明しようと、去年秋からその原因を探ってきました。
原子炉工学の研究者や原発メーカーの元幹部。
さらに福島第一原発で働いた経験を持つ技術者などが集まりました。

「水位が下がって、逃がし安全弁(SR弁)を開いて。」

専門家たちが注目したのは注水を行う前に行った”ある作業”でした。
原子炉内に水を注ぐには、まず内部の高圧の蒸気を抜かなくてはなりません。
そのために必要なのがSR弁と言われる弁の開放。
この弁を開け…。
格納容器の下にある圧力抑制室と呼ばれる部分に蒸気を逃します。
この蒸気とともに流れ出てくる放射性物質の99.9%は設計上、圧力抑制室の水に閉じ込められます。
そして、外で準備をしていた消防車で原子炉に注水。
メルトダウンがさらに進むことを食い止めようとしていました。

当時の原子炉内の圧力の変化です。
SR弁を開けることで、圧力が変化していたことを示しています。



 

「この線、これがSRV(SR弁)3回とも開いているはず。」

3回圧力が下がり、注水が行われていたと見られています。
しかし…。
この時、圧力を下げる度に、福島第一原発の南側の放射線量がどんどん上昇していたのです。
午後9時20分ごろ。
SR弁を開け、原子炉の圧力を下げる操作を行うと…。
その南では、午後10時20分に1時間あたり7.95マイクロシーベルトを計測。
午後11時25分ごろに再びSR弁を開けると…。
35分後には95.7マイクロシーベルトに上昇。
15日未明に、再び開けたあとには、155マイクロシーベルトにまで放射線量が上昇。
原子炉の圧力低下と線量の上昇に相関関係があることがわかったのです。

放射性物質の放出を分析する第一人者・茅野政道(ちの・まさみち)さんは。

日本原子力研究開発機構 茅野政道部門長
「SR弁を開く操作と、線量上昇、風下との関係が、わりときちんとついているので、当然(相関している)可能性も考えられる。
それは新しい考え方としてあり得る。」

福島第一原発2号機 原子炉守るはずが…

2号機から漏れたと見られる放射性物質。
なぜ圧力抑制室の水に閉じ込めることができなかったのか?
メルトダウンが進むなかで起きていたある変化に議論は行き着きました。

原発事故対策の専門家
「サプレッションチャンバー(圧力抑制室)が沸いてしまった。
全部の蒸気がサプレッションチャンバーに入ったらあっという間に100℃になる。」

 

シミュレーションの専門家
「サプレッションチャンバー(圧力抑制室)の蒸気凝縮の能力が極端に落ちた。
完全には凝縮されないから、環境へのFP(放射性物質)の放出が増える。」

圧力抑制室は、電源を喪失し、冷却機能を失っていたため、原子炉から流れ込む大量の蒸気によって一気に沸騰。
放射性物質を吸着する能力が大幅に低下していた、と見られています。
残った放射性物質は格納容器に充満。
高い圧力に晒されていた格納容器の上部の隙間などから漏えいしたと見られています。
原子炉を守るための作業が、放出につながった可能性があるのです。

原発事故対策の専門家
「あの時はどうしようもないジレンマ。
大量の水を入れなければ炉心は冷えない。
また溶け出してもっともっと、圧力容器を破壊する。」

 

この時、関東地方に向かって、どれだけの放射性物質が放出されたのか。

日本原子力研究開発機構 茅野政道部門長
「1号機の水素爆発とくらべると、水素爆発が瞬間的なのに対して、この3月14日の21時以降というのは、継続的に高い放出率が続いているから放出量は、水素爆発の10倍から20倍とかそれくらいは出ていると思う。」

 

こうした指摘に、東京電力は?

東京電力 松本純一本部長代理
「これ以上放射性物質の大量流出につなげないというギリギリの線だったのではないかと思う。
放出した放射能濃度の評価状況について、これでまだ十分とは思っていないので、引き続き評価していきたい。」
 

これまで知られてこなかった、冷却中の放射性物質の放出。
専門家は、これ以外にも海への放出など、今後解明すべき問題が残っていると指摘しています。

日本原子力研究開発機構 茅野政道部門長
「これから炉内のどこにどういう線量があるかきちんと調べて、だんだんわかってくるので、まだ外側の外堀をやっと埋め始めたような状態だと思う。」

井上
「注水を行うために必要な作業が防ごうとしていた放射性物質の放出を促した可能性があるとすると、皮肉な結果ですね。」

大越
「事故原因の究明は、まだまだ終わっていないという思いを強くします。
大飯原発の3号機に続いて4号機があす未明フル稼働。
原発の稼働再開は進むが、事故の検証の手をこれからもゆるめるわけにはいかない。」

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