「21世紀の最先端は、東京でも上海でもシンガポールでもなく、神山にこそある」
――藻谷浩介氏(『里山資本主義』、『デフレの正体』著者)
◆若者とクリエイターが集まる奇跡の町、神山町の物語
IT(情報技術)ベンチャーの“移転ラッシュ"に湧く過疎地がある。徳島県神山町――。鮎喰川の畔に広がる人口6100人ほどの小さな町だ。
高齢化率は46%と、少子化と高齢化に苦しむ中山間地の典型のような地域だが、名刺管理サービスのSansanをはじめ9社が
サテライトオフィスを開いた。ヤフーやグーグルなど大企業の社員が短期滞在で訪れることもしばしばで、空き家として
放置されていた古民家が続々と姿を変えている。
その動きはオフィスだけではない。
移住者の増加に伴って、店舗や施設のオープンも相次いでいる。ここ数年を見ても、パン屋やカフェ、歯医者、パスタ店、図書館などが
神山MAPに登場した。アーティストやクリエイターなどクリエイティブな人材の移住も進んでおり、まさに町が新しく生まれ変わっている印象だ。
◆なぜ神山に集まるのか、その秘密をひもとく
神山には全国的に有名な観光スポットはない。自然環境や景観にしても、神山程度のところはごまんとある。
企業誘致に力を入れている自治体も枚挙にいとまがない。それなのに、なぜここにエンジニアやクリエイターが集まるのか。
ひとつは抜群のIT環境だ。その町並みからは想像できないが、神山は全国でも屈指の通信インフラを誇る。
県知事が情報化に熱心で、徳島県は県内全域で光ファイバー網が整備されている。その恵まれた通信環境がIT企業やコンテンツ企業を引き付ける。
それに、リフォームが必要な古民家は少なくないが、家賃は月3万円前後と都会に比べれば圧倒的に安い。徳島市内まで40~50分と
利便性も悪くない。場所を問わない働き方を模索している企業やビジネスパーソンにとって、神山は極めて都合がいい。
もっとも、ここまで述べたことは理由であって理由でない。なぜ神山に多くの人が引き寄せられるのか。
本書では、移住者や地元NPOグリーンバレーを通してその謎を解き明かした。
◆新しい働き方や付加価値創造のポイントが見える
メディアの注目度も増しており、NHKの「クローズアップ現代」やテレビ東京の「日経スペシャル・ガイアの夜明け」など、
全国的に知られる有名番組に登場する機会も増えた。2013年だけで、グリーンバレーの視察&取材対応は250件を数えたという。
現状、その多くはサテライトオフィスに焦点を当てているが、神山という場を通して見えるものはもう少し立体的だ。
例えば、企業や組織という視点に立てば、「クリエイティブを生む場づくり」というテーマが浮上する。
同様に、移住者のライフスタイルに着目すれば、「新しい働き方」が見える。
さらに、ここに至るまでの移住者の葛藤や、新たな人生に向かって再始動していく姿は、人生に惑う若者を勇気づける。
もちろん、サテライトオフィスなどの取り組みとプロセスが、地域活性や空き家再生のヒントになることは言うまでもない。
クリエイティブを生む場であり、働き方の実験場であり、人間再生の場でもある――。
神山の不思議な磁力は、この種の多面性が醸し出している。グリーバレーと神山の物語をぜひお読みください。