韓国における国民健康保険の保険料率は報酬月額の5.99%(2014年)と日本(組合健保の平均で8.6%、協会けんぽの平均で10%、2013年)より低いが、自己負担率は30〜60%(病院の規模、所在地などで異なる)と高い。OECD統計によると、2011年の総医療費に占める自己負担額の割合は37%で、OECD平均(20%)の約1.8倍、日本(15%)の約2.5倍である。

 自己負担率が高ければ所得の低い重症患者ほど苦しむことになる。高校生の子供を持つシングルファーザーの40代男性は10数年前から週3回、1日4時間の人工透析を受けていたため定職に就けず、アルバイトをして生活費や子供の養育費、治療費を工面してきた。11年、進行性の胃がんであることが判明。がんは胃から大腸にまで転移し何度も手術を繰り返し、現在は人工肛門を付けて寝たきりの生活を送っている。

 一家は生活保護を受けており、家賃のほか保険適用範囲の医療費は無料だが、保険適用外の手術・治療費の負担が合計480万ウォン(約46万円)あり、現在も未払いのままだという。韓国の病院関係者は語る。

「韓国の医療制度には高額な自己負担に加え、必要な医療行為が保険適用されない問題がある。例えばエコーやMRIなどの検査費用。つい最近まで、内臓にがんなどの疑いがあって医師が検査の必要性を認めても、それらの検査費用は全額自己負担だった。自費と聞いた途端に『もういいです』となってしまう貧困層の患者は多い」

 数年前からは一定の条件を満たした場合に保険適用される方向で制度改正が始まったが、がんや脳疾患など一部の重症疾患のみ認められるなど、その範囲はまだまだ狭い。

 ソウルで健康食品販売業を営んでいた30代男性は、事業が立ち行かず昨年春から農村部にある妻の実家に移り住んだ。日銭を稼ぐために工事現場で働き、妻は両親の農業を手伝い始めたが、収入はそれほど得られない。そんな中、2歳の次男が練炭で重度の火傷を負ってしまった。
 
 手術を受けたが、思うように歩けないなど深刻な後遺障害が残った。完治させるにはレーザー治療が必要だが、保険適用外のため施術・入院費用として800万ウォン(約76万円)かかると言われており、半年以上経った現在もレーザー治療を受けられないでいる。
 
 貧困ゆえ保険料を払えない世帯は増えている。健康保険料は収入に応じて変わるが、最低レベルの月1万ウォン(約950円)以下でさえ払えない滞納世帯は2013年で11万7000世帯にのぼる。この数字は年々増えており、2年間で27%も増加している。保険料から逆算すれば、彼らの月収は20万ウォン(約1万9000円)未満だ。

  韓国北東部・江原道の農村地帯で地域医療を担う中規模病院の看護師はこう証言する。

「この地域では10万ウォン(約9500円)以下の医療費すら出せない患者が全体の2〜3割に達している。入院患者が夜中にこっそり姿を消す事態も珍しくない。ある病院では昨年・一昨年の未払い医療費が6500万ウォン(約620万円)余りに達し、経営を圧迫している」

 必要な医療が受けられない庶民が増えるばかりか、医療を提供する「場」さえ失われようとしている。

※SAPIO2014年3月号